レビュー

バジュランギおじさんと、小さな迷子(Bajrangi Bhaijaan)

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おすすめ度

キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

Bajrangi Bhaijaan

インド人男性と声をだすことのできないパキスタン人の少女が、国や宗教の違いを超えて少女の故郷の村をめざすロードムービー。あたたかい物語で世界中でヒットを記録した。パキスタンのヒマラヤ山麓の小さな村に家族と住む少女シャヒーダーは、願掛けのために訪ねてきたインドのイスラム教寺院からの帰り、母親とはぐれてしまい一人インドに取り残されてしまう。熱心なヒンドゥー教徒でお人好しの青年パワンがそんなシャヒーダーを保護するが、やがて彼女がイスラム教徒のパキスタン人と知って驚愕。優しいパワンは、彼女を親元へ送り届けることを決意し、パスポートもビザもない2人の国境越えの旅が始まる。インド映画界の人気スター、サルマーン・カーンがパワンを演じる。

 

言いたい放題

キット♤ 毎年確実にプレゼンスを高めているインド映画。本作も公開前から前評判が高かった。シリアス・ドラマではなくコメディタッチの作品やけど、実は隣国パキスタンとの関係や、ヒンドゥー教とイスラム教の相容れなさにも触れたナイーブなストーリーでもある。

アイラ♡ といいつつ、ボリウッド映画ならではの「美男美女が主人公」「勧善懲悪」「笑いあり涙あり」「感動的な結末」そして絶対外せない「群舞シーン」というお約束をすべて網羅。娯楽作の定石はしっかりと踏んでいる。とてもいい作品なのに、大都市部でも上映館が限られていて、他のインド映画と同様、口コミでじわじわヒットしていくのを待つ作戦とみた。

♤ 主人公のバジュランギおじさんことパワンは、熱心なヒンドゥー教徒のインド人。学校を何回も落第して、父親にも見放されそうになりながらやっと卒業したという落ちこぼれの若いおっさん。声が出せない(聞くことはできる)迷子の少女シャヒーダーと出会い、警察に連れて行くが保護してもらえず、連れて帰って親を探すことになるというお人好し。

♡ パワンを演じるのが最も有名なボリウッド俳優といわれるサルマン・カーン。甘ったるい顔だちの太めマッチョやけど、おっさんの生真面目でお人好しなところを全身で演じてる。

♤ ヒンドゥー教はカースト制度と切り離せない関係にあり、カーストの高い人たちには菜食主義の人が多い。パワンの家のカーストはわからないけど、家では菜食。お気楽なパワンは、「この子はきっとバラモン(カーストの最上位)の子供だ」と思い込むが、シャヒーダーは野菜と豆ばかりの食事に満足できず、勝手に近所のムスリムの家に入り込んで肉入りのカレーをご馳走になっている。それを見たパワンはショックを受けるが、「クシャトリア(カーストの上から2番め)かもしれない」と自分に言い聞かせる。ところがシャヒーダーがいつの間にかモスクでお祈りしているのを目撃して、彼女がイスラム教徒だという事実に愕然とする。本来ならそれだけで大変な話なのに、ここを軽いコメディ調でサラッと流しているのがうまい。

♡ 隣家からシャヒーダーを連れ帰ろうとしても、すぐ肉のところへ戻ってしまう場面が何度も何度も繰り返される。ベタなギャグをテンポよく繰り返す場面は結構あって、インド映画って洗練された編集センスを持ってるといつも思うわぁ。

♤ いろいろあって、シャヒーダーがパキスタンからやってきた子だということが判明する。ここから話は急展開。パワンはシャヒーダをの親元に帰すべく、役所に出向くが相手にされない。根が生真面目なパワンは、自分でシャヒーダをパキスタンまで連れて行こうと決意する。

♡ 最初は旅行代理店を装った密入国仲介業のようなところを頼るんやけど、これが悪いやつで、シャヒーダーを売春宿に売り飛ばしかける。パワンは勇敢に戦ってシャヒーダーを取り返すけど、実際には人身売買や誘拐、詐欺などによって売春を強いられる少女たちの存在はインドでも大きな社会問題になってるそう。社会の抱える問題に大なり小なり言及するのが最近のインド映画の傾向と感じることが多いけど、この場面もその一環なのかしらね。

♤ けど最大のポイントは、何といってもインドとパキスタンの対立やろな。『英国総督 最後の家』にも描かれてたけど、両国にはイギリスからの独立の際に宗教の違いが原因で分離した歴史がある。互いに確執があり、いまも仲は良くない。日本人がインド入国のためのビザ申請をする際には、パキスタンへの旅行履歴やパキスタンに親戚がいるかどうかまで届け出なければならないくらい。インド人のパワンがパキスタンへ入ろうにもビザが取れないし、シャヒーダーを連れて国境を越えるなど至難の業。それでも困難にめげずに密出国を企てるパワン。密出国仲介業者やら、ラクダに乗ったパキスタンの国境警備隊とのやりとりも、パワンの生真面目さを生かしてうまくコメディ仕立てにしてる。

♡ 後半にさしかかって、パキスタンの売れない映像ジャーナリストが加わってのロードムービーになっていく。作品の雰囲気もがらりと変わり、北部インドの美しい風景を存分に楽しむことができる。目を見張るような景色のなかを旅していく彼らの様子も本作の重要な見どころ。このジャーナリストを演じるナワーズッディーン・シッディーキーは、『めぐり遭わせのお弁当』『LION』など国際的な評価を得ている作品にも数々出演する名優。シャヒーダーを無事親元へ帰すのに重要な役どころを演じてる。

♤ 最後は2つの国が接する場所で、お約束通りにハッピーエンドとなるわけやけど、全体のトーンをコメディタッチにすることで、国や宗教の対立というテーマを重くせず、かといって軽薄にならない微妙なところで調整しているのがうまい。ラストへ向かっての盛り上げ方もいかにもインド映画らしくて、期待したとおりに盛り上がってくれる。歌と踊りのミュージカル場面も十分すぎるくらい含まれている。インド映画、すごいわ。

♡ ほんま、いつ観ても楽しいし、なんか幸せな気分になれるのがインド映画。特に世界的にヒットしている作品をみると、定石を活かしつつ社会問題にもうまく踏み込みつつ、シリアスにしすぎないさじ加減が上手やなぁと感じる。『バーフバリ』はさておいて(笑)、『PK』では宗教や迷信に根ざす差別や偏見、『ダンガル きっと強くなる』では自由な意志を貫けない女性たち、『パッドマン』では教育を身につけた女性たちと因習に縛られたままの女性たちの格差など、社会として解決していかなくてはならないテーマにうまく触れている。娯楽でありながら、映画が啓発的な役割を担っているということなのかもしれないわね。

 

予告編

スタッフ

監督 カビール・カーン
製作 サルマーン・カーン
カビール・カーン
スニール・ルーラ
ロックライン・ベンカテーシュ
原案 V・ビジャエーンドラ・プラサード
脚本 カビール・カーン
パルベーズ・シーク
V・ビジャエーンドラ・プラサード
撮影 アセーム・ミシュラー
美術 ラジニーシュ・ヘダオ
編集 ラメーシュワル・S・バガト
音楽 プリータム・チャクラボルティー

 

キャスト

サルマーン・カーン パワン
ハルシャーリー・マルホートラ シャヒーダー
カリーナ・カプール ラスィカー
ナワーズッディーン・シッディーキー チャンド・ナワーブ
シャーラト・サクセーナ ダヤーナンド

 

 

レクタングル336

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