レビュー

ハクソー・リッジ(Hacksaw Ridge)

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おすすめ度

ハクソー・リッジのポスターキット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

2017年度アカデミー賞で編集賞と録音賞を受賞したメル・ギブソン監督作品。第2次世界大戦の激戦地となった沖縄で、武器を持つことを拒否して従軍し、75人の命を救った衛生兵の姿を描いた実話。戦うことを否定しながら、壮絶な戦闘の真っ只中に立つことの意味を神に問い続ける主人公を『沈黙 サイレンス』でイエズス会の宣教師ロドリゴを熱演したアンドリュー・ガーフィールドが熱演する。

 

 

言いたい放題

キット♤ 戦争映画であることは知りつつ、予備知識なしに足を運んでみて “Hacksaw Ridge(弓のこ尾根)” というのが沖縄の前田高地のことやと知った。どこかヨーロッパの山岳地帯の戦場での話かなくらいに思っていたら、戦場は沖縄の南部、首里の北側。

アイラ♡ 良作だと思う。実話ベースということで、原作者=主人公への敬意をこめて丁寧に作られているし、脚本もいいと思う。にもかかわらず、見終わってみて何かすっきりしないものが残ってしまったのは何やろか・・・。沖縄戦が舞台であるということが国内では積極的に伝えられてなくて、「え、沖縄戦なん・・・?」ってとこで足踏みしているうちに、本来のテーマを受け入れるとこまで行きつけなかった感じ。そうでなくても、これまでの戦争映画にはない主人公の一風変わった志願理由というのが物語の柱。ここをもっと突き詰めて考えてみたかったのやけど。唯一の地上戦の舞台となった沖縄は日本にとっては特別な場所。公開前にそこが明示されなかった点には個人的に不満が残ったなぁ。

♤ 戦争映画としては確かに風変わりではある。作品の前半、時間にすれば半分以上は、主人公デズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)が生まれ育った育ったバージニアの田舎町が舞台。若者がこぞって兵役を志願するなかで、デズモンドも国のために戦地に赴くことを希望するんやけど、熱心なキリスト教信者である彼は “汝殺すなかれ“ という神の言葉を守るため、「戦うのではなく救うため」に前線行きを志願する。当然、武器は持たないと決めているので銃を持った訓練は拒否するというある種変わり者。関係者は大いに困って彼を軍法会議にかけようとまでする。

♡ 前半ではもうひとつ、彼と父親との対立がキーポイントになるのよね。父親のトムを演じたヒューゴ・ウィービングは、『マトリックス』のエージェント・スミスや『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのエルフの王様のイメージが強いけど、ここでは南部の粗野な親父を好演。第一次世界大戦に伍長として従軍するも、多くの戦友を失ったことによるPTSDで家庭的には良い父や夫ではない。デズモンドは父親の猛反対とも闘いつつ、自らの信仰に基いて志願することの意味を彼なりに深めていく。このあたりまでは、変わったヤツやなぁとは思うものの、そういう志願兵もいたんやろなという理解はできる。息子の思いを理解したときに見せる父親の男気もかっこよかったし。

♤ 後半は舞台が変わり、沖縄前田高地(ハクソー・リッジ)での戦闘が続く。戦争映画でもコンピュータによる特撮が使われるようになって、いきなり撃たれて死んでしまう場面とか、爆発で脚がずたずたになってしまう映像とか、かなりリアル。戦争映画として観ると戦闘シーンの部分はよく出来ていると思う。しかし、ハクソー・リッジの戦いだけについていえば、物量で日本軍を圧倒していた米軍の沖縄上陸後の掃討戦なのに犠牲が大きすぎて戦術的に失敗した例かなとは思うな。

♡ 崖の上での戦闘なので戦車を投入することができず、崖を上ったらいきなり白兵戦とならざるを得ないから消耗も大きいよね。ただ、戦闘シーンの描き方だけを比較するのであれば、『フルメタル・ジャケット』や『プライベート・ライアン』のほうが壮絶で強烈やったと思う。壮絶なほうがいいという意味ではないけどね。あと日本兵の戦い方についても、詳しい人からみれば疑問は多いのと違うかな。

♤ そもそもアメリカ側の視点から作られてるので、デズモンド以外の米兵にも名前と個人のキャラクター設定があるのに対して、日本軍は集団として襲いかかってきては死んでいくという描かれ方。いったん白旗を揚げといて手榴弾を投げる卑怯なこともする。アメリカ人が観れば日本人は不気味で汚いと思うやろな。けど本作ではまぁ許容範囲やろ。

♡ 日本兵を描くとなると、どうしてもカルチャーの異なる狂信的な連中としてステレオタイプ化されがちやもんねぇ。本作では嫌悪感を抱くほどではなかったけど、でも将校と思しき人物の自決・介錯の場面まで必要だったのかはちょっと疑問。

♤ クリント・イーストウッドの『硫黄島からの手紙』と『父親たちの星条旗』のような日米双方からの視点はそもそも望むべくもないけど、日本人にとっては微妙な描き方ってとこはあったよな。

♡ あとやっぱり、重要なポイントである“信仰”というテーマが、本作を日本人にとってすんなり入っていきにくい作品にしてるよね。愛国心から戦地に行くが殺しはしないという信念を理解しにくい人もいるでしょう。聞くところでは、オスカーの行方をみるまで公開するかどうか決まらなかったそうで、やっぱり日本での公開については微妙さがつきまとった感じやね。これまでにないテーマを持つ戦争映画だけに、私は興行面の微妙な及び腰がなんとも歯がゆい。

♤ 主演のアンドリュー・ガーフィールドは、スパイダーマンの後『沈黙』のロドリゴ神父役を好演していたけど、こっちでは信心深さを通り越してちょっと変人ぽいところがなんか彼のキャラに合ってる。受賞は逃したが、アカデミー主演男優賞にノミネートされるまでになったのは立派やな。キリストの最後の12時間を描いた『パッション』の監督でもあるメル・ギブソンは熱心なカトリック教徒として知られているわけで、宗派こそ違え、デズモンドの良心的兵役拒否というか宗教的理由による兵役拒否というのは彼にとって扱いたいテーマやったんやろな。

 

 

予告編

スタッフ

監督 メル・ギブソン
脚本 ロバート・シェンカン
アンドリュー・ナイト

 

キャスト

アンドリュー・ガーフィールド デズモンド・ドス
サム・ワーシントン グローバー大尉
ルーク・ブレイシー スミティ・ブレイシー
テリーサ・パーマー ドロシー・シュッテ
ヒューゴ・ウィービング トム・ドス
レイチェル・グリフィス バーサ・ドス
ビンス・ボーン ハウエル軍曹

 

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