レビュー

トールキン 旅のはじまり(Tolkien)

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おすすめ度

Tolkienキット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

『指輪物語』を書いた作家J・R・R・トールキンの前半生を描いた伝記映画。主演は『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』などのニコラス・ホルト。幼時に父を失くし、母親の私教育を受けながら片田舎に暮らしていたトールキン。母親の病死により孤児となるが、後見人の神父の世話もあり名門校に入学。そこで知り合う3人の仲間たちと芸術を語りあい、知性と教養を身につけ、最愛の人とも出会う。やがて第1次世界大戦が勃発し、彼らの運命も大きく変わっていく・・・。監督は『トム・オブ・フィンランド』のドメ・カルコスキ。

 

言いたい放題

キット♤ 『指輪物語』を原作とする映画『ロード・オブ・ザ・リング』や『ホビット』のシリーズは全部観てるけど、原作者のトールキンについてはほとんど知識がなかったので、ある意味興味を持って映画館へ。

アイラ♡ 『指輪物語』は20世紀に世界でもっとも読まれた小説のひとつ。驚くほど緻密に構成されたファンタジー世界があって、登場人物たちの系譜や言語、文化などがしっかりと体系的に作られていること。言語まで創造されていることなど、トールキンという人がいかに深い教養と言語の能力をもっているかは何となくわかってはいたけど、そのところがよく理解できた。

キット♤ トールキンの少年~青年時代と、フランスはソンヌでの戦場の場面とが切り替わって進んでいく。両親を早く亡くしたトールキンと弟は、面倒見のよい牧師のおかげで厳しいが人のよい養母を見つけてもらい、上流家庭の子弟が集まる全寮制の名門校へ入ることができた。後に妻となる女性ともここで知り合う。この環境がなかったら『指輪物語」が書かれることはなかったんやろな。

アイラ♡ 母親がそもそも教育熱心で、言語やファンタジーへの興味は早くから磨かれていた。そこへ出会った学友たちも揃って優秀で、同じような問題意識を共有できる仲間。彼らや、古代ゴート語の権威なんていう教師との知的な交流を通じて『指輪物語』世界を構成するものが育まれていったことが示唆されてる。

キット♤ 当時のイギリスの学校の雰囲気が分かるのはとても興味深いな。親友たちと秘密結社のような4人組TCBSを作って自由を謳歌するところは微笑ましい。ただし特権階級の恵まれた環境で育まれた教養であって、庶民の生活とは別世界という感じもするけど。

アイラ♡ そうやね。高等教育そのものが特権階級の知的な娯楽という感じを受けたけど、言い換えれば知性や教養を高めることを彼らは貪欲に楽しんでいるようであり、こうした人々がイギリスの分厚い歴史と文化を育んできたのやなという理解もできたわ。逆に妻となるエディスについては、まだまだ女性が活躍できない社会の窮屈さが投影されていて、男性が文化の担い手であったこともわかる。

キット♤ 並行して描かれるのが第1次世界大戦の場面。塹壕のなか、将校であるトールキンは高熱をおして行方不明の親友を探しに行くんやけど、忠実な兵士が彼の世話をしについてくるという階級社会ぶりも描かれる。こういうところは我々にはすんなりとは理解し難いものがあるな。

アイラ♡ けど、あの部下の名前がサムやったの気がついた? フロドを一番助けたホビット族の仲間の名前。『指輪物語』の構成要素として、彼を付き従えさせたのかなと私は思った。ほかにも随所に『指輪物語』にちなむ言葉が出てきて、ファンには嬉しいことやったでしょうね。

キット♤ 戦場の風景は無彩色で、ドイツ軍のマスタードガスや火炎放射器の赤い炎が襲いかかってくるところなど、『ロード・オブ・ザ・リング』の旅の試練を連想させる。ここはむしろ幻想的な映像づくりを優先していて、砲弾による大きな穴に兵士の死体が放射状にならんでいるところなど、戦場を象徴的に見せようとしている風でもある。

アイラ♡ 戦場場面はまさにそのために作られたのやと私も思う。旅の仲間たちを次々と襲う怪物たちのイメージは、トールキンの戦争体験に原点があるという描き方で、結びつけ方としてはちょっと単純かなという気はしたけどね。北欧やケルトの神話とか、チョーサーの英語とか、トールキンの作品は彼の豊かな教養があってこそ書かれたものでもあるので、そこがもっと膨らませてあればなぁ・・・とは思う。

キット♤ トールキン役のニコラス・ホルトは『X-MEN』シリーズでのレギュラー出演が長いけど、ここに来て『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』に続いて本作でも作家の役を演じた。そういえば『女王陛下のお気に入り』にも出ていたので、人気上昇中なんやな。

アイラ♡ バーミンガムやオックスフォードの美しい街並みも見もの。『指輪物語』のファンには胸の熱くなる伝記映画だと思います。

 

予告編

スタッフ

監督 ドメ・カルコスキ
脚本 デビッド・グリーソン
スティーブン・ベレスフォード

キャスト

ニコラス・ホルト J・R・R・トールキン
リリー・コリンズ エディス・プラット
コルム・ミーニー フランシス神父
アンソニー・ボイル ジェフリー・スミス
パトリック・ギブソン ロバート・ギルソン
ロム・グリン=カーニー クリストファー・ワイズマン
デレク・ジャコビ ライト教授

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