レビュー

ダンケルク(Dunkirk)

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ダンケルクのポスターキット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

『ダークナイト』や『インターステラー』など独特の作風を持つノーラン・ライアン監督が、実話をもとに初めて手がける戦争映画。1940年、史上最大の救出作戦といわれる“ダイナモ作戦“が実行されたダンケルクの戦いを英国軍側の視点から描く。映画デビューとなる新人のフィオン・ホワイトヘッド、ノーラン作品常連のトム・ハーディ、キリアン・マーフィ、『ブリッジ・オブ・スパイ』でアカデミー助演男優賞を受賞したマーク・ライランス、ケネス・ブラナー、ワン・ダイレクションのハリー・スタイルズらが出演。

 

 

言いたい放題

アイラ♡ 戦争映画はもはや古典的ジャンルで、過去にもありとあらゆる表現手法が試みられてきたけど、こういう方法があったのか・・・という衝撃に近いものがあったわね。最近観た『ベイビードライバー』と並べるのは乱暴やけど、もはや珍しくはないジャンルで、続けざまにはっとするような新鮮な語り口をみせてもらってすごく嬉しい。

キット♤ 題材も異色。ダンケルクの戦いは、第二次世界大戦が始まった2年後の1940年。80万人のドイツ軍が破竹の勢いでフランスへ侵攻した直後、態勢の整わないまま敗退を重ねた英仏連合軍が英仏海峡まで追い詰められ、40万人のイギリス軍が撤退を余儀なくされるといういわば負け戦。『史上最大の作戦』で知られる連合軍のノルマンディ上陸作戦はこの4年後やけど、それと比べていまひとつ映える題材ではない。ちなみに、ダンケルクとはフランス北部、ベルギー国境に近い海岸の街の名。50kmくらい西へ行くと、今は海底トンネルでイギリスとつながっているドーバー海峡がある。

♡ クリストファー・ノーラン監督は、戦争ものにサスペンス・スリラーの手法を取り入れてみたと語ってるのよね。

♤ 典型的な戦闘場面がほとんどない。冒頭でわずかにダンケルクでの市街戦があるけど、あとは爆撃機からの爆弾投下やUボートからの魚雷攻撃など、ドイツ側からの一方的な攻撃に怯えて逃げまどうイギリス兵たちの視線から描いていて、ドイツ兵は一切姿かたちを見せない。そこに恐怖が生まれる仕掛け。

♡ 戦いというよりはサバイバル。桟橋を埋め尽くす兵士たちが敵機の影に表情をゆがませたり、沈没する船の中で溺れかけたり。手足や内臓が吹っ飛ぶ系の戦争映画にそろそろ慣れてきた身には、このほうがむしろ強烈な恐怖の追体験があるよね。血なまぐさいリアリティへのアンチテーゼというか・・・。ハンス・ジマーの音楽も、鉄パイプを叩いているかのようなほとんど効果音に近い感じで、見る者の神経をがんがんゆさぶってくる。

♤ 唯一の例外は、イギリスのスピットファイアとドイツのメッサーシュミットとの空中戦やけど、ここでもドイツ側の人間は一切見えてこない。徹頭徹尾、連合軍側しかもドイツにやられっぱなしで生死もおぼつかない兵士たちの視点で撮りきってる。

♡ この空中戦の場面。桟橋や船の甲板にいる兵士たちの息苦しさに観客もええかげん苦し~くなってくるころに、ぱっと入れてくる。ここで空気が完全に入れ替わるので、手法としてはなかなか秀逸やね。

♤ 特定の主人公のいない群像劇という手法ながら、何人か際立った登場人物を置いてる。その一人であるトミー(フィオン・ホワイトヘッド)は、市街戦から命からがら抜け出してダンケルクの海岸に到着する。そこでイギリス兵になりすまして脱出を図ろうとしているフランス兵ギブソン(アナイリン・バーナード)と出会うのやけど、この2人は姑息にも負傷者を担架で病院船に運ぶことで順番待ちの行列を飛ばして脱出船に乗り込もうとする。一切のセリフなしに、阿吽の呼吸でズルをする2人の見せ方がうまい。

♡ 場面は大きく、トミーたちのいる「陸」、英国政府の要請による救出作戦に応じてフランスに向かう民間船の船長Mr.ドーソン(マーク・ライランス)の「海」、そしてイギリス空軍でスピットファイアの操縦士ファリア(トム・ハーディ)が活躍する「空」の3つのパートに分かれている。最初よくわからなかったのやけど、この3つの場面は同時進行ではなく、それぞれに異なる時間軸で動いてるのよね。

♤ 各場面の最初にキャプションが入っていて、陸は1週間、海は1日、空は数時間というような表示が出る。100分という映画の枠にそれぞれを収めるための工夫かと思うけど、たしかにちょっと分かりにくかったな。「陸」の部分は、船で脱出しようとしては撃沈されて陸に戻ることを繰り返す1週間の出来事。「空」は戦闘機の燃料がなくなるまでの時間しかない。「海」はイギリスから救出に行って戻ってくるまでの1日。これらを同時進行させながら話が進むので混乱する。スピットファイアが海上に不時着するシーンは2回出て来るけど、いずれも同じ不時着場面を「空」からと「海」から描いているというのがすぐには分からなかった。

♡ ノーラン監督は実写にこだわる人で、何隻もの船をほんまに沈めてしまったとか、山ほどの兵士もCGを使ってないとか、このご時世にえらいこっちゃね。

♤ ブルースクリーンは使わず、とことん実写するためにスピットファイア3機も当時のものを飛ばしたというからマニアにはたまらんやろね。銀塩フィルムでの撮影にもこだわってるそうで、かつ本作はIMAXで撮ったらしい。35mmフィルムでの上映館で観たけど、上下がカットされて60%くらいしか見えてないそうなので、IMAX上映館で観たほうがよかったな。

♡ 俳優陣では、二等兵役にワン・ダイレクションのハリー・スタイルズが起用されてる。「陸」部分を引き締める海軍中佐役のケネス・プラナーは、シェークスピア俳優であり『マイティ・ソー』や『シンデレラ』などの監督でもあるけど、抜群の存在感やったね。あと、スピットファイアのパイロットを演じたトム・ハーディが唯一戦争映画らしい場面を任されて、いちばんカッコいいところをさらってる。ただ大半はマスクで顔が覆われてて残念~(泣)

♤ ノーラン監督のお気に入りの一人ということもあってか、最後に燃料切れになってから滑空するところは、これでもかというくらい引き延ばして見せ場を作ってもらってるしな。もう一人監督お気に入りのキリアン・マーフィは、Mr.ドーソン(マーク・ライランス)に助けてもらう英国兵士の役。魚雷におびえてる役立たずで、ゲスト出演みたいな感じかな。

♡ かもしれないけど、戦争によるPTSDを端的に語らせる主要な役ともいえる。不慮の死を遂げる民間人青年の存在も、物語を締めくくるのに重みを添えてるよね。英国人の誇りの象徴というか・・・。そういえば一番最後の場面、新聞から目をあげたトミーの顔が一度消えて再びパッと出る。あの意味深げなラストシーンが気になってる。

♤ あと、マーク・ライランスは『ブリッジ・オブ・スパイ』ではソ連のスパイ役やったけど、この映画ではキリッとした英国人で格好よし。

♡ ダンケルクの戦いは、イギリス人なら知らない者はないそうで、負け戦ではあるけれどこれで兵力を温存できたことで後の勝利もあったという点では重要な決断。いろんな意味で本作は、イギリス人にとっては快哉ものの作品なんやと思う。ユニオンジャックを翻してやってくる民間船団の登場場面といい、ロールス・ロイス社製の華麗なるエンジン音をMr.ドーソンが賞賛する場面といい、イギリスの映画館ではさぞ大歓声が起きたことやろなと想像すると楽しい。

♤ ともあれ、機会があったらIMAXでもう一度観よ!

 

予告編

スタッフ

監督 クリストファー・ノーラン
脚本 クリストファー・ノーラン

 

キャスト

トム・ハーディ ファリア
フィオン・ホワイトヘッド トミー
トム・グリン=カーニー ピーター
ジャック・ロウデン コリンズ
ハリー・スタイルズ アレックス
アナイリン・バーナード ギブソン
ジェームズ・ダーシー ウィナント陸軍大佐
バリー・コーガン ジョージ
ケネス・ブラナー ボルトン海軍中佐
キリアン・マーフィ 謎の英国兵
マーク・ライランス ミスター・ドーソン

 

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