おすすめ度
キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 3.0 ★★★
カメラマン木村大作が、『劔岳 点の記』『春を背負って』に続き監督第3作として手がけた時代劇。直木賞作家である葉室麟の同名小説の実写映画化である。享保年間。藩の不正を訴え出たために藩を追放された瓜生新兵衛は、死の床にある妻から願いを託される。新兵衛のかつての友であり、藩追放に際して因縁のあった榊原采女を助けてほしいというその願いをかなえるため新兵衛は故郷に戻り、彼らはやがて不正事件の真相に翻弄されていく。新兵衛に岡田准一、采女に西島秀俊。黒木華、池松壮亮、麻生久美子らが脇を固める。脚本は『雨あがる』などの監督・小泉堯史。
言いたい放題
キット♤ 監督の木村大作は黒澤明の撮影助手から撮影畑で活躍してきた人とのこと。70歳になってから監督を手がけ、本作ではまだ3作目。雪が降る中での殺陣、馬に乗って並木道を疾駆するシーンなど映像がとにかく美しい。特に主演の新兵衛(岡田准一)が旧友采女(西島秀俊)と対峙するときの殺陣は、ちゃんばらというよりも剣術の様式美を見せられたようなインパクトのあるシーン。
アイラ♡ アイドルタレントながら、岡田くんのストイックな役作りは定評のあるところで、殺陣も決して適当なものではないのよね。采女と切り結ぶ場面はかなりの長回しで撮られているにも関わらず、観る側に一瞬たりとも息をつかせぬ緊張感が伝わってきて見ごたえがある。この場面に本作の価値が詰まっているといってもいいほどでは?
♤ 岡田准一が実際に振るう剣のスピードが段違いに速くて、かつ止まるところでの姿勢が良いので、素人目にも剣の達人のように見えて格好が良い。アクションだけでなく、死を悟った妻との場面や、その妻を巡ってもやもやしたものがあった采女に妻からの手紙を見せられた場面などでの微妙な表情など、思ったよりやるなあという感じ。
♡ とはいえ、全体としては妻と新兵衛とのラブストーリーなのかな。藤沢周平原作の『隠し剣』シリーズみたいな、優れた剣の腕を持つ下級武士が政治の陰謀に翻弄されていく手の話は、最近の邦画を通しても良い作品が少なからず作られているけど、本作は隠蔽された不正事件といってもたいした話ではなく、新兵衛たちが命を賭けて臨むほどのものかという思いが残る。妻との約束を果たす話だとしても、事件をめぐる部分が薄っぺらくて、時代劇らしい面白さにはいまひとつ欠けるよね。
♤ 新兵衛の脱藩の原因になったという殺人事件の犯人は不明のままで、その斬り方から新兵衛、采女を含む道場の四天王の誰かが手を下したらしいというところまでは推理仕立てにしてあるのに、その落ちがつまらない。藩の実権を握る悪者がテレビの時代劇の悪者然としているのは仕方ないとして、その命令を受けて新兵衛たちを襲う大勢の藩士たちは人格もない「駒」としての描写なのは古い「時代劇」の枠を超えられていないように思ってしまう。全体としては十分楽しめる良い映画やったと思うけど。
♡ そうやね。タイトルにもなる「散り椿」の意味はやや陳腐ながらもきれいに織り込まれているし、何より立山連峰や彦根城などいろんな場所で撮影された四季折々の映像が美しい。殺陣も素晴らしい。監督の撮りたかった世界がここにあるんやろなとも思う。にもかかわらず、観る者の琴線に触れるほどの物語がないので、旬の俳優陣を起用していながら、名作となるまでには至ってない。脱藩や切腹など四天王とうたわれた人々の背景をもっと描き込むことができてたら、深みのある人間模様が絡んで面白くなったやろうに。その意味でちょっと惜しい作品でした。
予告編
スタッフ
監督 | 木村大作 |
原作 | 葉室麟 |
脚本 | 小泉堯史 |
キャスト
岡田准一 | 瓜生新兵衛 |
西島秀俊 | 榊原采女 |
黒木華 | 坂下里美 |
池松壮亮 | 坂下藤吾 |
麻生久美子 | 瓜生篠 |
緒形直人 | 篠原三右衛門 |
新井浩文 | 宇野十蔵 |
柳楽優弥 | 平山十五郎 |
芳根京子 | 篠原美鈴 |
駿河太郎 | 坂下源之進 |
渡辺大 | 千賀谷政家 |
石橋蓮司 | 田中屋惣兵衛 |
富司純子 | 榊原滋野 |
奥田瑛二 | 石田玄蕃 |