おすすめ度
キット♤ 3.5 ★★★☆
アイラ♡ 3.0 ★★★
『プリズナーズ』などを手がけ、間もなく公開の『ブレードランナー 2049』の監督に抜擢されたカナダのドゥニ・ビルヌーブ監督が、異星人とのコンタクトを描いた米作家テッド・チャンの短編小説『あなたの人生の物語』を映画化。あるとき突然、地球上の各地に出現した巨大な宇宙船。謎の知的生命体とのコミュニケーションを図るというミッションを帯びた言語学者のルイーズは、彼らとの意思疎通を進める過程で、時間をさかのぼるような不思議な感覚を得ていく。主演は『アメリカン・ハッスル』などのエイミー・アダムス。
言いたい放題
キット♤ 『未知との遭遇』などにも通じる、地球外生物とのファースト・コンタクトもののSFといえばええのかな。けど、映画を観終わった感想は、けっこう複雑というか微妙。
アイラ♡ 嫌いなテイストではないし、SF映画としてこういう表現もあっていいと思うけど、まぁすんなり理解できるタイプの話ではないわよね。
♤ ディテールをすごく丁寧に作り込んでいるところがあるかと思うと、大胆に説明を省略してしまっているところとのバランスがどうもしっくりこない。宇宙船らしきものの中に入っていくと重力の向きが変わるところとか、タコみたいな宇宙人とその墨絵みたいな言葉とかけっこう緻密に作ってある。一方で、宇宙人が地球にやってきた目的とか、なんで同時に複数箇所にやってくるのかなどの疑問に対する明確な答えはない。
♡ 宇宙人・・・って言い方も古くさいけど、あいつらの風体もあまりに古典的すぎて苦笑い。『未知との遭遇』以降、“宇宙人”といえば毛のないつるんとしたヒューマノイド型で、三角頭の目のおっきいやつと相場が決まってたのにねぇ(笑) とはいえ、彼らが地球へ来た目的についてはなんとなく見る側が想像できるようにはなってるよね。
♤ そこは特に明確な答えを用意する必要なんかないし、観客に考えさせるというのもありなんやろな。
♡ 原題の『Arrival』を『メッセージ』という邦題に変えてしまったのには大いに不満やけど、まぁかえって、地球外生命体がいま地球上の各国に何を求めにきたかという点から映画を観たらええんやなという方向づけはなされる。でも、本作のテーマはそれだけではないと思うのやけどね。私は一番に感じたのは、言語によるコミュニケーションの可能性という部分やったし、生と死というポイントもあったかもしれないね。
♤ “時間”というのも重要なポイントやったと思うな。作品のメインの場面を流れる“時間“と、随所に挿入される主人公ルイーズの娘の”時間“とが一致しないことが、まず観る側にとっての謎になって、それがラストに向かって「なるほど」と思わせる仕掛けがある。ただそれは、ルイーズが宇宙人とコミュニケーションを重ねることによって得たらしい”能力“によるはずやねんけど、なんでそういう能力が身についたのかの説明がないから、そうなんちゃうか?と想像するしかない。それくらいの説明はあってもよかったんと思うけど。
♡ 重要なところだけに、ここは観客をミスリードしかねないよね。というか、ちんぷんかんぷんやった人も多かったのと違うかな。攻撃してきてくれるほうがずっとわかりやすい(笑)
♤ しかもその“能力”によって、映画の終盤で世界がバラバラになる危機に瀕したときに、ルイーズが中国の将軍に直接電話して、彼しか知らないはずの亡妻に関わる言葉を中国語で言う。これで将軍の気が変わって危機が回避されるという流れにはお手軽感が拭えない。国のトップの人間がそんな個人的なことでふらふらするのはあかんやろ。
♡ 言語学者であるルイーズは、あらゆる経験則を行使して“宇宙人”との言語コミュニケーションを図っていくわけやけど、なんでそんな方法で相互に理解できんねん?って突っ込みたくなるところが満載。あの墨で文字だか文章だかを描くイカもしくはタコは、きっとものすごい知能の持ち主なんやわ!
♤ 原作は中国系アメリカ人、テッド・チャンの『あなたの人生の物語 (Stories of Your Life and Others)』というSF。原作は読んでないけど、Wikipediaなどによるとタコみたいな宇宙人の書く言語は「フェルマーの原理(光は目的地に到達する時間が最小になる経路を通る → まだ目的地に到達する前からその経路が最短とわかっている → 未来がわかる)」という理屈になっている模様。なので、ルイーズが宇宙人の言語を習得する過程で、時間の概念が変わってきて、その結果“能力”を手に入れるということらしいのやけど、そこまで想像するのは無理やろ、普通は。2時間の枠に収めるために原作を大胆にカットするのはまぁよしとしても、メインではない部分に拙い印象を持ってしまったな。
♡ とはいっても、決してこの雰囲気は嫌いではなくて、雄大な風景の中に浮かぶ宇宙船のイメージは清々しささえあってよかったな。墨絵風の文字が描かれていくシーンとかも。原作は本当に素晴らしい短編らしいので、すぐにも読んでみたい。それによって感想もかなり変わりそうな気がする。それはそうと、監督のドゥニ・ビルヌーブは『ブレードランナー』の続編を手がけてるのよね。劇場予告がぼちぼち公開されてるけど、結構期待できそうな雰囲気になってる。
♤ あと、黒い宇宙船の形が、日本のお菓子「ばかうけ」の形にインスパイアされたと監督自身が告白したというのが話題になってるけど、どうやら日本向けの後付けサービス・トークだったらしい。さらにおまけ。日本語ポスターや予告編のタイトル『メッセージ』の「セ」だけフォントが違う。英語のタイトルではそういう「小技」は使っていないので日本での配給の際に遊んでみたのかもしれないけど、意図は不明。
予告編
スタッフ
監督 | ドゥニ・ビルヌーブ |
原作 | テッド・チャン |
脚本 | エリック・ハイセラー |
キャスト
エイミー・アダムス | ルイーズ・バンクス |
ジェレミー・レナー | イアン・ドネリー |
フォレスト・ウィテカー | ウェバー大佐 |
マイケル・スタールバーグ | ハルパーン捜査官 |
マーク・オブライエン | マークス大尉 |
ツィ・マー | シャン将軍 |