レビュー

KUBO クボ 二本の弦の秘密(Kubo and the Two Strings)

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Kubo and the Two Strings

キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

『コララインとボタンの魔女 3D』などを手がけるアニメーションスタジオのライカが、全編ストップモーションで撮りあげた長編アニメ。魔法の三味線と折り紙を操る力を持つ少年クボは、サムライだった父ハンゾウが闇の魔力を持つ月の帝と戦って命を落とした際に片目を奪われ、帝の娘である母は心に深い傷を負っていた。一族から命を狙われるクボは、あるとき母の妹たちに見つかるが、母親が最後の力を振り絞って放った魔法で命は助かる。一人残されたクボは、母が生命を吹き込んだサルや途中から加わるクワガタとともに3つの武具を探す旅に出る。声優としてシャーリーズ・セロン、マシュー・マコノヒー、レイフ・ファインズ、ルーニー・マーラ、ジョージ・タケイらが参加。2017年アカデミー賞長編アニメーション部門、およびゴールデングローブ賞最優秀長編アニメーション映画賞ノミネート作品。

 

言いたい放題

キット♤ なかなかよく出来たアニメやったな。物語のほうは極めてシンプルで、新味はないかもしれないけれど、日本の習俗や文化をよく研究してあった。

アイラ♡ 主人公クボの母親は十二単を身に纏うような女性で、身分的に三味線は違うやろと思ったけど、まぁファンタジーやしね。クボの弾く津軽三味線風の音色、盆踊りや鐘楼流しの情景などは再現性も悪くないし、母親を乗せた小舟の場面では北斎、魔物の潜む場所には歌川国芳など浮世絵を思わせる背景が描かれるなど、評価ポイントは高いと思う。

♤ クボはこの三味線で折り紙を自由に扱う力を持っていて、父のハンゾウを殺した祖父や叔母たちから身を隠すように母とひっそり暮らしている。やがて叔母たちに見つかってしまい、母の決死の魔力で助かるものの母は亡くなり、母が命を与えたサルと途中から加わるクワガタとともに、かつて父が探そうとした3つの武具を探す旅に出る。ヒーローが仲間と旅をしながら敵と戦い成長するというシナリオや、家族の絆が深まっていくというテーマは普遍的なもので、観る人のバックグラウンドに関わらず分かりやすくて受け入れやすい。

♡ そうやね。舞台は明示されてはいないけど、村人たちの服装からして日本であることはほぼ間違いない。クボのアイパッチは、伊達政宗と柳生十兵衛へのオマージュということらしいし、かなりのこだわりやね。

♤ 三味線や折り紙が重要なパーツとして使われているところも、日本人にはむしろ新鮮で興味深い。監督で製作会社ライカのCEOでもあるトラビス・ナイトが幼少時に日本に滞在した経験があり、思い入れが深かったということらしい。強いていえば帝の衣装がなんか中国風やったけどな。一部アメリカ人の日本人感が見え隠れするところもあるが、概ね違和感は感じない。

♡ クロサワやミヤザキへのリスペクトも深い人みたいね。実際、あの村人たちの風情や佇まいには黒澤作品をみるような思いがしたわ。ただあそこまで人々を吊り目に描かんでもええやん!とは思ったけど(笑)

♤ 制作については、主要部分を最新技術を駆使したストップモーションで撮っていることが大きな話題になった。登場人物などの人形を動作に合わせて少しずつ動かしながらコマ撮りしてアニメにするという気の遠くなるような作業で撮影するもので、クレイアニメなどと同じで、手法としてはむしろアナログ。現在ではコンピューターで3Dのモデルを作って、それを動かすことで実写に近い映像を作れるようになってるけど、人や物の質感は実写には及ばない。それに対して人形を使ったストップモーションは、あくまで実写なのでリアルな質感で撮ることができる。ただ、それだと体の動きをリアルにすることはできても、人形の表情が画一的になってしまう欠点があったんやけど、本作では人形の顔の部分を何種類も用意して、こまめに交換しながら撮影することで自然な表情の変化を実現している。

♡ クボの人形で4800万通り、サルで3000万通り作れるいうから気が遠くなる。制作に2年近くかかってるというしね。パーツは3Dプリンターで作ったということなので、身近な技術が発達したことで、こうした緻密な作業も可能になってきたということなんでしょうけど、まぁ大変やったと思う。

♤ 湖を船で渡るシーンでは、水の部分はCG合成らしいけど、クボたちが乗る折り紙の船も人が乗れるくらいのモデルを制作しているというので驚いた。この撮影の過程の一部はメイキング映像で見ることができる。

♡ 操ってる人間が高速度撮影みたいになってて面白いな~。歌川国芳の「相馬の古内裏(そうまのふるだいり)」からと思われる巨大ガイコツなんて、5m近くあるらしいよ。

Ukiyoe

♤ タイトルに「二本弦の秘密」の副題があって、観る前から三味線なのになぜ二本なんやろと思ってたけど、その秘密は最後に明らかになる。このあたりの話の作りはうまいな。エンドロールでの音楽を三味線版の“While My Guitar Gently Weeps”にしたのも良い。ただ、せっかく苦労して集めた3つの武具の威力が今ひとつパッとしなかったのは残念。最後の決戦の前にもう一つ戦闘シーンがあっても良かったのではと思う。

♡ ラスボスとの激しい最終決戦があってエンディングへ・・・というのが通常パターンやものね。私も観ているときは同様に感じたけど、この作風では、敢えてそれを避けて正解やったという気もしたわ。

♤ あと、声の出演が豪華で、シャーリーズ・セロン、マシュー・マコノヒー、ルーニー・マーラ、レイフ・ファインズと一流どころを揃えている。それに加えて、スター・トレックシリーズでミスタ・カトウを演っていたジョージ・タケイが村人役でキャストに加わり、’70年代に脇役として多くの印象深い映画に出ていた今年78歳のブレンダ・バッカロも村のおばあさん役で名を連ねていて妙に懐かしかった。

♡ マシュー・マコノヒーは、アニメ作品の『SING』でも劇場支配人のコアラの声など、意外と軽妙な吹き替えがお得意のようやね!

♤ Wikipediaによると、本作の制作費は0.6億ドルで興行収入は0.74億ドルとなんとか黒字を達成。これは『もののけ姫』の23.5億円の約3倍にもなるけど、最近のピクサーやディズニーのアニメは軒並み1.5~2億ドルくらいの予算規模なので、割安の予算で制作しているといえる。その低予算でこの出来上がりの品質は素晴らしいと思う。アニメ映画の制作がピクサーとディズニーの2極化へと進んでいる傾向があるので、ライカにはこれからも頑張って欲しい。

 

予告編

スタッフ

監督 トラビス・ナイト
脚本 マーク・ハイムズ
クリス・バトラー
主題歌 レジーナ・スペクター

 

キャスト

アート・パーキンソン クボ
シャーリーズ・セロン サル
マシュー・マコノヒー クワガタ
ルーニー・マーラ 闇の姉妹
レイフ・ファインズ 月の帝
ジョージ・タケイ 村人
ブレンダ・バッカロ かめよ

 

レクタングル336

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