レビュー

ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書(The Post)

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The Post

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

1971年。ニクソン政権下のアメリカ国内は、ベトナム戦争の泥沼化で厭戦ムードが広がりつつあった。そんな中、ベトナム戦争を記録・分析した国防省の最高機密文書の存在をニューヨーク・タイムズがスクープ。政府が勝ち目のない戦争を続けているという欺瞞が露呈する。ライバル紙のワシントン・ポストでは、亡き夫にかわり社主となっていたキャサリン・グラハムメリル・ストリープ)のもと、編集主幹のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)らが文書の入手に成功。だが政権はニューヨーク・タイムズに対し掲載差し止め訴訟を起こし、ワシントン・ポストにとっても文書の公表はタイムズと同じ轍を踏む危険があった。経営の安定と報道の自由をめぐって対立する経営陣と編集側。キャサリンは重大な判断を迫られていた。スティーブン・スピルバーグ監督のもと、メリル・ストリープとトム・ハンクスが初共演を果たし、作品は2017年アカデミー賞で作品賞と主演女優賞にノミネートされた。

 

言いたい放題

キット♤ “The Post”すなわちワシントン・ポスト紙を舞台にした作品という程度の予備知識で観たので、FOXのいつものオープニング画面からヘリコプターのロータの音がして、いきなりベトナム戦争から始まったのでいささか面食らった。

アイラ♡ のちにスクープをものにするのが、ベトナムの現地からいつも異彩を放つレポートを送るニューヨーク・タイムズの記者ニール・シーハンだったということにさらりと触れた場面。ただ、ベトナム戦争を扱う映画ときたら、戦地のシーンにはほとんどご多分に漏れず当時流行っていた音楽をバックに流す。今回はCCRの”Green River”。好きな曲やからええけど、またかいな・・・という思いもちょっとね。

♤ 実話に基づいた映画やけど、スティーヴン・スピルバーグ自らメガホンを取って本作を監督したのは、報道機関とやたら対立するドナルド・トランプへの当てつけと誰もが思うに違いないよな。お金も充分あるし、好きな映画を好きな時に作れる余裕かな。

♡ ニクソン政権下、マクナマラ国防長官の命で作成された通称「ペンタゴン・ペーパーズ」という最高機密文書は7000ページにものぼる膨大なもので、トルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソンの4代にわたって、アメリカがベトナム戦争の泥沼に引きずり込まれていった過程が明らかにされている・・・というのを今回初めて知った。執筆者の一人であるダニエル・エルズバーグからニューヨーク・タイムズの記者などに文書がリークされ、やがてワシントン・ポストもこれを入手。掲載を阻止したい政府と報道機関の間に緊張が高まっていく過程はなかなかスリリング。スピルバーグは物語をややこしく描くことをしない人なので、筋はとてもわかりやすかったね。

♤ 2時間枠にこれだけのドラマを詰め込むところにスピルバーグらしい切れの良さは感じるけど、登場人物がけっこう多いので顔と名前と役柄を覚えるのが大変やった。主演がメリル・ストリープとトム・ハンクスという何を演ってもハズさない2人なので、作る前からある程度の成功は約束されていたような作品ではある。けど、安定しているがゆえに意外性に欠けることも否定できない。ドラマとしてはもちろん充分楽しめるけど・・・。

♡ 地味ながら光っていたのが、テレビ・ドラマ『ブレイキング・バッド』でアウトローな弁護士ソウル・グッドマンを演じ、同じくスピンオフ『ベター・コール・ソウル』ではソウルの辛い人生を演じてみせてボブ・オデンカーク。エルズバーグとの古い縁からリークの主をつきとめ、文書の入手に成功。ポストでの報道で中心的役割を果たしていく人物。エルズバーグとのコンタクトについに成功したときの興奮を、ポケットの小銭を歩道にばらまく慌てぶりで表現するあたり、コメディアンでもある彼の面目躍如ね。

♤ 新聞社の中のシーンが多くなるわけやけど、人の動きに合わせてカメラが動くなど、単調にならないような絵作りになっている。後半の新聞印刷のための活字が作られて組まれていくところとか、印刷工場で刷り上がった新聞がコンベアーで流れるように動いていくシーンは造形美を感じさせる。

♡ 人を追うときはハンドカメラを使ってわざとブレ感を出し、臨場感を増幅させてた。こういう画面づくりはスピルバーグならではのうまさのひとつよね。画面の色味も重々しいグレーにトーンを統一してて上品やったわ。意外なことに、メリル・ストリープとトム・ハンクスは初共演なのね。メリル・ストリープ演じるキャサリン・グラハムは単なる社長夫人から経営者となり、やがて報道機関を預かる者としての社会的責任に目覚めていくというのが、彼女を主人公に据えた物語の主軸。ブラッドリーも、最初はめんどくさいおばさんと思ってたようであるのが、終盤にはお互いに敬意を抱き合う関係になっていく。

♤ さてこれで終わりかと思ったとき、映画はウォーターゲートビルの守衛が異常に気づく例のシーンへとつながる。いうまでもなく『大統領の陰謀』へとつながっていくわけで。

♡ 何度かキャサリン・グラハムが言うのやけど、ワシントン・ポストは読者層のレベルは高いけどただの凡庸な地方紙。もし彼女が報道を決断しなかったら、現場の士気は下がり、ウォーターゲート事件のスクープもなかったやろということを示唆しているんやろね。

♤ エンドロールの終わりに「ノーラ・エフロンに捧ぐ」とあったやろ。ノーラ・エフロンを調べたら、トム・ハンクスの『ユー・ガット・メール』やストリープの『シルクウッド』などで知られる脚本家・監督。2012年に亡くなってる。なぜそんな人に献辞が送られるのかと思ったら、エフロンの前夫はウォータゲート事件のワシントン・ポストの記者カール・バーンスタイン(『大統領の陰謀』でダスティン・ホフマンが演じた記者)だったという繋がりがあった。

 

予告編

スタッフ

監督 スティーブン・スピルバーグ
脚本 リズ・ハンナ
ジョシュ・シンガー

 

キャスト

メリル・ストリープ キャサリン(ケイ)・グラハム
トム・ハンクス ベン・ブラッドリー
サラ・ポールソン トニー・ブラッドリー
ボブ・オデンカーク ベン・バグディキアン
トレイシー・レッツ フリッツ・ビーブ
ブラッドリー・ウィットフォード アーサー・パーソンズ
ブルース・グリーンウッド ロバート・マクナマラ
マシュー・リス ダニエル・エルズバーグ
アリソン・ブリー ラリー・グラハム・ウェイマウス
ジョン・ルー ジーン・パターソン
デビッド・クロス ハワード・サイモンズ
フィリップ・カズノフ チャルマーズ・ロバーツ
リック・ホームズ ミュリー・マーダー
パット・ヒーリー フィル・ジェイリン
キャリー・クーン メグ・グリーンフィールド
ジェシー・プレモンス ロジャー・クラーク
ザック・ウッズ アンソニー・エセー
ブレント・ラングドン ポール・イグナシウス
マイケル・スタールバーグ エイブ・ローゼンタール
ジャスティン・スウェイン ニール・シーハン

 

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