レビュー

アルツハイマーと僕 グレン・キャンベル 音楽の奇跡(Glen Campbell: I’ll Be Me)

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おすすめ度

Glen Campbell - I'll Be Meキット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

カントリーミュージック界の大御所であり、ビーチ・ボーイズの活動にも参加したグレン・キャンベル。2011年にアルツハイマーに患っていることを自ら公表した後も数枚のアルバムをリリースし、病が進行するなか、家族たちのサポートを得て全米を回る「さよならツアー」を敢行する。本作はツアーの様子に密着したドキュメンタリー。病気は進んでも、医師も驚くほど音楽の能力は衰えず、ユーモアと家族の愛に支えられてに精力的にツアーをこなしていく。ブルース・スプリングスティーン、ポール・マッカートニーらのコメントも交え、アメリカの国民的スターの最後の輝ける日々を追う。監督は『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』でプロデューサーを務めたジェームズ・キーチ。

 

言いたい放題

アイラ♡ 2019年は、ウッドストック・コンサートやビートルズの『アビー・ロード』発売から50年ということで、当時にちなんだ企画がいろいろ企画された1年やったね。タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』も1969年が舞台やったし。グレン・キャンベルもまさにこの時期にもっとも輝いていた一人やったわ。

キット♤ この映画を観るまでグレン・キャンベルという人を知らんかったけど、アメリカでは誰もが名前を知っているくらいの国民的スターやってんな。もともとはドキュメンタリー映画『レッキング・クルー』にも出てくる凄腕のスタジオミュージシャンで、ビーチボーイズのツアーやレコーディングにも参加。ナット・キング・コール、モンキーズ、エルヴィス・プレスリー、フランク・シナトラなどのレコーティングを支えた。スタジオミュージシャンの多くがバックバンドの一人で終わったのに、彼はソロデビューを果たし、売れない時期を我慢して、国民的なカントリー歌手として成功したという経歴の持ち主。

アイラ♡ 2年前に世を去った彼が、晩年アルツハイマーを患っていたことはよく知られていて、これは病気を公表した娘や息子たちをサポートメンバーに従え、人生最後のツアーに全米を回る姿を追ったドキュメンタリー。終始明るい笑顔を絶やさない奥さんの存在が本当に素晴らしい。

キット♤ 冒頭からして医師の診察を受ける場面。家族の名前を思い出せないとか、相当症状が進んでいるのがわかる。

アイラ♡ 病気の進行度を測るテストでは、聞いたばかりの単語すら思い出せなくなっている彼が、ひとたびステージに立てばまったくきっかけをはずさず歌いきってみせる。医師の目にも明らかに脳は萎縮を続けているのに、長年音とリズムに満たされてきた彼の音楽中枢はちょっとやそっとではヘタらないというのは一体何なんやろね。

キット♤ それでもツアー中も病気は進行して、あるライブのステージで彼は突然歌えなくなる。舞台に置いてあったプロンプターが故障で歌詞を表示できなくなり、彼はたちまち混乱してしまう。でも歌詞を自力で思い出せないのに、リズムやメロディはしっかり身体に入っている。途中に長いソロ演奏のある曲でも、プロンプターに「長いソロ」と表示があるだけで見事な演奏をみせてしまう。ギターの演奏に必要な記憶は別の部分にあるっていうことなのかなぁ。

アイラ♡ 長い音楽活動の末に、脳に占める音楽演奏に関する部分が異常なまで発達してたのかもしれないね。アーティストってそういうものなのかもしれないけど、不思議なことやわ。

キット♤ コメントを寄せる面々がなかなか豪華。ポール・マッカートニーはちょっと儀礼的な感じがせんでもなかったけど、多くの人が尊敬のコメントを残している。しかも半分くらいの人が、アルツハイマーなど老人性の認知症を患った人が自分の身内にいたことを告白していた。何人かの人が「勇気がある」と語っていたのも興味深い。ツアーで失態を演じてしまうと、今まで築き上げた名声を台無しにしてしまうかもしれないという心配があるからということのようやけど。

アイラ♡ でも、いくつもの都市を回っていくうちにステージでの失敗も増えていく。つい不安が顔に出てしまうメンバーに対し、全くちがう反応をみせるのが満場の観客。鷹揚な表情で彼を見守り、ゆったりと演奏を楽しんでいる。病人だから年寄りだから大目に見るっていうんじゃなく、観客も彼と過ごせる時間を心底待ちわび楽しんでいるんだってことがよくわかるのよね。「そこにいてくれるだけでいい・・・」と思われることが、エンターテイナーたる人々が最終的に行き着く理想郷なのかどうかはわからないけど、やり尽くして燃え尽きていく人のかっこよさは存分に味わえる映画やと思う。

キット♤ アルツハイマーに限らず、老いは誰にとっても避けては通れない問題。この邦題のストレートすぎるのが気にはなるけどな・・・。

アイラ♡ そう、身も蓋もないねん。病気がいよいよ深刻化してきたことが伺えるあたりで撮影が終わっているので、亡くなるまでの数年の様子はわからないけど、夫や父の病状を包み隠さず公開し、アルツハイマーという病気の残酷さと同時に、病気との向き合い方を見せてくれた彼の家族の英断には敬意を抱かずにいられない。ラスト近く、レッキング・クルーのメンバーとともに彼がスタジオで録音に臨む『I’m Not Gonna Miss You』は、洋楽を長く聴いてきた方にはぜひ味わってほしい一曲。

 

予告編

スタッフ

監督 ジェームズ・キーチ

キャスト

グレン・キャンベル
ブルース・スプリングスティーン
ジ・エッジ
ポール・マッカートニー
ブレイク・シェルトン
シェリル・クロウ
キース・アーバン
ブラッド・ペイズリー
テイラースイフト
スティーブ・マーティン
チャド・スミス
ビル・クリントン

レクタングル336

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