レビュー

バハールの涙(Les filles du soleil)

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おすすめ度

キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

Les filles du soleil戦闘員となってISと戦うクルド人女性たちを描いたドラマ。エバ・ウッソン監督が自らクルド人自治区に入り、女性戦闘員たちを取材して撮り上げた。弁護士のババールは、夫と息子と幸せな生活を送っていたが、ある日クルド人自治区の町でISの襲撃を受ける。男たちは皆殺しにされ、バハールの息子は戦闘員として育てるべくISに連れ去られてしまう。それから数カ月後、バハールはクルド人女性武装部隊「太陽の女たち」のリーダーとして戦いの最前線にいた。彼女たちの姿を、戦地で取材を続ける片眼のフランス人記者マチルドの目を通して映し出していく。2018年・第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品。

 

言いたい放題

キット♤ イラクのIS(イスラミックステート)が掃討されてその領地を失ったのはごく最近のこと。本作はISがその勢力を伸ばしつつ合った2014年に起こった事件をモチーフにしている。フランス人ジャーナリストのマチルドが取材のため、単身イラクの戦闘地域へ入るところから始まる。ジャーナリスト仲間たちは安全が確保されなくなったため撤収するが、マチルドは残って取材を続ける。そこでISと戦うクルド人集団の中で、女性だけの戦闘部隊を率いるバハールと出会う。

アイラ♡ クルド人ってどういう人々なのか、ほんとに何も知らないのを思い知らされるばかりやったけど、知らなくても本作のテーマを理解する上での問題はない。どれほどのことが起きているのかを知るだけでもこの映画を観る価値はある。

♤ バハールの部隊のメンバーは、いずれもISに家族を殺されたり、子どもを戦闘要員にするために連れ去られたり、性奴隷として虐待を受けていた人たち。バハール自身も元は弁護士で、比較的裕福な生活を送っていたが、ISによって夫を殺され、まだ幼い一人息子は拉致されている。

♡ これを取材するのがフランス人記者のマチルド。彼女も戦闘に巻き込まれて片目を失い、同業の夫も別の戦闘地域で落命しているという境遇。娘を本国に残しながら、使命感に押されて危険な地域にとどまり続けている。つまり2人には共鳴しあう部分があるわけで、映画はマチルドがバハールの部隊に同行して取材を続ける形で進んでいく。

♤ 戦争映画には、いつ突然の死が訪れるかもしれない緊張感がつきまとうけど、本作も終始緊張が伴う。実際にメンバーの中からも死亡者が出る。女性だけの部隊とはいえ、自分の銃の手入れは各自で行うところや交代で見張りに立つところなど、全員が鍛え上げられた兵士。それをまとめ上げるバハールはシャキッとして格好いい。話が進むにつれてバハールの過去が次第に明らかになっていくんやけど、一家が突然ISに襲われ、大人の男性はその場で射殺、子どもたち連れ去られ、性奴隷として売られたバハールたちが苦労して脱出するまでの話。この部分だけでも1本の映画が作れるくらい緊迫感のあるシーンが続く。

♡ 転じて、子どもたちの救出に向けて歩を進めていくバハールたち。男たちのほうが弱腰だったりして、彼女たちの勇ましさが際立つ。辛く厳しい局面でも互いに励まし合い、いたわり合う様子には、これまでの男性目線の戦争映画にはなかったもの、つまり国のためではなく母親として目的を達成しようとする人々の強さがあった。とりわけ、あと少しで国境を超えられるという直前に仲間が産気づき、破水しながらゴールに向かう場面は、不必要にドラマチックな演出をしない本作で一番のクライマックスだったのでは?

♤ 最終的にはバハールの息子を含む子どもたちの解放に成功し、ひとまずハッピーエンドを迎える。でも、ISが自爆などの非人間的な手段を常用していた事実を知っているだけに、本当に無事が確保されたのかというはらはらがその後も続く。

♡ それにしても、精神的にも肉体的にもぼろぼろになっているはずの女性たちの強靭さときたら! イスラム原理主義のISは、女に殺された者は天国に行けないと信じているそうなので、それだけでも女性部隊が彼らには恐ろしい存在となっているのがわかる。

♤ 登場する男たちは、バハールたちと共同で敵の掃討に出る連中をのぞけば、ISのメンバーや、クルド人の優柔不断な司令官などイマイチな人ばかり。バハールたちの脱出を手助けする男も、実は金が目当ての協力者。それに比べて女性たちが実に輝いている。彼女たちが部隊の歌を一緒に歌う場面など、女性監督ならではの視点で撮られてると感じた。原題の意味は、バハールの部隊名でもある“太陽の女たち”。勇敢な女性たちを描くこの作品に、センチメンタルな邦題はそぐわない。

♡ もうひとつ、マチルドという第三者的な視点を入れることで、映画全体にドキュメンタリー的なリアリティと臨場感を加えることに成功してるよね。戦争ジャーナリストは戦闘の当事者ではないし、近づくほど足手まといになりかねないのに、なぜそこに留まるの?という思いでマチルドの立ち位置を観てたんやけど、彼女にもまたカメラを持って戦い、世界に発信するという強い使命感があることが、帰路につく彼女のモノローグによって強く語られる。彼女にはモデルがいて、黒い眼帯がトレードマークのマリー・コルヴィンというアメリカ人ジャーナリストがその人。ロザムンド・パイク主演で映画が公開の予定というから楽しみ。

♤ バハール役のゴルシフテ・ファラハニはイラン出身の女優で、『パターソン』でアダム・ドライバーの妻を演じていた。整った顔立ちで、知性的で意志の強い役を好演。

♡ 悲しみをたたえた深い眼差しが、ときに虚ろになり、ときにぬくもりをみせる。『パターソン』では天真爛漫なキャラを演じていただけに、注目していきたい女優さんやね。

♤ クルド人のことはしばしばニュースで耳にはするけど、よく知らなかったので映画のあと調べてみた。トルコ、イラク、イラン、シリアなどに住む民族だが、自分たちの国家を持っていないため、過去から現在に至るまで迫害を受けている。以外なことに、宗教は大半がイスラム教徒。ところが、バハールの部隊のメンバーはイスラム教ではなくヤズディ教というイスラム教、ゾロアスター教、バラモン教などが混合して派生したようなマイナーな宗教の信者で、よりひどく迫害されていた人たちらしい。

 

予告編

スタッフ

監督 エバ・ユッソン
製作 ディダール・ドメリ
脚本 エバ・ユッソン
ジャック・アコティ
撮影 マティアス・トゥルールストルップ

 

キャスト

ゴルシフテ・ファラハニ バハール
エマニュエル・ベルコ マチルド
ズュベイデ・ブルト ラミア
マイア・シャモエビ アマル
エビン・アーマドグリ ベリヴァン
ニア・ミリアナシュビリ ノファ
エロール・アフシン ティレシュ

 

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