レビュー

荒野にて(Lean on Pete)

投稿日:2019年4月22日 更新日:

おすすめ度

Lean on Pete

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

『さざなみ』のアンドリュー・ヘイ監督が、『ゲティ家の身代金』でポール・ゲティの孫を演じたチャーリー・プラマーを主演に起用し、少年と馬の孤独な旅を描く。プラマーは、本作で第74回ベネチア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞。幼いころに母親に捨てられ、責任感のない父親と2人で暮らす少年チャーリーは、厩舎で競走馬の世話をしてわずかな金を稼いでいた。ある日、父親が愛人の夫に大怪我を負わされて死亡。彼が世話をする競走馬のリーン・オン・ピートも試合に勝てなくなり処分されることが決まる。チャーリーは密かにピートを連れ出し、かつて自分の面倒を見てくれた叔母の居場所へ向けて歩みだす。

 

言いたい放題

キット♤ 主人公は15歳の少年チャーリー。演じるチャーリー・プラマーは『ゲティ家の身代金』で誘拐される孫の役以外はこれといった演技キャリアのない、ほとんど無名の俳優やけどなかなか良いな。本作でベネチア国際映画祭の新人俳優賞を獲得している。邦題は『荒野にて』やけど、チャーリーと馬のピートが広野を行くシーンは映画の一部に過ぎないし、原題の『Lean on Pete』が競走馬の名前だといっても、馬が全編に登場するわけでもない。ほぼ全編にわたって登場するのはチャーリー1人で、タイトルはともかくとして、これはチャーリーの物語。

アイラ♡ 『荒野』というのはチャーリーが行く厳しい道程の比喩みたいにも思えるし、原題の馬名はいかにも競馬らしい「Pete頼み」って意味でもあるので、旅の友でもあったピートに対するチャーリーの気持ちとも取れそう。

♤ 息子への愛情は深いが、一つところに居続けられない無責任な父親と暮らすチャーリー。母親はとうに家を出ている。厩舎のオーナーに気に入られ、三流競馬の競走馬の世話をしてわずかな金を稼いでいたが、浮気相手の夫に半殺しの目にあった父親はあっけなく死んでしまう。前半は、厩舎のオーナーのデルや女性騎手のボニーとの出会いが綴られるが、レースに勝てなくなって処分が決まったピートを連れて逃げるところからで彼らの場面は終わり。後半はポートランドからワイオミングのララミーへの移動の場面へと変わる。登場人物が交代に現れては消えていくという構造であるという点で、映画全体がロードムービーの造り。チャーリーが出会うデルやボニー、旅の途中に立ち寄る一軒家でビデオゲームにハマっている2人、トレーラーハウスで暮らすカップルなど、アメリカ社会の底辺に近いところで暮らす人達の描写が良い。

♡ 懸命にピートの世話を焼くチャーリーに、女性ジョッキーのボニーは「馬はペットじゃない」と再三言い聞かせる。ただ乗って走らせるだけのもので、情を移してはいけないと言い含めることで、競走馬がやがてたどる宿命を受け入れる準備をしておくように示唆をする。でもピートが勝てなくなって即座に処分が決まったとき、得心できないチャーリーはオーナーのトレーラーにピートを乗せて飛び出してしまう。

♤ ろくに現金も持たない突発的な逃避行で、途中で万引きしたりガソリンを盗んだり、無銭飲食したりということを繰り返さざるをえない。挙句の果てに人を負傷させもする。でもバイト仕事では真面目に働いて根っからの不良ではない。忍び込んだ家では汚れた衣服を洗濯する。映画は彼のそんな行動を映し出すことで、チャーリーがどういう少年なのかを見せていく。彼がピートと荒野を歩くシーンで、父親や学校の思い出を馬に話しかけさせることで内面を描いているのは上手い。

♡ 有り金もガソリンも尽き、エンジンがいかれ、ピートととぼとぼとワイオミングにいるらしい叔母のもとを目指しながら、チャーリーはひたずらピートに話しかける。人といるときのチャーリーはむしろ寡黙なくらいなのに、ピートに対しては無邪気にしゃべることしゃべること。ボニーから「情を移すな、ペットじゃない」と言われたのとは正反対に、ピートはチャーリーの無二の友になっていく。だから決してピートには乗らない。それなのに思いがけずピートを失ってしまうことに・・・。

♤ 最後はもはや浮浪者同然にまでなるけど、ついには叔母さんとの再会が叶ってハッピーエンドに。施設に入れられるのがイヤだったとはいえ、独力で頑張るより警察に頼んだほうが楽やったようにも思うけど・・・。ともあれこれは、「孤独」なチャーリーが誰かとの「繋がり」を求めていく物語。そして次々と出会っていく人々の誰よりも、ピートのほうが彼にはよかったということ。そのピートを失い、絶望の中から叔母さんを探し当てて安住の地を得るという組み立ては悪くない。

♡ チャーリーが出会っていく人たちは、社会の底辺に近いところで暮らしながら、そこから動くことをしない。かたや15歳のチャーリーは、叔母のもとをめざすという一念で、どん底暮らしにも耐えつつ前に進む。だから希望がある。どこにも居場所のなかった少年が、叔母さんに「学校に行っていい?」「フットボールがしたい」と子どもらしい顔で告げるとき、この子はここで一度赦され、改めて贖罪の人生と対峙していくのかなと思った。厩舎のオーナーという普通のおっさんを演じていたスティーブ・ブシェミがなかなかよかったです。

 

予告編

スタッフ

監督 アンドリュー・ヘイ
原作 ウィリー・ブローティン
脚本 アンドリュー・ヘイ

 

キャスト

チャーリー・プラマー チャーリー・トンプソン
スティーブ・ブシェーミ デル・モンゴメリー
クロエ・セビニー ボニー
トラビス・フィメル レイ
スティーブ・ザーン シルバー

 

レクタングル336

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