おすすめ度
キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆
『ローズマリーの赤ちゃん』『戦場のピアニスト』などのロマン・ポランスキー監督の新作。前作『毛皮のヴィーナス』から4年ぶりとなる。フランスの作家デルフィーヌ・ドゥ・ビガンの小説『デルフィーヌの友情』を原作に、ポランスキー監督の妻で『毛皮・・・』にも主演したエマニュエル・セニエと、『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』のエバ・グリーンを主人公に、2人の女性の危うい関係を描く。自殺した母親との顛末を綴った私小説がベストセラーとなるも、スランプに陥り次作に着手できずにいる作家デルフィーヌの前に、ファンと称する女性エルが現れる。自分を理解し、秘書のような働きぶりをみせるエルに信頼を寄せたデルフィーヌは、エルを自宅に住まわせるようになるが、時としてみせるエルのヒステリックで不可解な言動がデルフィーヌを翻弄していく。エルはやがて自らの壮絶な身の上を語り始め、デルフィーヌは作家としてその話に関心を持ちはじめたが・・・。
言いたい放題
キット♤ 82歳のウッディ・アレン監督作品の翌日に観賞。こちらは現在84歳のロマン・ポランスキー監督作。多作のウッディ・アレンと比べると2~3年に1本のペースやけど、ふたりとも映画監督のキャリアの終盤にさしかかって、好きに脚本をつくり気に入った俳優を使って思うがままに撮るというところでは似ている感じ。
アイラ♡ どちらも老いてなお女性スキャンダルが多いところもね。
♤ けど2人の作品を続けて観るとそれぞれの個性が際立ってて面白いな。アレンの脚本がセリフ過多ぎみで、アメリカ映画らしく逐一説明的であるのにたいして、ポランスキーの脚本は観客に「足らん部分は自分で想像しといて」と突き放しているかのようであるところは典型的なヨーロッパ映画。二人とも綺麗な絵を撮るけど、アレンが舞台を連想させるフラットでカチッとした感じなのに対して、ポランスキーの映像はコントラストの効いた深みのある感じを出していた。
♡ 観終わってみると、どこかで観た作品を寄せ集めたような感じが否めなかったけど、物語の途中では先がまったく読めずスリリングな展開が続く。主人公2人の力関係の顛末が見えているようで、途中で逆転したように思わせるところもあって意外と翻弄させる。さすがポランスキーやね。
♤ 登場人物として重要なのは2人。ひとりは売れっ子作家のデルフィーヌ。演じるのはポランスキーの奥さんでもあるエマニュエル・セニエ。彼女は母親の死を題材にした私小説風の作品がベストセラーとなったが、次の作品はフィクションでいきたいと思いつつも、まったく書き始めることができずにいる。そんな彼女に接近してくるのがエヴァ・グリーン演じるエル。自称ゴーストライターのエルは、スランプで疲れ気味のデルフィーヌに巧妙に取り入ってくる。
♡ 最初はひとりのファンとしてサイン会の場で近づき、やがて仕事や交友関係にも立ち入りはじめ、デルフィーヌを支配しようとしていくプロセスがなかなか怖い。秘書でもないのに勝手にあちこちにメールを出し、講演依頼を引き受け、デルフィーヌになりすましていく。信頼をいいことにパソコンのパスワードもいとも簡単に聞き出してしまうので、Facebookの炎上騒動も、さらには差出人不明の脅迫めいた手紙も、すべてエルが仕掛けたのではないかと観客は思ってしまう。
♤ 作家の熱狂的なファンが暴走するのはスティーヴン・キングの『ミザリー』を連想させる。エルを同居させると勝手にあれこれやり始めて、デルフィーヌに成りすまして講演に出るところはブリジット・フォンダ主演の『ルームメイト』を思い出した。
♡ エルの本当の目的がいまひとつはっきりとしないのやけど、熱狂的なファンとして自分の思い通りの次作を書かようとしたのなら、ほんと『ミザリー』よね。物書きのはしくれとして、大者を踏み台にのし上がろうとしているのなら『イブの総て』にも通じると思ったけど、ともあれ、本作のようなシチュエーションは過去にもいろんな形で映画になってる。でも、スランプで疲れ切った作家が精神的にいかに追い込まれているかを、デルフィーヌの夢や幻覚を通じて表現している点でやっぱりポランスキーって感性的にすごいんよね。
♤ エルはもともと精神的に不安定で危ない人やったけど、デルフィーヌの熱烈なファンで、私小説風の前作の続編を期待しているのに、本人は次作ををフィクションで行きたいと思っていることがわかりプッツン来てしまったというところかな? デルフィーヌ自身も私小説を脱却してフィクションへ進もうと思いつつ、エルという「題材」が見つかると彼女の過去を聞き出して作品のネタにしようとするなど心が揺れ動く。
♡ ネタを集めたい一心のデルフィーヌは、エルをうまく“罠にかけた”と思い込んでいて、逆にエルの仕掛けた泥沼から抜けられなくなってしまっているというところがなんとも気の毒で・・・。
♤ エマニュエル・セニエは、きれいに化粧してすっきり装っているときと、疲れ果てているときとの落差が痛々しいくらいリアルで、役になりきっている。対するエヴァ・グリーンは逆に一分の隙もない見かけで、段々とサイコ的な本性を出してくるところがかなり怖い。
♡ 『ミス・ペレグリン・・・』のとき、何てきれいな人かしらと思ったけど、今回はその完璧な美貌がぞっとする怖さにつながってる。そもそもが般若顔なだけになお怖い。
♤ 映画のタイトルは『D’apres une histoire vraie』。英語のタイトルは「Based on a True Story」で。この私小説かフィクションかというデルフィーヌの悩みをタイトルにしたところがなかなか洒落ている。
♡ しかもこのタイトルがエンドロールの直前に出てくるので、この映画自体が実話なのかと観客を戸惑わせる面白いつくり。そこから一瞬おいて、タイトルの真下にふわりと「監督 ロマン・ポランスキー」と浮かび上がる仕掛け。ほんとに洒落てるわよねぇ。
♤ ガソリンスタンドで給油中に講演をすっぽかした学校の司書と偶然出会うというのは映画とはいえ出来すぎているし、ラストの落ちも「おいおい」という感じがしないでもないが、ポランスキーはそういうリアクションを承知の上、細かなところには拘らず、余裕で自分の好きな映画を撮ったという感じがする。
予告編
スタッフ
監督 | ロマン・ポランスキー |
脚本 | オリビエ・アサイヤス |
ロマン・ポランスキー |
キャスト
エマニュエル・セニエ | デルフィーヌ |
エバ・グリーン | エル |
バンサン・ペレーズ | フランソワ |
ドミニク・ピノン | レイモン |
ジョゼ・ダヤン | カリーナ |