レビュー

追想(On Chesil Beach)

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On Chesil Beach

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

『つぐない』『Jの悲劇』などの映画化作品をもつブッカー賞受賞作家イアン・マキューアンの小説『初夜』を原作とするラブストーリー。1962年の夏、歴史学者をめざすエドワードとバイオリニストのフローレンスは、新婚旅行先のチェジル・ビーチを訪れていた。初めての夜を迎え、押し寄せるさまざまな感情に翻弄される2人。フローレンスはエドワードを受け入れられずホテルの部屋を飛び出し、エドワードは後を追うが。2人の結婚はなぜたった6時間で終わってしまったのか・・・。主演は『つぐない』でアカデミー賞にノミネートされたシアーシャ・ローナンと、『ベロニカとの記憶』のビリー・ハウル。監督は、ドラマ『嘆きの王冠 ホロウ・クラウン』などを手がけたドミニク・クックが長編映画の監督に初挑戦している。

 

言いたい放題

アイラ♡ 突き詰めれば、若くてうぶな2人の他愛ない物語なのに、なぜこうも切なく愛おしい作品に仕上がってるのか・・・。いつまでもしみじみと味わっていたいと思うのは、丹念に描かれた個々のエピソードと、やはり主演の2人のまっすぐな演技の賜物でしょうね。

キット♤ 主役はフローレンス(シアーシャ・ローナン)とエドワード(ビリー・ハウル)。舞台は1962年のイギリスで、フローレンスが上流階級、エドワードが労働者階級という設定。労働者階級といってもエドワードの父親は校長先生だったので、教育も受けることが出来た環境。この2人が核廃絶運動で知り合って結婚。チェジル・ビーチってとこへ新婚旅行に出かけるのやけど、滞在先のホテルで過ごす半日ほどの流れのあいまに、2人が出会ってからのさまざま出来事が挟まれていく。

♡ フローレンスは弦楽五重奏団のリーダー。エドワードが好きなのはチャック・ベリーと対照的。でも出会ってからの2人は、ときおりフローレンスがマリッジブルーっぽくなる以外、順調に結婚まで向かっていくのやけど、新婚旅行先ではぎくしゃくすることばかり。

♤ 落ち着かずそわそわして、ついがっついてしまった新郎エドワードが失敗して・・・というくだりは、あわやコメディかと思わせる。結局、新婚6時間で破局を迎えることになるのやけど、二人とも結論を急がんかったらやりなおす余地があったんちゃうか。

♡ と誰もが思ってしまう展開ではあるのよね。そう性急に結論出さなくても・・・って。でも、おそらくこの結婚は最初から無理があった。そしてフローレンスはそれを察知してた。ただ神父さんに相談していたように、漠然とした不安の正体が自分でもよくわかってなかったのと違うかしら。エドワードには事故で脳障害を負った母親がいて、彼の家族はそんな母親とうまくやれるフローレンスを大歓迎。対するフローレンス側は、労働者階級のエドワードが気に入らず、母親はあからさまに侮蔑するし、彼を雇うことにした父親の態度も高圧的で支配的。生真面目はフローレンスは、“添い遂げる”という言葉に最初から縛られていて、婚約解消など考えもしないまま結婚当日を迎えてしまったんだと思う。

♤ 明示的な説明はないけど、フローレンスが父親と2人でボートに乗るシーンが2回あり、その父親がエドワードとのテニスの試合に異常な負けん気を発揮して、後から来たフローレンスに怒りを爆発させるシーンがある。フローレンスがエドワードを拒絶したときの過剰な反応から、父親との間に何かがあったのかと思わせる。

♡ そこは私も考えてみた。おそらくは物理的なことではなく、父の抑圧が大きかったということなのでは? パールを身に着けて食事するような家庭やし、まだまだ1960年代やし。エドワードは彼女が不感症だと思ったけど、後に子どもや孫に恵まれてるので実際にはそうじゃない。初夜の出来事は、ここから先へ進んではいけないという心理からだったと思えば腑に落ちる。

♤ フローレンスが神父から、幸せそうに見えない、婚約は取り消すことができると言われたときの取り乱しよう。エドワードとの婚約を弦楽五重奏の仲間に知らせようとしなかったところなども、エドワードを愛していたのは間違いないとして、すんなり理解できないところがあったな。

♡ 彼女は彼を真剣に愛してたけど、これは何か違う・・・というところでもやもやと悩みぬいてたんやと思う。海辺でエドワードに話す突拍子もないアイディアも、彼を傷つけたくない思いがとんでもない形で裏目に出てしまい、結局どちらも傷ついたという落ち。まさに若気の至り。庶民派のエドワードにも男のプライドはあるし、結婚への気負いもあったやろうし。きっとしんどかったんよ~。

♤ 特筆すべきはカメラワーク。特に2人が別れるところで、エドワードを引き止めることができなかったフローレンスが背を向けて歩きだして画面の左に消えていくところは名シーン。

♡ 私も思った! 色彩もいいね。終始、あのにぶ~く曇ったイギリスの空の色なんやけど、フローレンスはいつもきれいなブルーか淡い黄色を身に着けていてすごく印象に残る。あとエドワードの家の近所の公衆電話が3度ばかり出てくるのやけど、緑に包まれた真っ赤な電話ボックスの色彩もビビッドでいいアクセントになってる。

♤ ただ、邦題の『追想』は1957年のフィリップ・ノワレとロミー・シュナイダーの名作『追想』と同じタイトル。こういうのはやめてほしいな。

♡ 原作の『初夜』でええやんね。原題の『チェジル・ビーチにて』でもいい。あの石ころだらけのビーチ、なかなかすごいロケーションでよかったわぁ。まさに時間をかけて、あの2人も角の取れた大人になっていったというお話。音楽的にも、弦楽五重奏からチャック・ベリーやT.レックスまでが一度に聴けるという作品でした。

 

予告編

スタッフ

監督 ドミニク・クック
原作 イアン・マキューアン
脚本 イアン・マキューアン

 

キャスト

シアーシャ・ローナン フローレンス・ポンティング
ビリー・ハウル エドワード・メイヒュー
エミリー・ワトソン ヴァイオレット・ポンティング
エイドリアン・スカーボロー ライオネル・メイヒュー
アンヌ=マリー・ダフ マージョリー・メイヒュー
サミュエル・ウェスト ジェフリー・ウェスト

 

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