おすすめ度
キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 4.0 ★★★★
『グロリアの青春』(2013)のチリ人監督セバスティアン・レリオが、トランスジェンダー女優のダニエラ・ベガを主演に、自分らしく生きることの尊厳を描いた作品。2018年アカデミー賞の外国語映画賞を受賞。昼はウェイトレス、夜はナイトクラブで歌うトランスジェンダーのマリーナは、年の離れた恋人オルランドと暮らしていたが、彼の誕生日を祝った夜、オルランドは意識を失い亡くなってしまう。オルランドの家族から受ける偏見や差別は容赦なくマリーナを傷つけていくが、やがて彼女は毅然と自らの道を歩いていくことを決意する。
言いたい放題
キット♤ 主演のダニエラ・ベガはトランスジェンダー女優。そのことで話題になった作品でもあるけど、その点である意味先進的な映画がアメリカでもヨーロッパでもなく、カトリックの国チリで撮られたのは興味深いな。
アイラ♡ トランスジェンダーの人々の生きづらさがテーマではあるのやけど、それ以上に主人公のマリーナと、それを演じるダニエラ・ベガの毅然とした生き方がひたすら印象に残る作品。ダニエラ・ベガの凛とした美しさは、アカデミー賞の授賞式でもひときわ輝いてたね。
♤ マリーナと相当年上の恋人オルランド(フランシスコ・レジェス)との関係はオルランドの死で終わってしまう。その前に、オルランドが航空券をどこにしまったのか思い出せないとか、2人のダンスシーンでオルランドが体格の良いマリーナに支えられているように見せるとか、観客に不吉な予感を与えた上で、やっぱり・・・ともってくるところはよく考えられている。
♡ 物語は決して複雑ではないし、描き方や演出もベタというか、目新しいものではない。オルランドの死後、前妻やできの悪い息子、権力をふりかざす女性刑事など、類型的な憎まれ役が彼女の行く手に立ち塞がるわかりやすい構図。
♤ これがアメリカ映画やったら、彼らがギャフンといわされるような結末を期待するとこやけど、ここではマリーナが自立して力強く生きていくことを暗示して終わる。
♡ たしかにマリーナは、葬儀への参列も許されず、オルランドのものは全部親族に持っていかれる。よくはわからないけど、カトリック国のチリで、シンプルな教会で葬儀を行い、火葬を選ぶほどやから、オルランドの家族は比較的リベラルな人々なんじゃないかと思うのよね。にも関わらず、トランスジェンダーに対する彼らの偏見は実に根強い。女性刑事も職務に忠実なふりをして、実はマリーナへの興味を隠しきれないでいるのがよくわかる。
♤ 人種や性別による社会的な弱者への差別や理不尽ないじめは、映画の題材としては目新しいものではないだけに、かえってこの奇をてらわない構成と綺麗な映像がこの映画の持ち味となり、アカデミー賞受賞にも繋がったんやろな。
♡ いちばん印象的なのは、これも厳しい人生を象徴するベタな演出ではあるのやけど、どんどん強くなる向かい風に飛ばされそうになりながら彼女が歩いていくシーン。他の場面でも、彼女はただ背筋をぴんと伸ばして黙って歩く。ひどい言葉をかけられても逆上せず、「自分は人間」とだけ返す。唯一、愛犬を取り戻そうとするときに感情を爆発させる以外、彼女の佇まいは終始上品で、エレガントでさえある。心のなかはずたずたやろうに・・・。彼女の自尊心の高さがひたすら心を打つ作品やわね。
♤ ただひとつだけ、オルランドが遺した鍵が何度も出てきて、最後にそれが会員制スパのロッカーの鍵であることが判明して、ロッカーに何が入ってるのかと期待させるんやけど、結局肩透かし。あれはないな~。
♡ 冒頭で旅行に行こうと話をするイグアスの滝へのチケットでも入ってそうに思うのやけど、オルランドもお金がなかったっぽいしね・・・。でも、ロッカーはからっぽで正解やったのと違うかな。だからこそ、マリーナはオルランドなしで生きていくことへの決意が固まるのやし、だからこそラストで彼女が歌うヘンデルのアリア“Ombra mai fu”がじわじわと染み入ってくる。木陰の優しさ、美しさを歌った日本でも知られる歌曲やけど、穏やかさを取り戻した彼女の心情にぴったりなのよね。あと、映画の原題は”素晴らしい女性”とでもいう意味やけど、邦題は劇中に使われるキャロル・キングの“Natural Woman”(アレサ・フランクリンのカバー)から。自分を自分らしくいさせてくれる人への思いを歌う曲で、オルランドへの気持ちがあふれる場面やったね。
予告編
スタッフ
監督 | セバスティアン・レリオ |
製作 | フアン・デ・ディオス・ラライン |
パブロ・ラライン | |
脚本 | セバスティアン・レリオ |
ゴンサロ・マサ | |
撮影 | ベンハミン・エチャサレッタ |
衣装 | ミュリアル・パラ |
音楽 | マシュー・ハーバート |
キャスト
ダニエラ・ベガ | マリーナ |
フランシスコ・レジェス | オルランド |
ルイス・ニェッコ | ガボ |
アリン・クーペンヘイム | ソニア |
ニコラス・サベドラ | ブルーノ |