おすすめ度
キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★
映画専門学校「ENBUゼミナール」のワークショップ「シネマプロジェクト」の第7弾として製作された作品。緻密に計算された構成や脚本、長回しを用いた異色作で、「37分ワンシーンワンカットのゾンビサバイバル映画」を撮影したキャストとスタッフを描く。監督はオムニバス映画「4/猫 ねこぶんのよん」などに参加してきた上田慎一郎。2017年11月に「シネマプロジェクト」第7弾作品の『きみはなにも悪くないよ』とともに劇場上映され好評を博し、本年6月に単独で劇場公開。都内2館の上映から口コミで評判が広まり、8月から全国で拡大公開となった。
言いたい放題
キット♤ 普段は日本映画をほとんど観ないので、評判が良いとはいえ特に観る予定ではなかったのやけど、それほど期待せずに劇場に足を運んだら予想以上に面白かった。
アイラ♡ とはいえ評判はすごいのに、ゾンビ映画を撮る人たちの話だという以外ほとんど内容が伝わってこない。なるほど、何を言ってもネタバレになってしまうので、みなさん口を慎んでいたらしく・・・(笑) 二度と同じ手法は使えないでしょうけど、この構成はほんとうに斬新。
♤ 出演者は、テレビ番組のためにワンシーンワンカットのゾンビ映画を撮影する監督、家族、映画スタッフの話。そういう意味ではいわゆる劇中劇を観る形になるわけやけど、本作の異色さは、劇中で撮影した作品の「完成版」を30数分にわたって見せられること。
♡ 稚拙でぐだぐだでやたら流血するゾンビ映画! そして撮影中にホンモノのゾンビに襲われる!
♤ 取ってつけたようなセリフやギャグ、妙に間をもたせる進行など、映研の学生が低予算で作ったような素人っぽい作品。しかも、最初からずっと長回しで撮影しているということに途中で気がつく。
♡ ところがすごいのがこの後。「完成版」が終わると、実はこれが1ヵ月前に持ち込まれたTV番組企画であることがわかり、映画の後半では撮影現場を裏方の目線から再びなぞりながら見せていく。
♤ 撮影直前に2人の俳優が出られなくなり、監督と元女優の奥さんが代役となったこと。この奥さんが役に入り込みすぎること、見学者だったはずの“妥協しない娘”がスタッフに加わって大活躍することなどが織り交ぜられ、映画づくりを膨らませていく。「完成版」で違和感のあった部分は、それぞれ突発的な事故をカバーするためのアドリブだったり、時間の引き延ばしが原因だったことが明らかになり大爆笑。
♡ この“違和感”の回収ぶりが実に巧み。最初は、クサくて下手くそな作品に付き合わされるのかと思わせておいて、後半に入ってからは怒涛の展開でトリックの手の内をあかしつつ、制作現場の血と汗と涙とゲ◯を見せつけてくれる。これはほんとにあっぱれとしかいいようがない。
♤ 劇中劇で映画を撮るという多重性、かつ「完成版」と「メイキング」を両方見せられることで、今どの視点で観ているのか分からなくなってしまいそうになるのを逆手に取っているようなところもある。たとえば、建物から外へ走り出す人を追うカメラのレンズに血糊が付いてそれを拭き取るシーンがある。血糊が付くのは劇中の監督が持つダミーのカメラの方のはずなのに、実際に撮影しているカメラに血糊が付くのはおかしいんやけど、流れで受け入れてしまう。
♡ 小道具の仕込み、タイミングの調整など、自主制作映画を経験した人たちには感情移入ポイント満載やったでしょうね。
♤ 実際、元々はインディーズの低予算映画。監督もスタッフも出演者も知らない人ばっかり。エンドクレジットをみてたら、登場人物の名前は俳優たちの名前を一文字変えただけで、ほとんどはオーディションに応募してきた特に実績のない人たち。そんな出演者、特に癖のある俳優役の人たちがいきいきと演技している。聞くところによると、オーディションで選んだ人のキャラに合わせて脚本を書き直したらしいので、その効果が出ている感じやな。
♡ また観たいというような作品ではないけど、有名俳優と予算で作るものとは限らないということを見せてくれた稀有な作品として評価したいわね。
♤ 公開時の劇場も、東京では「新宿K’s cinema」と「池袋シネマ・ロサ」の2館のみ。それが口コミでヒットして今やTOHOシネマズやイオンシネマを含む大手チェーンにまで拡大する大ヒット。日本映画もええとこあるやん。
予告編
スタッフ
監督 | 上田慎一郎 |
脚本 | 上田慎一郎 |
キャスト
濱津隆之 | 日暮隆之 |
真魚 | 日暮真央 |
しゅはまはるみ | 日暮晴美 |
長屋和彰 | 神谷和明 |
細井学 | 細田学 |
市原洋 | 山ノ内洋 |
山崎俊太郎 | 山越俊助 |
大澤真一郎 | 古沢真一郎 |
竹原芳子 | 笹原芳子 |
吉田美紀 | 吉野美紀 |
合田純奈 | 栗原綾奈 |
浅森咲希奈 | 松浦早希 |
秋山ゆずき | 松本逢花 |
山口友和 | 谷口智和 |
藤村拓矢 | 藤丸拓哉 |
イワゴウサトシ | 黒岡大吾 |
高橋恭子 | 相田舞 |
生見司織 | 温水栞 |