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ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー (Harold and Lillian: A Hollywood Love Story)

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ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー のポスターキット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

ハリウッドで半世紀にわたり裏方の実力者として数々の映画製作に貢献した、ハロルド・マイケルソンと妻リリアンの業績を追ったドキュメンタリー。セシル・B・デミル監督の『十戒』、アルフレッド・ヒッチコック監督の『鳥』など、1950年代から2000年代初頭まで、彼らが関わった映画作品は100本以上。絵コンテはもちろん、映画史に残る名シーンのメイキング場面、制作をめぐる名監督らとの関わり、そして深い交流のあったメル・ブルックスやフランシス・フォード・コッポラ、ダニー・デビート、メル・ブルックスらのインタビューなどを贅沢に織り交ぜ、ハリウッド黄金期を生き抜いた2人の半生を温かな視線で綴っていく。

 

言いたい放題

キット♤ 古いアメリカ映画が好きとか映画製作の舞台裏に興味がある人にとってはものすごく面白い映画。けど、そうでない人にとっては値打ちのわかりにくい映画かもしれないな。

アイラ♡ そんな人はわざわざ劇場まで観に行かんでしょう(笑) 1950年代以降のハリウッドで、ハロルドたちが製作に関わった100本以上の作品は、アメリカ映画を観てきたあらゆる年代の人にとって懐かしさでいっぱいになる名作ばかり。これまで明かされてこなかったその製作の舞台裏は、映画好きにはたまらないエピソードにあふれてた。

♤ ハリウッドとヨーロッパとでは映画製作のプロセスがだいぶ違うらしいけど、原作がある場合、まず原作にのっとって脚本家が脚本を書き下ろし、それに基いて監督がスタッフを従えて撮影を進めていく。このとき、脚本を映像イメージに変換する作業が必要になる。“Story Board Artist”と呼ばれるハロルドたちは、脚本を読んで絵コンテを描く、まさに映像づくりの最初の段階を手がける重要な部分を担っているわけやけど、そこのところをわかりやすく解説してくれているのがとても面白い。

♡ 日本でも黒澤明監督が自分でカラフルな絵コンテを作成して、スタッフ間のイメージのすり合わせをしてたのはよく知られるところやけど、ハリウッドでは、映画が巨大産業へと成長していくときに、ハロルドのような絵コンテ作家の需要が急拡大していったようやね。

♤ ところが、彼らが映画のスタッフとしてクレジットされることはない。完全な裏方なので、撮影所がこうした人を大勢抱えてたのは全然知らなかった。なかには監督の指示で言われるままに描くだけの人もいたんやろなとは想像するけど、ハロルドが凄かったのは、自らアイデアを出して映像化に大きく貢献したところ。

♡ ほんと、知らなかったけど、セシル・B・デミル監督の『十戒』やヒッチコック監督の『鳥』など、誰もが腰を抜かしただろう迫力の特撮や、観客を恐怖に陥れるようなシーンでは、ハロルドの絵コンテが重要なアイディアを与えてるのね。映画監督たちも、もともと画面をイメージする力に優れた人種やと思うけど、絵コンテ作家の感性ってむしろ劇画作家のそれに近い感じ。特にハロルドの描くコンテは画面構成力が抜群で、メリハリのきいた場面展開は観る人を圧倒的な力で引きずり込む。あれには監督たちも大いに刺激されたことでしょうね。

♤ 『十戒』のハイライトである紅海が割れて道が開ける場面は、もちろん当時では最高の特撮技術なのは間違いないけど、監督自身が思いつかないような視点からのイメージを具体化する絵コンテがあったからこそ成り立った。あまたの名監督がハロルドを使いたがったのも理解できる。しかもコンテ作家はあくまで裏方なので、素晴らしい映像への賞賛は全て監督のところに集まるんやもんな。ヒッチコックも、斬新なカメラアングルとどうやって撮ったのか分からないくらい巧みな技術で見せ場を多く作る監督やけど、『鳥』の絵コンテと映像を比べてみると、ハロルドの貢献がどれだけ大きかったかがよくわかる。

(C)2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved.

 

(C)2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved.


♡ われわれ世代がリアルタイムで観た作品では、マイク・ニコルズ監督の『卒業』のメイキングと合わせた紹介が最高に面白かったわよね。ミセス・ロビンソンの脚の間にベンが見える、本作を象徴する名シーンとなったこのカットはまんまハロルドの功績といっていい。

♤ なのに、褒められたのは監督のマイク・ニコルズだけというのはいささか不条理やなぁ・・・。

(C)2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved.

 

♡ そして、もうひとりの主人公であるリリアン。彼女のリサーチャーという仕事は、その作品の舞台となる時代背景から、事実関係、衣装など、作品に関係するあらゆる事象について調査して、いわば映画に真実味をもたせることにある。いまの時代ならまずインターネットで調べるところから入るんでしょうけれど、そんなもののない時代のことでさぞ大変やったと思うわ。

♤ リリアンがすごいのは、集めた資料をライブラリーとして管理して、その場を映画関係者のサロンのように運営していたこと。たびたび直面したライブラリー運営の危機に際しても、仕事で培った人脈と評判から手を差し伸べるスポンサーが必ず現れ、彼女の活動が絶えることはなかった。リリアンに一番助けられたのはおそらくハロルドで、脚本から絵コンテを描く際にリリアンの調査資料が役に立ったことは映画の中でも語られている。

♡ このドキュメンタリーの製作時にはハロルドはすでに亡くなっていて、多くの時間がリリアンへのインタビューに割かれているのやけど、老いてなおチャーミングで快活な彼女の口からは、孤児として育ったこと、よく知ってもいない男と駆け落ち同然に西へ向かったこと、子どものひとりに障害があることなども語られる。仕事人としての面もさることながら、愛に満ちた家庭を築いてきた強い女性であることも描かれて、ドキュメンリーに厚みとぬくもりを加えてるわね。

♤ いかにも人柄に優れた人たちという印象で、リリアンがドリームワークスに請われて入社した関係もあってか、『シュレック2』の国王夫妻が「ハロルド国王とリリアン王妃」であることも明かされる。ハリウッド中から愛され慕われた夫婦やったんやろな。

♡ 彼らが関わったタイトルの一部だけでも、『泥棒成金』『ベン・ハー』『アパートの鍵』『スパルタカス』『ウェスト・サイド』『史上最大の作戦』『クレオパトラ』『バージニア・ウルフ』『俺たちに明日』『ローズマリー』『イージーライダー』『屋根の上』『ジョニー戦場』『エクソシスト』『イナゴ』『カッコー』『チャイナタウン』『戦争はらわた』『新サイコ』『アニー・ホール』『ディア・ハンター』『クレイマー』『スタートレック』『レイジング・ブル』『レッズ』『ワン・フロム・ザ・ハート』『ブレードランナー』『愛と追憶の』『ライトスタッフ』『スカーフェイス』『コットンクラブ』『ジョン・ブック』『ラストエンペラー』『プラトーン』『フルメタル』『レインマン』・・・。書き連ねるだけでわくわくしてくるような名作ばっかりよ。まさに黄金期のハリウッドの縁の下の力持ちやったのよね。

♤ 2人の功績が埋もれてしまうことなく、こうしてドキュメンタリー映画として残ってよかったな。

 

予告編

スタッフ

監督 ダニエル・レイム
脚本 ダニエル・レイム

 

キャスト

ハロルド・マイケルソン 本人
リリアン・マイケルソン 本人
メル・ブルックス 本人
フランシス・フォード・コッポラ 本人
ダニー・デビート 本人

 

レクタングル336

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