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わたしは、ダニエル・ブレイク(I, Daniel Blake)

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「わたしは、ダニエル・ブレイク」のポスター

キット♤ 3.0★★★
アイラ♡ 3.5★★★☆

80歳になるイギリスのケン・ローチ監督作品。3年前の『ジミー、野をかける伝説』を最後に引退表明していたが、本作で現役復帰した。主人公は、大工として働くダニエル・ブレイク。病気のため働けなくなり、国の援助を受けようとするが、複雑な制度が彼をたらい回しにする。若いシングルマザーのケイティたち家族を助けたのをきっかけに一家との絆を深めていくが、彼らが直面する現実は厳しさを増していくばかりだった。弱者救済制度の狭間に落ち込み助け合って生きる人々の姿に、監督の強く静かな怒りが重ねられる。

 

 

言いたい放題

アイラ♡ 私たちがケン・ローチ作品に接しはじめたのは比較的最近のことで、『ルート・アイリッシュ』くらいからかしらね。『天使の分け前』のようなコメディーっぽい作品も撮ってはるけど、イギリスの労働者階級に視点を据えて社会の現実を描き続けるという筋は常に通している。そこには常に何らかの怒りが込められていて、本作もケン・ローチ監督らしさがストレートに出てたと思う。

キット♤ 主人公のダニエル・ブレイクは40年のキャリアを持つ大工。妻を亡くしてからもきちんと生活してたけど、心臓病のため医者から仕事を止められる。勤労意欲はあるのに、国の援助を受けたくても無意味なほどに複雑な制度が彼を追い詰めていくという話。“政府の委託を受けた民間会社の医療専門家による電話審査”という場面から始まるのやけど、ダニエルが心臓発作の話をしても相手は聞く耳をもたず、マニュアル通りの質問を続ける。ついにダニエルがキレかけると、「そういう態度だと審査に影響しますよ」と高圧的態度に出る。まるでコメディのようなやり取りが続いた結果、届いたのは就労可能なので手当を打ち切るという通知やった。

♡ ダニエル役のデイブ・ジョーンズはコメディアンということなので、こういうやり取りでの間のとり方なんかすごくうまかったね。お父さんも大工さんやったそうで、東京の下町にも普通にいそうな親父を好演。役所の手続きがいかに理不尽で、受給者本位のものではないという現実が、彼の好演によってよりリアリティを帯びてた。

♤ 電話をかけても延々と待たされ、その間ヴィヴァルディの春を聞かされるだけ。しかもその通話は有料。役所へ行けば、オンラインでしか手続きできないといわれ、パソコンを使えないというと電話してくださいといわれ、電話番号を尋ねるとオンラインにありますという矛盾を矛盾とも思っていない・・・。そんな場面がずっと続いていく。

♡ そもそも不当に手当を停止されたことに異議を申し立てたかったのに、そのために失業手当ての申請が必要になり、病気のせいで働けないのに求職活動の事実証明が必要となり、そのために履歴書の書き方と面接のセミナーに出席しなければならない・・・という悪循環を見せつけていく作り。

♤ あげくの果てに、求職活動をした証拠がないとか履歴書が手書やからと受け付けられずペナルティまで課せられる始末。行政が弱者に手を差し伸べようという感じは皆無で、こちらもフラストレーションが募って次第に気が滅入ってくる。

♡ 舞台はイングランド北東部のニューカッスルという実在の町なんやけど、現実の制度やシステムをそのまま描くことで、観客をイラつかせようという監督の意図なのやろね。けど、ここまで描いて行政側は何も言うてこないのかしら。

♤ さらに加えて、2人の子どもを抱えるケイティというシングルマザーが登場するのやけど、役所の面接に遅れただけで門前払いされる。居合わせたダニエルが何かと世話を焼くことになるけど、彼にも支援できるだけの余力はない。その後も事態は何も好転しないまま、ついにダニエルは福祉事務所の壁に抗議の落書きをするが、通行人たちも加勢はするもののハッピーエンドにつながっていくわけではない・・・。

♡ ケイティがフードバンクで缶詰を開けてしまう場面はドキュメンタリー映画のようで、本気で怒りと悲しみがわいてきた。それこそ監督の思うツボやったのかもしれないけど。映画に描かれたことがどこまでが事実なのかはわからないけれど、ここまで高圧的に人格を否定されるようなことがあるのか・・・ちょっとすっきりしないものは残ったわね。

♤ 役所の悪いところを徹底的に描くあたり、ケン・ローチが挑発的に創作したのではないかという考えも捨てきれないところではあるな。とはいえ、貧富の差の広がりがイギリスだけでなく多くの先進国の共通問題となっていることは事実で、それがポピュリズムの台頭とか別の問題を産んでいる今の世相へのケン・ローチからの警告のメッセージとしては納得できる。

♡ 楽しい話ではないけど、監督の静かな怒りはよく伝わってくる。でもダニエルの隣人をはじめ、彼に親切に接する人々もいて、そこは救いかしらね。

♤ うん。でもそこに将来への希望があるという終わり方ではない。彼らにはダニエルが陥った状況を変えることはできなかったし、ダニエルさえケイティの窮状を救うことはできなかったというのがこの映画での事実であり、そこには大きな絶望の予感がある。日本語ポスターには「人生は変えられる。隣の誰かを助けるだけで。」とあるけど、映画を見終わっても全然そういう気がしないのはどうしたものやろか?

 

予告編

スタッフ

監督 ケン・ローチ
脚本 ポール・ラバーティ

 

キャスト

デイブ・ジョーンズ ダニエル・ブレイク
ヘイリー・スクワイアーズ ケイティ
ディラン・フィリップ・マキアナン ディラン
ブリアナ・シャン デイジー

 

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