レビュー

マンチェスター・バイ・ザ・シー(Manchester by the Sea)

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「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のポスター

キット♤ 4.5 ★★★★☆
アイラ♡ 4.5 ★★★★☆

『ジェシー・ジェームズの暗殺』『インターステラー』のケイシー・アフレック主演。『ギャング・オブ・ニューヨーク』の脚本を手がけたケネス・ロナーガンの監督・脚本で、今年度アカデミー賞主演男優賞と脚本賞を受賞。プロデューサーにはマット・デイモン。主人公の元妻に『マリリン 7日間の恋』のミシェル・ウィリアムズ、兄役に『キャロル』のカイル・チャンドラー。ある不幸な出来事のために心を閉ざし、ボストン郊外でひとり暮らすリーは、兄ジョーの訃報を受けて故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに戻る。遺言でジョーの16歳の息子パトリックの後見人を任されたリーにとって、そこに留まることは苦く壮絶な過去と直面することに他ならなかった。

 

言いたい放題

アイラ♡ アカデミー賞の発表から続いてきた受賞作の公開やけど、その最後を飾る本作。作品賞の『ムーンライト』と並んで、私には今年前半で最も観るべき作品になったと思う。緻密に練られた脚本と演技人の好演が織りなす映像は、質の高い文学作品のようやったね。

キット♤ ケイシー・アフレックは、アカデミー主演男優賞受賞も納得の演技。寡黙で派手な振る舞いをするわけではないのに、兄の死を知らされてボストンから故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーの病院へ向かうときの近寄りがたい雰囲気。それをごく自然に見せているところでまずすごいと思った。

♡ 彼のことは『インターステラー』とかで観ているはずなのに、わりと印象の薄い俳優なのよね。兄のベン・アフレックが、なんか押し出しが強くて傲慢な感じなのと違って、だからこそ普通の男が抱える深い苦悩を演じるのにぴったりやったんやなぁとしみじみ。

♤ もともとこの役はマット・デイモンが演る予定だったのが、スケジュールが合わず、ケイシー・アフレックに譲ったということになっている。あの『グレートウォール』とぶつかったんやろか? だったらなんとまぁ惜しいことやったけど、マット・デイモンには独自の色があるから、ここは彼でなくてよかったな。

♡ ケイシー・アフレックと並んで素晴らしい存在だった甥役のルーカス・ヘッジズは、『ギルバート・グレイプ』の原作・脚本を手がけたピーター・ヘッジズの息子なんですってね。彼も本作で助演男優賞にノミネートされたほか、いろんな賞を獲得してる。

♤ 物語は、ボストン郊外で便利屋をしているリーのもとに兄の訃報が届くところから始まり、現在と過去を交互に見せながら進んでいく。リー、兄のジョー、甥のパトリックの3人が最初に登場する船の上のシーンは、顔も判別できないくらい引いたところから撮って、リーがパトリックをサメの話で脅かす会話だけが聞こえる場面から入っていく。この会話でリーと少年時代のパトリックの親密さを見せておくことで、現在の2人の関係のベースに信頼があることを知らせるうまい作り。

♡ 久々に故郷の街に戻ったリーに対して、街の人がこぞって微妙な反応をするところで、どうやら過去に何かしでかしたやつらしいということが匂わされる。静かに進んでいく話やけど、この辺からぐいっと引き込まれてしまう。

♤ それが何であったのか、それがいかにリーの心に激しいダメージを与えたかを満を持して見せていく。小さな港町では人の噂は何年たっても消えることがなく、それがリーがこの町に帰れない理由の一つであることを過剰な説明なしに見せていく構成もうまいな。

♡ 港町の描き方も美しい。けどやはり、すべては脚本の質の高さと、それを演じきった役者たちの素晴らしさに集約されるわね。ちょっとした仕草や表情にも渾身の演技を見た気がする。

♤ リーとパトリックとの関係は一見たどたどしいんやけど、そこには叔父と甥との深い信頼関係があることが見て取れるし、無愛想ながら、リーには運転免許のない甥をこまめに送り迎えするやさしさと誠実さも感じる。でも過去と向き合わなくてはならなくなると自分をコントロールできず、しなくてもいい悪態をついたり喧嘩に走ったりする不安定さを併せ持っている。複雑な人格やけど、それが話の流れとしてすんなりと違和感なしに理解できるようになっているところなんか、まさに脚本と演技の良さやな。

♡ パトリックの立ち位置が重要やね。父を失ったばかりというのに部活やバンド活動にほいほい参加して、ガールフレンドとは二股交際するし、何事もなかったかのように高校生活を謳歌してる。でも、遺体安置室から速攻で立ち去ったり、キッチンの冷凍庫を開けたとたんにパニック発作を起こしたり、別れた母親に受け入れてもらえなかったり、実は彼なりに強い喪失感に苛まれていることがわかってくる。冷凍庫のシーンは、もはや演技を超えてたようにさえ感じたわ。

♤ 前妻の存在もやな。

♡ リーとばったり出会ってしまったときの動揺ぶりに、彼女の心もまったく回復できず、自身をうまくコントロールできないでいることがわかる。ずっと自分を罰し続けているリーが見せる表情のまた複雑なこと。ここは一番の見せ場かも。

♤ 結末は必ずしもハッピーエンドとはいえない終わり方ではあるのやけど、いい余韻を残してるよね。

♡ 冬には凍りつくほどの街が春を迎えたころ、リーはパトリックとの関係にひとつの結論を出すんやけど、甥に対する心の扉の開け方がすごくいいよね。亡くなった兄さんは、まさにこうなってほしいと願って息子の後見を託したのやと思う。リーの傷は容易には癒えないやろけど、これから大人になっていくパトリックとの関係のなかで、それぞれに何かを得ていくだろうというかすかな希望が残ったわ。

 

予告編

スタッフ

監督 ケネス・ロナーガン
脚本 ケネス・ロナーガン

 

キャスト

ケイシー・アフレック リー・チャンドラー
ミシェル・ウィリアムズ ランディ
カイル・チャンドラー ジョー・チャンドラー
ルーカス・ヘッジズ パトリック
カーラ・ヘイワード シルヴィー
C・J・ウィルソン ジョージ
グレッチェン・モル エリーズ
マシュー・ブロデリック ジェフリー

 

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