レビュー

ヴィクトリア女王 最期の秘密(Victoria and Abdul)

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おすすめ度

キット ♤ 2.5 ★★☆
アイラ ♡ 3.0 ★★★

Victoria and Abdulイギリスのベテラン女優ジュディ・デンチとスティーブン・フリアーズ監督のコンビで、英国女王とインド人使者の交流を描く。1887年、ビクトリア女王の在位50周年記念式典に記念硬貨を贈呈すべく選ばれたアブドゥル。最愛の夫と従僕を亡くした孤独から心を閉ざしていた女王ビクトリアだったが、臆することなく自分に接するアブドゥルに心を開き、2人の間に特別の絆が育っていく。しかし周囲はそれをこころよく思わず、2人を引き離そうとする。ジュディ・デンチには『Queen Victoria 至上の恋』(1997)に続き2度目のビクトリア女王役。ゴールデングローブ賞の主演女優賞にノミネートされた。アブドゥル役には「きっと、うまくいく」のアリ・ファザル。

 

言いたい放題

キット♤ イギリス女王を題材にした映画はこれまでも数多く作られていて、今年は特に公開が多いのとちがうかな。本作はヴィクトリア女王の治世の末期、1887年から女王が亡くなる1901年までの話。インドがイギリス領インド帝国として植民地化されてた時代で、ヴィクトリアはインド女帝を兼任していた。

アイラ♡ さすがジュディ・デンチ。ヴィクトリア役は2度めということもあってか、夫のアルバート公の死後はずっと黒い喪服をまとっていたという女王の風貌にかなり迫っていた感じがするけど、正直なところ、作品としてはジュディ・デンチを無駄遣いしていたような・・・。

♤ 1887年、女王の在位50周年記念式典でインドの記念硬貨を贈呈する役として選抜されたのが主人公のアブドゥル(アリ・ファザル)とモハメド(アディール・アクタル)の2人。アブドゥルが選ばれたのは、背が高くて見栄えがするというだけの理由で、実は刑務所で働く下級の公務員。モハメドは、予定されていた者の急病で代役に選ばれた。最初から渡英には気乗りがせず、着いてからも帰ることばかり考えている。

♡ 一方のヴィクトリア女王はというと、夫のアルバート公やお気に入りの使用人(ジョン・ブラウン)はすでに亡く、息子バーティ(後のエドワード7世)との関係はいまひとつ。孤独で気難しい老女となっている。食事会の席で、周囲にかまわずが目の前の料理をひとりがつがつたいらげるシーンが、そんな女王の扱いにくさをうまく表現してた。

♤ そこへインドからやってきたアブドゥル。見た目もよく、機知に富んだ会話のできる彼に目を留め、身近に置いて何かと寵愛する。ここまでは軽いコメディのニュアンスを混ぜながら軽いタッチで描いていて悪くない。女王の足にキスしてしまうような彼の大胆な行動も、雲の上の女王への尊敬と忠誠によるものと考えれば受け入れられる。

♡ 女王はアルバート公と知り合ったとき、日記に「顔が魅力的。善良で甘美で知的」と絶賛の言葉を記してるそうなので、生来イケメン好きやったんやろね。本作の見どころは、ジュディ・デンチ演じる女王が、アブドゥルを前にすると目をきらきら輝かせて、少女のように可愛らしくなってしまうところではあるのやけど・・・。

♤ ところがや。映画の後半、待遇が良くなったアブドゥルの態度がどうも鼻についてくる。女王が「ムンシ(師)」と呼ぶのを受け入れたり、インドに興味を持った女王がヒンディー語を学びたいというのに対して、自分の言葉ウルドゥー語を「最も高貴な言語」と言って教えるところ、さらにはインド大反乱はヒンドゥー教徒が起こしたものでイスラム教徒はイギリスと鎮圧する側に回ったなど、立場を利用して自分に都合の良いことを女王へ吹き込む。インドから呼び寄せた家族と自分には豪華な家も与えられ、インドにいたらとうていとうてい味わえない暮らしを手にしていたのはまぁよしとしよう。でも、一緒にイギリスへ来たモハメドが寒い屋根裏部屋住みのままで病気になっているのに、見舞いもせず死なせてしまうに至っては、出世志向で人間性に問題ありと思わざるを得ない。

♡ 私もモハメドにはずいぶん冷たいんやなぁと思った。アブドゥルの立場が危うくなったときに彼を庇ってくれた人やのにね。ただ調べてみると、アブドゥルは女王の私的使用人であり寵愛を受けていたジョン・ブラウンの死後、彼に取って代わるほどの存在になっていたらしい。思いがけぬ出世を遂げ、ある程度の権勢を振るうまでになっていたのかもね。ただ本作でも、女王の寵愛が使用人に対する一線を超えていたことが示唆されてもいる。アブドゥルが妻帯者と知ったときの女王の激高ぶりときたら・・・。あれあれ、本気やったん?と感じはじめたあたりから、ちょっと気色悪くなってしまった。反省してアブドゥルに妻を呼び寄せるよう命じ、連れてきた嫁さんがあんまり美人じゃないと知ったときは安堵っぽい表情を浮かべてたし。

♤ アブドゥルの存在は、王家の嫉妬と人種差別によって認められることはなく、女王の死後は本作にも描かれていたように、女王が送った書簡などはすべて燃やされ、アブドゥルも国へ帰された。結果、原作の元ネタはアブドゥルが残した日記だけで、映画製作者の意図も加わったてるやろから、史実に沿った映画とは思わないほうがよさそう。そもそも70歳近い女王がインドの言葉を習って習字をするとは考えにくいし、亡くなったモハメドの葬式に顔をだすなどあり得ない。

♡ ヒンディー語を習おうとしたのは事実みたいよ。まぁどこまでが史実かはどのみちわからないけど、女王にナイトの称号を与えられかけたり、何かと重用されたアブドゥルが周囲から疎まれるようになったとしても不思議ではないわよね。となると、果たして何を描こうとした映画なのかがちょっとわかりにくい。映画館は中高年女性が大勢来ていて、みなさんくすくす笑って楽しんではったようやけど。

♤ 昨年に初めてインドに旅行してみて、それまでヒンドゥー教徒の国だと思っていたインドに、思った以上にイスラム教徒とその文化が共存していることを初めて知った。本作でも、アブドゥルはイスラム教徒なのにヒンドゥー教徒だと思われたり、イギリス人が期待するインド人の服装を強いられるところなど、当時のイギリス人のインドに対する無知、無関心が垣間見えたところは興味深かったけど、それ以外は、どうも後味の良くない作品やった。

 

予告編

スタッフ

監督 スティーブン・フリアーズ
製作 ティム・ビーバン
エリック・フェルナー
ビーバン・キドロン
トレイシー・シーウォード
製作総指揮 リー・ホール
アメリア・グレンジャー
ライザ・チェイシン
クリスティーン・ランガン
ジョー・オッペンハイマー
原作 シャラバニ・バス
脚本 リー・ホール

 

キャスト

アディール・アクタル モハメド
ティム・ピゴット=スミス ヘンリー・ポンソンビー
オリビア・ウィリアムズ レディ・チャーチル
フェネラ・ウールガー ミス・フィップス
ポール・ヒギンズ ドクター・ライド
ロビン・ソーンズ アーサー・ビッグ
ジュリアン・ワダム アリック・ヨーク
サイモン・キャロウ プッチーニ
マイケル・ガンボン ソールズベリー

 

 

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