おすすめ度
キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆
1943年6月19日、ナチスの宣伝相ゲッベルスは、ベルリンからすべてのユダヤ人を一掃したと宣言した。だが実際は約7000人のユダヤ人がベルリン各地に潜伏していた。ナチス政権下のベルリンで終戦まで生き延びた約1500人のうち、男女4人の生還者らの証言を交えて映画化したドキュメンタリー風の作品。手に職があったため収容所行きを免れ、空室を転々としながらユダヤ人を救う身分証偽造を行ったツィオマ。戦争未亡人を装って、ドイツ国防軍の将校にメイドとして雇われるルート。身分を偽りながら反ナチスのビラ作りに協力する16歳の少年オイゲンなど・・・。極限状態の中でゲシュタポや密告者の目をすり抜けた彼らを救ったものは何だったのか。
言いたい放題
キット♤ ナチス支配下でのユダヤ人を描いた作品はこれまで数多く撮られ、もちろん名作も少なくない。ただ多くはユダヤ人たちが収容所へ送られ犠牲になっていく話なので正直気が滅入る。本作もナチスのユダヤ人捜査の手をくぐり抜けて・・・という話やけど、決定的に違うのは逃げ切って戦後まで生き延びた4人の実話であること。
アイラ♡ 4人が当時を語る実際の映像も混じるので、セミドキュメンタリーともいえる作り方やね。
♤ 突然ナチスに踏み込まれたりしてハラハラする場面もあるけど、全員生き延びてるとわかってるので観る分には気が楽。説明によると、虐殺されたヨーロッパのユダヤ人は約600万人、脱出できずにベルリンで潜伏した人が約7,000人、戦争終結まで生き延びたのが約1,500人。つまり5,500人は途中で見つかって気の毒な運命をたどったわけで、生き残る確率は1,500/7,000=21%、命をかけるにはあまりにも分が悪いといわざるを得ない。
♡ 4人が生き残れたのは、草を食べても、石にかじりついてでも・・・というがむしゃらさより、実は運のよさだったというところに、史実というのはえてしてそういうものなんだろうという説得力がある。もちろん粘り強く耐え抜いた精神力もあってのことやけど。
♤ 4人が互いに絡むことはなく、途中で本人たちのインタビューを交えながら個々の物語が並行して進んでいくんやけど、全員に共通しているのは、危機を察知して避ける才覚があったことと、たまたま支援してくれる人に巡り会えたというツキがあったこと。
♡ ときにしれ~っと嘘をつける図太さも、本当ならとうにベルリンから一掃されているはずの身であれば、じっと我慢しながら潜伏するうちに当然身についたものなのでしょう。何より、匿ってくれるドイツ人たちの心の優しさ。SSの制服を貸してくれたり、出征した息子の好きだった女性と心を通わせ、ずっと行動をともにする仲にまでになってくれたり、彼らの高邁な心には胸が熱くなる。
♤ 4人のうち一番興味深かったのはツィオマという男性やな。身分証偽造の特技を持ち、安全な隠れ場所を探す慎重さを持っていて、潜伏中に偽造で稼いだ金でヨットを持てるほどになりながら、自分の身分証入のカバンを置き忘れるうっかり者。そのために指名手配されても、自分で偽造した休暇中の兵士の身分証を使って、あっさり自転車でスイスへ逃げてしまうのが痛快。
♡ ツィオマは書類の偽造の腕がいいのやけど、あるとき預かった書類を間違って捨ててしまい、依頼主は彼に対し疑心暗鬼になりかけてた。でも二度同じことを繰り返したことで、ルーズなところがあるけどツィオマは信じられる男だと思い直した下りは面白い。
♤ ドキュメンタリー風に丁寧に作られた作品やけど、省略しすぎやないかと思う箇所がいくつかあった。ツィオマが安全な潜伏場所を何度も失いながら、すぐ次の隠れ家が見つかるところ。ルートが戦争未亡人を装ってドイツ軍将校のメイドとしてすんなり雇われる経緯も。あと、ゲシュタポに見つかって逮捕されてしまったオイゲンがなぜすぐ釈放されたのかも釈然としない。
♡ ハンニという女性は美容院で金髪に染め直して隠れるけど、お金を持っているようには見えないのに、終戦までず~っときれいに染め続けていられたのも気になったなぁ(笑)
♤ とはいえ、異なる視点から描かれたナチスものとしてなかなか面白かった。彼らもすでに高齢で、うち2人はすでに亡くなっていて、映画化には最後のチャンスやった。
♡ 彼らもやがて、多くのユダヤ人たちがどうなったかを聞き知るようになる。そのときの苦悩は計り知れないものがあったやろね。70年以上を経てなお、まだまだ知られざる事実があるというのも興味深いこと。ただ、原題は「見えない存在 ー 私たちは生きたい」という意味なのやそうで、やたらヒトラーをタイトルにつけたがる邦題はそろそろ終わりにしてほしいわね。
予告編
スタッフ
監督 | クラウス・レーフレ |
脚本 | クラウス・レーフレ |
アレハンドラ・ロペス |
キャスト
マックス・マウフ | ツィオマ・シェーンハウス |
アリス・ドワイヤー | ハンニ・レヴィ |
ルビー・O・フィー | ルート・アルント |
アーロン・アルタラス | オイゲン・フリーデ |
ビクトリア・シュルツ | エレン・レヴィンスキー |