レビュー

COLD WAR あの歌、2つの心(Zimna wojna)

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おすすめ度

Zimna wojna

キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

ポーランド映画として初のアカデミー外国語映画賞を受賞した『イーダ』のパベウ・パブリコフスキ監督作品。冷戦下の1950年代、ポーランドの音楽舞踏学校で出会ったピアニストのヴィクトルと歌手志望のズーラ。社会主義体制のもとでの活動と政府の監視に耐えられなくなったヴィクトルはパリへと亡命するが、ズーラはポーランドに残る。音楽舞踏団で活躍するようになったズーラは、公演先でヴィクトルと再開。パリのジャズ界で活動していたヴィクトルのもとで、ジャズシンガーとしてレコードデビューまで果たすが、一緒にいてもすれ違うばかりの2人の心は着地点を見つけることができない・・・。2018年・第71回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した美しいモノクロ作品。

 

言いたい放題

アイラ♡ モノクロ映像が鮮烈。力強さと繊細さが共存していて、モノクロであることをほとんど意識せずに観てしまう。音楽団員の群舞シーンなんて、民族衣装のカラフルな刺繍の色が見える気がしたほどやわ。

キット♤ 画面の縦横比も昔ながらの幅の狭いタイプ。冒頭、いきなりバグパイプのような楽器とフィドルがポーランドの民謡を奏でる。奏でるというよりも、粗野で力強い演奏。次に足踏み式のアコーディオンを演奏するおばあちゃんに画面は切り替わる。これらがポーランドのマズルカという音楽なのかな。洗練されてはいないけど聞くだけで疲れそうな力強さがある。こうした村々で主人公のヴィクトルは、様々な民族音楽を録音して回っている。

♡ 舞台はそこから民族音楽舞踊学校のオーディションのシーンへ。もうひとりの主人公ズーラも候補者の一員で、集まる候補者はみな、冒頭のような民族音楽のバックグラウンドとスキルを持つ若手たち。まるでドキュメンタリーのような独特の始まり方よね。

♤ 舞台は第二次世界大戦終結後の冷戦時代。ナチスドイツに蹂躙されたポーランドは、自らのアイデンティティを再発見するために民謡を再発掘しようとしていたのかなと思う。ピアニストで指導的立場にいるヴィクトルは発掘する側、複雑な過去を引きずっているズーラは自分の能力で現状から抜け出したいとオーディションを受ける側。この2人が接近したり、離れたりしながら物語は進む。

♡ ものすごく興味深いのが音楽の使い方。音楽映画といってもいいくらい、冒頭から押し出される民族音楽の泥臭さ、パリでズーラやヴィクトルが歌い演奏するジャズの洗練。2人の立ち位置や思いが象徴されているようやった。

♤ ポーランドの音楽舞踊団は、ヴィクトルたちの努力の甲斐あって実績をあげるが、冷戦下でソ連の影響下にあるポーランド政府が音楽を国威高揚、指導者賛美に使おうとしてくる。作品中何度も使われる「およよ~い」と聞こえる曲が、民謡からステージ音楽になり、フランスではジャズに編曲されて変遷していくところは面白い。

♡ 邦題にも使われた『2つの心』という曲らしいわね。民謡からジャズへ、さらにそこへフランス語の歌詞が乗って・・・という具合にひとつの曲が洗練されていくとき、逆に曲の持つ土着的な力強さが失われ、無のようなもの漂っていくという象徴的な使われ方には驚いた。

♡ ファム・ファタールであるズーラを演じるヨアンナ・クーリクという女優も、少女っぽく初々しい時期から、荒れてくたびれた時期までを壮絶に演じてる。

♤ この2人、ヴィクトルがフランスに亡命し、ズーラはポーランドに残る。その後も縁は切れることだなく、パリやユーゴスラビアで再会したりまた別れたり、最後はヴィクトルが逮捕されるのを覚悟でポーランドへズーラを追いかけていき、案の定懲役15年をくらう。腐れ縁そのもの。

♡ なのに2人で生きるためなら、相手に恋人や夫がいようと、子供が生まれていようと手段をいとわないところもあって、特にズーラの破滅型ぶりはすごい。体制に翻弄される2人の物語なのかというと、たしかに冷戦が2人の命運を変えてはいくのやけど、悲恋ものかといえばそういう印象ではないのはズーラの取り憑かれたような強さゆえなのかもしれない。

♤ 互いに求めあいながら、一緒にいるとつまらないことで仲違いして、結局どちらも抜き差しならぬ状況に陥った末に、そこから抜け出すためにあのラストシーンへ繋がるという筋書きは納得しにくいところはあるんやけど、まあそんなものかなとも思う。タイトルの『Cold War(冷戦)』が示すのは時代背景となった東西冷戦やけど、2人の微妙にもつれた関係のことにも掛けてあるのかもしれない。

♡ それにしても撮影が本当にいいね。田舎の村で古い録音機を回す場面とパリの路地裏とでは、光のコントラストがまったく違うし、パリの場面なんてヌーベルヴァーグ作品のように都会的。たっぷりと余韻を使った印象的なラストシーンには、すでにこの世のものではないような情感までが漂う。

♤ ラストに近いところで、2人の乗ったバスが田舎の交差点で停まり、バスが画面の左に消え、下車した2人が歩いて画面の左に消えていくのを固定のカメラで撮影したシーンが印象的やった。モノクロ映像に古典的な撮影手法。この時代を描くのにふさわしい表現やった気がする。

 

予告編

スタッフ

監督 パベウ・パブリコフスキ
脚本 パベウ・パブリコフスキ
ヤヌシュ・グロワツキ
ピヨトル・バルコフスキ

 

キャスト

ヨアンナ・クーリグ ズーラ
トマシュ・コット ヴィクトル
ボリス・シィツ カチマレク
アガタ・クレシャ イレーナ
セドリック・カーン ミシェル

 

レクタングル336

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