レビュー

華氏119(Fahrenheit 11/9)

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おすすめ度

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

『ボウリング・フォー・コロンバイン』や『シッコ』など、アメリカが直面する社会問題をテーマに、権力層に突撃取材を次々かけていくドキュメンタリー作品で知られるマイケル・ムーア監督の最新作。アメリカ合衆国第45代大統領ドナルド・トランプを選出したアメリカをテーマに、民主主義の危機を描く。トランプ氏の大統領当選が確定し勝利宣言をした2016年11月9日がタイトルの意味するところ。当時のジョージ・W・ブッシュ政権を痛烈に批判した『華氏911』にも呼Fahrenheit 11-9

応する。大統領選の最中からトランプ当選の警告を発していたムーア監督は、取材を進めるうちに、どんなにスキャンダルが起きてもトランプ大統領の安泰が確保されるよう仕組まれていると確信。民主党の弱体ぶりをも晒しながら、トランプ氏を当選させたアメリカ社会の現状に警鐘を鳴らしていく。

言いたい放題

キット♤ マイケル・ムーア作品は、その時々の社会情勢に対して、彼独特の切り口で核心に迫ろうとするところが見どころ。

アイラ♡ その意味では、本作も彼一流の構成力で貫かれてはいるけど、映像を恣意的につないでいくというやり方で、これはプロパガンダ映画の手法と同じ。観る側も、彼の力技には十分気をつけなくちゃならないというのも一貫してる。

♤ 彼の持ち味はアポなしの突撃取材やけど、本作もミシガン州フリントの汚染水をタンクローリーで運んで放水するパフォーマンスは面白い。けど、同じ手法で繰り返されると「またか」と感じてしまう部分もあるな。

♡ とはいえ、今までの作品と少し違うなと思ったのは、無茶苦茶なアポなし取材の出番はせいぜいその程度で、行動する高校生たちの姿をシンプルに追うことにかなりの時間を充てていたこと。高齢になって活動量が減ったのかしらとも思ったけど、ドキュメンタリー映画らしくなってた気がする。

♤ 前半では、先の大統領選挙で誰しもヒラリー・クリントンが勝ち、ドナルト・トランプ自身も含めてトランプは絶対負けると思っていたのに、まさかの大逆転となった流れを上手く見せている。この大統領選挙のいきさつは、何度となく報道されたし、様々な解説もされてきた。

♡ ここで、プーチンの介在にもちらりと触れつつ、人気のあったサンダース氏が候補者から外れていったいきさつを描き、民主党のダメさを主張しはじめる。作品の“つかみ”こそトランプ大統領やけど、目的はトランプその人を糾弾することではないのよね。

♤ ヒラリーが負けた要因の一つは、民主党候補選出の過程で対立候補サンダースを支援していた若年層がヒラリーに投票せずに棄権してしまったことと言われていた。なぜそういうことが起こってしまったのか、個人的にいまひとつしっくり来ていなかったのやけど、本作を観て、民主党内でヒラリーを選出するために不当なことが行われ、その腐敗ぶりをみた若者層が離れていくという構図がやっと見えた。日本から見ているだけではわからなかったけど、民主党の停滞や弱体ぶりがよく伝わった。奇矯な言動が報道されるトランプに比べると、ヒラリーはかなりまともな候補に見えてしまうのやけど、マイケル・ムーアはヒラリーだけでなくオバマも一般大衆から離れてしまって、ある意味「共和党化」してしまっていることを痛烈に批判している。

♡ クリントン夫妻もオバマ前大統領も、ともに富裕層に”譲歩”するばかりで、本来の支持者層からかけ離れてしまったことをまず彼は主張。続いて、自らの故郷であるミシガン州フリントで、実業界出身の知事が引き起こした水道水汚染の問題を取り上げる。

♤ ミシガン州フリントはデトロイト近郊の町で、“ラスト・ベルト”と呼ばれる工業が衰退して労働者が疲弊している地域ということが注目ポイント。大統領選挙では、共和党からも民主党からも見放されたラスト・ベルトの住民がトランプに期待して投票するに至ったという、市民の視点からの主張があると見た。

♡ 事態収束の後、フリントを訪れたオバマ氏はコップに入れた水道水を飲んでみせるのやけれど、市民はそれが上っ面なパフォーマンスであることをその場で見抜く。それを機に作品が一気に市民視線を強めていくのがある意味見どころ。ウェストバージニアでの教職員スト、銃規制を訴えるフロリダの高校生・・・。既存の枠組みを自分たちから変えていこうとする彼らに光をあてることで、死に体化したアメリカの民主主義に希望を呈したってことかな。

♤ いまの政治体制をよしとしない若い世代が、民主党という仕組みを利用して活発になりつつあるという点は興味深い。映画上映と並行して行われたアメリカの中間選挙では下院で民主党が過半数を奪回したばっかりやけど、その中に最年少の女性議員や初めてのイスラム教徒の議員など新しい勢力が出てきたことは評価できる。

♡ 監督は「国民がうんざりしてあきらめたときに独裁者が現れる」といって、トランプにヒトラーを重ねてみせるのやけど、ここは正直ゾッとした。政治を変えられるのは市民だということを監督は再度強調する。

♤ 一方で、こういう作品の宿命として、見る側がどこまでマイケル・ムーアを信じるかという問題がつきまとう。本作でも、汚染水の問題にかなりの時間を充てているが、見ている側からの「そこまで大きな問題になっているなら、なぜ被害者は訴訟しないのか?」という疑問には答えてくれていない。なので、90%は映画の趣旨に賛同するけど、10%くらいは「ほんまかいな?」という気持ちもなくはない。

 

予告編

スタッフ

監督 マイケル・ムーア
脚本 マイケル・ムーア

キャスト

マイケル・ムーア マイケル・ムーア
ドナルド・トランプ ドナルド・トランプ
バーニー・サンダース バーニー・サンダース

レクタングル336

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