レビュー

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー(Rebel in the Rye)

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おすすめ度

キット ♤ 3.0 ★★★
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

Rebel in the Rye

2019年1月1日に生誕100周年を迎える小説家J・D・サリンジャーの作家としての半生を描く。サリンジャー役に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『女王陛下のお気に入り』のニコラス・ホルト、教授のバーネットにケビン・スペイシー。1939年、作家を志しコロンビア大学の創作学科に編入した20歳のサリンジャーは、指導教官ウィット・バーネットのアドバイスで短編小説を書きはじめる。売り込み先の出版社からは掲載を断られ続け、ようやく決まっても招集のため掲載は見送られてしまう。最前線でサリンジャーは過酷な経験をし、復員後もそのトラウマに悩まされるが、そのなかで初の長編『ライ麦畑でつかまえて』を完成させる。

 

言いたい放題

キット♤ アメリカは国の歴史が浅いので、日本やヨーロッパでいう古典文学に相当する文学がない。比較的古くて日本で定番となっている作家は、エドガー・アラン・ポー、マーク・トウェイン、アーネスト・ヘミングウェイ、ジョン・スタインベックなど。1919年生まれのJ・D・サリンジャーはもう少し後の世代で、名前と代表作『ライ麦畑でつかまえて』のタイトルは知っていたが、読んだことはなかった。

アイラ♡ 戦後の作家というカテゴリーでは、他にノーマン・メイラーやジョン・アップダイクなどが同時期の作家になるのかな。私も『ライ麦・・・』は読めてなくて、なぜかというと高校生のときこの映画にも出てくる『ナイン・ストーリーズ』を文庫本で読んで、まったく良さがわからぬまま死蔵してしまったから。翻訳文学好きなのに「サリンジャーはどうもあかん・・・」と決めつけてたのよね。ところが本作を観たのを契機にもう一度読みはじめてみたら、これが揃いも揃って秀作ばかり。早すぎる出会いだったとも言えるけど、戦争体験によるPTSDというものを知るか知らないかで味わいがまったく違ってくる。本作は、そのことをよくわからせてくれる作品だったわ。

♤ 予備知識を仕込むためにWikipediaで『ライ麦畑でつかまえて』の概要を読んでみたけど、主人公ホールデン・コールフィールドは事あるごとに落ち込み、落ち込み、落ち込んでいくキャラ。従来の小説と違って、口語調の文体で書かれているのが特徴やけど、読むのは辛そう。

♡ この映画では、サリンジャーが『ライ麦・・・』へ至るまでに短編を書き溜めていく過程のほうにむしろ重点が置かれていて、それが戦争で傷ついた自らを癒やすための創作であったということがわかっていく。それが『ライ麦・・・』での成功にも関わらず、その後隠遁生活を送っていくことへの下敷きにもなっていて、サリンジャーという人物を少しでも知るいい機会になったわ。寡作な隠遁者というミステリアスなイメージが、アメリカ文学史におけるサリンジャーの位置づけを大きなものにしているといわれるそうやけど、そうなってしまうまでの苦悩もわかったように思う。

♤ 全体に決して明るい映画ではなかったけど、観ていて落ち込むほど暗くもない。落ち着いた色調の映像が当時の世相を反映しているようで良かったと思う。主演のニコラス・ホルトはSFものへの出演が多かったみたいやけど、シリアス・ドラマで好演。脇役のケビン・スペイシーが若いサリンジャーを指導し影響を与える立場から、凋落していくところもなかなか良かった。ケビン・スペイシーはスキャンダルで干されていて、この映画が最後の出演作になるのかも知れないが、演技力はやっぱり大したもの。

♡ 子役出身で、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』も、最近『女王陛下のお気に入り』も、メイクのせいでせっかくのきれいな顔がわからんっちゅうねん!(笑) ケビン・スペイシーに関しては、すっかり太っちゃって最初は誰かわからないほどやったけど、やはり俳優としては素晴らしいものを持ってるよね。サリンジャーよりも、ウィル・バーネットという人の指導教官としての熱意や厳格さのほうが魅力的で印象的だったほど。サリンジャーも、ユージン・オニールの娘をあろうことかチャップリンに取られてしまったり、ユダヤ系の実業家である父親に理解されなかったり、さらにはノルマンディー上陸作戦で凄惨な場面を目の当たりにしたり・・・と厳しい経験を重ねる中で、バーネットに信頼を寄せていく過程がよく描かれてた。

♤ すごく一般受けする作品ではないとは思うけど、悪くなかったな。

♡ それにしても、あまりに悲しく切ない人生ではあるよねぇ。本作をきっかけに、短編からでも読んでみるといいと思うよ。すべての作品に彼の戦争体験によるトラウマやユダヤ人としての感覚などが活かされてるのを再確認できるから。

 

 

予告編

スタッフ

ニコラス・ホルト J・D・サリンジャー
ケビン・スペイシー ウィット・バーネット
ゾーイ・ドゥイッチ ウーナ・オニール
サラ・ポールソン ドロシー・オールディング
ルーシー・ボーイントン クレア

 

キャスト

監督 ダニー・ストロング
製作 ブルース・コーエン
ジェイソン・シューマン
ダニー・ストロング
モリー・スミス
サッド・ラッキンビル
トレント・ラッキンビル
原作 ケネス・スラウェンスキー
脚本 ダニー・ストロング
撮影 クレイマー・モーゲンソー

 

 

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