おすすめ度
キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.5 ★★★★☆
長編デビュー作『キャラメル』で高く評価を得たレバノンの女性監督ナディーン・ラバキーが、中東の貧困・移民問題を描く。ベイルートの貧困家庭に生まれた12歳の少年ゼインは、親が出生届を出していないために戸籍をもっていない。妹が売られるように結婚させられたことに反発して家を出るが、IDがないため仕事に就くこともできない。知り合ったエチオピア移民の女性と知り合い、彼女の赤ん坊を世話しながら一緒に暮らすことになるが……。2018年・第71回カンヌ国際映画祭で審査員賞とエキュメニカル審査員賞を受賞。
言いたい放題
アイラ♡ この時点で、今年の私のベスト3入りは間違いなさそうな作品。観ているうちに、これがフィクションなのかノンフィクションなのかわからなくなってしまうほど、あまりに過酷なのに自然すぎる演出と子供たちの演技。ときにユーモアを交えた、無駄のないスピーディな展開といい、この監督の圧倒的な表現力に舌を巻くばかりやったわ。
キット♤ 裁判所の場面から始まって話は過去へと戻り、主人公の少年ゼインの家庭の様子、親に反発しての家出、エチオピア人の母子との共同生活とその終焉、そして冒頭の裁判所の場面へと戻ってくる。中東のどこかの国の話だろうという予想はつくけど宗教色はなく、どこの話やろ・・・と思っていると、舞台はレバノンのベイルートやった。レバノンへはシリアからの難民が100万人以上流入して問題になってるけど、極貧家庭であるゼインの家族は移民ではない様子。レバノンはキリスト教徒も多いようやけど、宗教対立的な場面はほとんどない。「貧困」に焦点を当てるため、宗教色はあえて取り除いたのかもしれないな。
♡ 一家の赤貧ぶりがとにかく凄まじい。あからさまにいえば子作りするしか能がない両親は、子供たちを学校にも行かせず、生活のために働かせる。12歳ということになっているゼインは出生届も出されていない。ある日、仲のよい妹が売り飛ばされるように年かさの男と結婚させられ、ゼインは反発して家を飛び出す。あの年齢にしてすでに世知に長けたゼインが、器量のよい妹の結婚を先延ばししようと、彼女の初潮を隠すべく小細工をする場面はあまりにも哀しい。
♤ 戸籍のないゼインは職をみつけることもできず、浮浪児のように街から街へと彷徨ううちに、エチオピア人の女性と知り合う。彼女も不法入国者で、しかも赤ん坊連れ。子供を公衆トイレに隠しながら授乳するような過酷な状況下で生きている。
♡ やがてゼインは彼女たちと一緒に暮らしだす。彼女が仕事に出ている間、小さい子の世話に慣れているゼインが上手に赤ん坊を遊ばせる。衛生的とはいえない環境でも、赤ん坊が汚いものを口にしないよう配慮してやる彼の優しさ。その彼女もまた、不法入国が発覚してしまって・・・。不幸なことがどんどん重なってやりきれなくなってくるけど、子どもたちの可愛らしい演技でほっこりさせられたりもして、終始スクリーンから目が離せない。
♤ ゼインを演じる子役のゼイン・アル=ハッジは、自身もレバノンへ逃れてきたシリア難民。暴力や略奪の連鎖という理論を信じるならゼインはその底辺近くに居るのに、妹への思いやりや、転がり込んだ家庭での赤ん坊の面倒をみるなどの優しさを持っている。決して良い子という設定ではなく、必要にかられて盗みもするし、生きていくための知恵を持った賢い子をこの子役はみごとに演じている。
♡ 未見ながら、少し前に話題になった是枝裕和監督の『万引き家族』に通じるものがあるという人もいる。ただ本作は、あまりのダメ親ぶりが際立ちすぎて怒りがわいてくるよね。
♤ ゼインは最終的に、「自分を生んだ罪」で親を訴えるという挙に出る。さすがにこれは大人のつけた知恵かという思いもあるけれど・・・。
♡ ところが親たちはそれで反省さえせず、法廷で開き直り、あまつさえ神を呪うような言葉を吐く。あまりの貧困は人から信仰心や最低限のモラルさえ取り上げるのだと突きつけてくる、なかなかに凄みのある作品やった。ゼインはといえば、小さい子たちには責任と気配りを持って接し、許せない大人にはきっちり落とし前をつけに行く。すでに立派な大人の男ともいえ、だからこそ彼にはまっとうに生きていってほしいと願ってしまう。ラストシーンで彼がかすかに見せる微笑みが、多少なりとも明るい未来への希望となるのやけどね・・・。
予告編
スタッフ
監督 | ナディーン・ラバキー |
脚本 | ナディーン・ラバキー |
ジハード・ホジェイリ | |
ミシェル・ケサルワニ | |
ジョルジュ・ハッバス | |
ハーレド・ムザンナル |
キャスト
ゼイン・アル・ラフィーア | ゼイン |
ヨルダノス・シフェラウ | ラヒル・シファラ |
ボルワティフ・トレジャー・バンコレ | ヨナス |
カウサル・アル・ハッダード | スアード |
ファーディー・カーメル・ユーセフ | セリーム |
シドラ・イザーム | サハル |
アラーア・シュシュニーヤ | アスプロ |