レビュー

500ページの夢の束(Please Stand By)

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おすすめ度

Please Stand Byキット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

名子役としてキャリアをスタートしたダコタ・ファニングが、『スター・トレック』好きで自閉症の少女が自立に向けて変わっていくさまを演じる。大のトレッキーであるウェンディは、『スター・トレック』の脚本コンテストの開催を知り、一気に渾身の一作を書き上げる。郵送では締切に間に合わないため、ひとりハリウッドを目指してバスに乗ろうとするのだったが・・・。主人公ウェンディを見守るソーシャルワーカーのスコッティ役に『リトル・ミス・サンシャイン』のトニ・コレット、ウェンディのことを案じながら面倒をみられずにいる姉のオードリーにアリス・イブが共演。監督は『セッションズ』のベン・リューイン。

 

言いたい放題

キット♤ 『アイ・アム・サム』などで名子役として注目されたダコタ・ファニングが、大人のしかも自閉症の女性を演じているのが見どころ。最近は妹のエル・ファニングの活躍が目立って、なんか影が薄くなっているようなダコタの巻き返しがあるかどうか?

アイラ♡ 彼女ももう24歳。ついエル・ファニングと比べてしまって申し訳ないけど、長いあいだ作品には恵まれてこなかった印象があるね。今回、自閉症女性のロードムービーという課題に挑戦したことが転機になればと期待。

♤ もうひとつの見どころが『スター・トレック』との関連性。ストーリーの軸となるのは、ウェンディが『スター・トレック』の脚本コンテストに応募することで、バイト先の同僚たちとのクイズごっこで、彼女が細部まで熟知しているホンモノのトレッキーであることが示される。これが伏線としてあとで効いてくる。

♡ ウェンディの頭のなかには常に『スター・トレック』の場面があり、実はそのなかで書きたいテーマもある。全編を通してウェンディの思いを探していくことが、彼女の自立と並ぶ本作の主題なんやろね。

♤ 応募の条件は、原稿が正しい書式でプリントアウトされていて、かつ締切日までに郵送で到着していること。原稿は書き上げたものの、郵送では締切に間に合わないことに気づいたウェンディはハリウッドまで独力でバスで行くと決意する。

♡ ところがペットの犬が追いかけてきて、やむを得ず犬連れで乗車するところからトラブルが続き・・・というなかで、姉やソーシャルワーカーの手を煩わせながらも困難を打開していくウェンディの姿が描かれていくというのが大筋。

♤ そこは彼女が書く脚本の中で、エンタープライズ号を失い傷ついたスポックとカークが2人で困難な旅を続けるのと重なる。感情表現が苦手なスポックを、自閉症の自分と重ね合わせているようにもみえたな。そういえば、原題の『Please Stand By』は、ウェンディが興奮状態になったときに落ち着かせるためのルーティンのキーワードとして使われているもの。『スター・トレック』では、エンタープライズ号乗員に対してしばしば使われる「そのまま待機」という放送での司令の言葉らしい。

♡ そうなんや! ちなみに、ウェンディの姉役のアリス・イヴは『スタートレック イントゥ・ダークネス』に出演。あと、ソーシャルワーカーの名前のスコッティも、ぜったいエンタープライズ号の乗員から取ってるよね。

♤ なかでも盛り上がるのは、逃走中のウェンディをたまたま発見した2人の警官のうち1人が極端なトレッキーで、ウェンディとクリンゴン語で会話するシーン。

♡ クリンゴン語って、一定の会話が成立するほど文法が確立されたものやの? 『指輪物語』でトールキンがエルフ語を作ったみたいに・・・。

♤ テレビ番組のときはクリンゴン人も英語を喋ってたけど、映画化にあたりクリンゴン語が考案され、クリンゴン人はクリンゴン語を喋ることになったというのは知っててん。けどそれは映画のセリフに必要な語彙の考案にとどまっていて、ウェンディとオタク警官がクリンゴン語で会話するのはやりすぎやろと思ってた。ところが調べてみると、クリンゴン語の作成には言語学者がかんでいて、一部のマニアは実際にクリンゴン語で会話することもできると知って驚いた。Wikipediaによると、Googleでは検索の表示言語をクリンゴン語にできたり、Bingではクリンゴン語への翻訳ができたりするというからかなり本格的やな。

♡ 物語そのものは平板で、トラブルといっても大事に至るわけではないし、周囲の人がしっかり彼女を見守りつつ物語は進んでいく形。発達障害者が主人公なので、特定の症状をことさらに強調せず、ポジティブな流れで描いていくという選択肢になるのかもしれないね。でも、彼女が『スター・トレック』の主人公と重ねながら、ひとつの思いをもって脚本を書き上げたということがわかるラストは悪くない。彼女の脚本でスポックが語る「論理的に帰結される進むべき方向はひとつ。Go forward」というのもぐっとくる。

♤ ダコタ・ファニングは子役から抜け出て、大人の女優への足場を固める時期にあると思うけど、大作ではなくこのサイズの映画でトレッキーの自閉症役というのはよかったのとちがうかな。海外版のオリジナルポスターは、あまり美人には写ってないけど、演技のできる女優として再出発の意思が伝わってくる気がする。それに比べると、日本版のポスターは彼女の可愛らしさを前面に出そうとしてる感じ。

♡ そうやね。ほんわかした場面のコラージュで、本作のテーマとはかけ離れてる。

♤ あと映画の中では使われてないけど、オリジナル版ポスターでは、バルカン人の「長寿と繁栄を」の手のサインがはっきり示されている。日本版でこれが無視されたのは残念!

 

予告編

スタッフ

監督 ベン・リューイン
脚本 マイケル・ゴラムコ

キャスト

ダコタ・ファニング ウェンディ
トニ・コレット スコッティ
アリス・イブ オードリー

レクタングル336

レクタングル336

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