レビュー

ガンジスに還る(Hotel Salvation)

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おすすめ度

Hotel Salvation

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

インドの新鋭シュバシシュ・ブティアニ監督作。ベネチア国際映画祭などで評価されたヒューマンドラマ。ある日、不思議な夢をみて自らの死期を知ったダヤは、ガンジス川のほとりにある聖地バラナシで最期を迎えたいと家族に宣言する。家族は反対するが、息子ラジーヴが現地まで付き添い、同じような人々が終末の日々を過ごす「解脱の家」と呼ばれる宿泊所に到着する。安らかな死に向けて日々を過ごそうとする父ダヤと、環境になじめないラジーヴはことあるごとに小さな衝突を重ねるが、雄大なガンジスの流れとともに暮らすうちに、彼らの関係にも変化が訪れる。

 

言いたい放題

アイラ♡ インド映画というのはなかなか懐が深くて、本作のように滋味に富んだ作品にもなかなかの佳作が多いわよね。監督はアメリカで映画製作を学んだ若干27歳のシュバシシュ・ブティアニ。ユーモア感覚に満ちた若い感性で、インドならではの死生観を現代の家族模様を絡めて描いた本作はなかなかの秀作。

キット♤ ヒンドゥー教の聖地バラナシの名前くらいは聞いたことがあったけど、地図をみるとインドの北東部、ヒマラヤ山脈を水源とする河川がガンジス川となってベンガル湾へと流れ込むその途中の町。昔はベナレスとも呼んでたな。ここでは死者を川べりで火葬にして、灰をガンジス川へ流すということが普通に行われていて、そのすぐ横で沐浴や洗濯をしている人がいるという風景をテレビ番組で見たことがある。

♡ 知らなかったけど、ここには終末を悟った人々が「解脱」までの日々を過ごす宿泊施設があるのね。医療行為は一切行わない、ホスピスのような場所といえばいいのか、滞在は15日間までという制限はあるけど長期間住み着いている人もいて、その運営ルールは案外ゆるかったりもする。ともあれガンジスのほとりで最期を迎えたいという人々の受け入れ場所になっているのね。

♤ 死期を予感させる夢を観て、自分にもそのときが来たと思い込んだ父親のダヤは、急にバラナシへ行くと言い出して家族を困惑させる。ごく普通の会社員である息子のラジーヴが付き添っていくのやけど、父親はご飯も息子に作らせて態度も横暴。息子のほうも、不満げながら甲斐甲斐しく世話を焼いていて、ここは日本人の姿を見るような感じがした。息子に子供に世話を焼かせているのはダヤだけやったような気もするけど・・・。

♡ この親子のギャップはいまの私たちにもわかりやすい。息子といってもすでに50代くらい? PC普通に使って、スマホが片時も手放せない。食事もダヤは手で食べてラジーヴはスプーンで食べる。そこへラジーヴの娘が遊びにやってくるのやけど、20代後半くらいと思しき彼女はさらに輪をかけていまの子。世代ごとの特性の違いは世界共通なのかもしれないね。

♤ おっ!と思ったのが、バラナシへ行くのにダヤ親子がタクシーを使っていたところ。日本人の感覚では、遠方に行くなら鉄道か飛行機でって思うけど、先日初めてインドに行って、長距離の移動にはタクシーが便利で意外と安いと知った。

♡ 面白みのない風景が続くハイウェイを延々走るところなんか、妙に得心してしまったわよね。あと、バング入りのラッシーというのを娘が飲んでハイになってた場面。気になって調べたら、大麻か何かのペーストが入ったものだそうで、バラナシ名物なんですって。もちろんここでは合法! やはりインドってただ者じゃない。

♤ 異様に接続の悪いネットカフェのシーンなど、ところどころにコメディの香りがするけど、全体には真面目に淡々と話しが進んでいく感じ。そうしているうちに、「解脱の家」の長期滞在者のおばさんが解脱する。これで父親が死なんかったらどうなるのか心配になったけどな・・・。

♡ ガンジスの川辺で過ごすうちに、ラジーヴの心境も何かじわじわとほぐれてきて、父親との距離も縮まっていく。父は突然にして解脱のときを迎え、その遺体を担いで川へと向かう葬列は小さなお祭りのよう。ラジブも泣き笑いのような表情で踊りながら歩を進めていく。ここはほんとうにいいシーンだったし、ダヤは良い死を迎えたんやなぁと思うことができたわ。

♤ 「本人に死ぬ準備ができていないと死ねない」という感覚は否定しないんやけど、父親の死はちょっと都合よく行き過ぎな気がしないでもなかった。けど、そこはまぁええか。

♡ 大上段に構えることなく、若干27歳の監督は、現代インド人の死生観を鮮やかに語ってくれたと思うわよ。死期を悟るとはどういうことなのか、そうなれるにはどう生きていけばいいのか、そういうことはきっと自然に身体の奥底からわいてきて、受け入れられるようになるんだろうな・・・というか、そうであればいいなと思いながら観終えました。

 

 

予告編

スタッフ

監督 シュバシシュ・ブティヤニ
脚本 シュバシシュ・ブティヤニ

キャスト

アディル・フセイン ラジーヴ
ラリット・ベヘル ダヤ
ギータンジャリ・クルカルニ ラタ
パロミ・ゴーシュ スニタ
ナブニンドラ・ベヘル ヴィムラ
アニル・ラストーギー ミシュラ

レクタングル336

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