おすすめ度
キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★
79年にイタリアでも放送された永井豪原作のアニメ『鋼鉄ジーグ』をモチーフにしたイタリア映画。あることで超人的パワーを身につけたチンピラのエンツォは、世話になっていたオヤジが殺されたことで、アニメ『鋼鉄ジーグ』の世界にのめり込む娘のアレッシアの面倒をみることに。彼に「ジーグ」の主人公・司馬宙を重ねるアレッシアに惹かれていくエンツォは、次第に正義に目覚めていくが、そこに悪の組織を率いるジンガロが立ちはだかる。監督は本作が長編デビューとなるガブリエーレ・マイネッティ。主人公エンツォ役に『緑はよみがえる』のクラウディオ・サンタマリア、ジンガロにルカ・マリネッリ。
言いたい放題
キット♤ 『鋼鉄ジーグ』という永井豪のSFロボットアニメは日本で放映されたときに全く観てなかったし、永井豪の作品の中では目立たない方だった。なので、物語の背景、大筋、主要キャラクターについての知識ゼロ。Wikipediaでさらっと予習してから行ったくらいやけど、予備知識なくても大丈夫。
アイラ♡ いま50歳前後くらいの人たちはよく観てたみたいよ。なんでも磁石で合体するらしいけど、知らなくても問題なしやった。昨今のイタリア映画は、軽めのコメディか社会派のヒューマンドラマみたいなのが多いけど、これはかなり異色作のほうかな。
♤ 日本のサブカルチャーに影響を受けた監督がオタクを貫いて作った映画としては、昨年公開されたスペインの『マジカル・ガール』を連想させる。あっちの登場人物はみなかなりシュールで、オタクワールドの中でリアルな演出をしていたのに対して、こちらは主人公がひょんなことから超人パワーを手に入れるというSFベースにしてしまったところが違う。
♡ 超人になったからといって、そもそもが街の安っぽいチンピラとしてしか生きていけない中年男。安アパートでのびんぼったらしい生活が変わるわけでなく、宇宙や地球を背負って戦うわけでもないんやけどね。アンチヒーローというか、すごい能力を使って最初にやることがATM強盗やし。でも『鋼鉄ジーグ』にのめり込むことで辛うじて現実逃避しているアレッシアに「司馬宙(ヒロシ)」と呼ばれ、彼女のヒーローであることを切望されていくという設定・・・。
♤ そうなると、最近のアメリカ映画で主要分野の1つになっているアメコミの映画化との対比で見るのが面白いよな。マーベル、DCともに潤沢な制作予算でCG使い放題の大作主義のアメコミ映画に対して、この映画は一部特撮らしき部分もあるが、手作り感満載。登場人物も、たとえば主人公のエンツォをスパイダーマンとして、敵役のジンガロは『バットマン』のジョーカーを彷彿とさせるし、相方のアレッシアは『スーパーマン』のロイス・レインかな・・・みたいに比較してみると、イタリア俳優陣のラテン系ならではの濃さ加減が際立つ。
♡ スパイダーマンよりはデッドプールに近いんと違うかな。とにかくみんな濃い! 監督のクラウディオ・サンタマリアはこれまでほとんど無名。子どものころにTVで観た『鋼鉄ジーグ』に夢中だったということで、本作でも監督・音楽・製作を引き受けてる。これが長編デビュー作ということで、これからに期待できそうやね。出演者たちも知らない人たちばっかりやけど、ジンガロ役のルカ・マリネッリの気持ち悪さは特筆もん。たしかに『バットマン』のジョーカーのキャラ(それもヒース・レジャーの)に通じる役どころで、ほとんどサイコパス。ラスボスさながらに出てくる終盤の凄みったら!
♤ エンドロールで流れる鋼鉄ジーグの主題歌は、イタリア語の歌詞でバラード調に編曲されてるけど、歌っているのは主演のクラウディオ・サンタマリア、演奏のギターは監督のガブリエーレ・マイネッティ。この手作り感、泣かせるやん。
♡ 歌詞も日本版よりかっこいいらしいよ。エンツォとアレッシアの関係は不完全で、哀しみを帯びていながらも美しい。この美意識は、日本のアニメが伝統的に持つ独特の無情な味わいでもあると思う。イタリア映画の新しい底力が見えてきたかな。
♤ ここ数年で商業的に成功している映画の製作国、監督、俳優は圧倒的にアメリカ+イギリスが強いと思う。そういう潮流のなかで、この映画は”売れる”映画の方程式に従って各映画の特色が薄まっていることに対する、ヨーロッパからのささやかなアンチテーゼにも思える。そして、その際に、アメコミではなく日本のアニメが使われたことがなんかうれしいな。
予告編
スタッフ
監督 | ガブリエーレ・マイネッティ |
脚本 | 二コラ・グアッリャノーネ |
キャスト
クラウディオ・サンタマリア | エンツォ |
イレニア・パストレッリ | アレッシア |
ルカ・マリネッリ | ジンガロ |
ステファノ・アンブロジ | セルジョ |
マウリツィオ・テゼイ | リッカ |