おすすめ度
キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆
2011年のブッカー賞を受賞したジュリアン・バーンズの小説『終わりの感覚』を原作に、『アイリス』のジム・ブロードベントと『さざなみ』のシャーロット・ランプリングというイギリスの名優を揃えて映画化。初老男性の穏やかな引退生活に届く1通の手紙。そこから辿られていく彼の青春の日々の記憶。しかしそれは痛切なまでの真実と直面していくことでもあった。インド映画『めぐり逢わせのお弁当』のリテーシュ・バトラ監督作品。
言いたい放題
アイラ♡ 男のほうが昔の恋愛をいつまでも覚えていて、それも実際以上に美化して記憶しているというのが通説やけど、まさにその通りってお話。しかもその顛末がとても恐しくて残酷で・・・。
キット♤ 原作はイギリスの小説『終わりの感覚/The Sence of an Ending』ということで映画の原題も同じ。邦題の『ベロニカとの記憶』は物語のテーマから外れてはいないが、ベロニカ役のシャーロット・ランプリングを前面に出したいという配給会社の思惑が見え隠れするな。シャーロット・ランプリングのキャスティングは間違いなくとてもいいんやけど、主人公はジム・ブロードベント演じるトニー。
♡ 引退してかわりばえのしない毎日を送っていたトニーのもとへ弁護士から届いた1通の手紙。ケンブリッジ大在学中に自殺した友人エイドリアンの日記を、ベロニカの母親がトニーに遺しているのだという。ベロニカはトニーの初恋の相手で、その後エイドリアンの恋人となった女性。実らずに終わった初恋の顛末をめぐり、トニーは甘美な感傷とともに当時の学生仲間やベロニカのことを思い出していく・・・。
♤ トニーは一見感じの良い初老男性のようだけど、別れた妻との会話や郵便配達の少年への接し方を通じて、いささか高圧的で独善的な人間性を垣間見せる。ベロニカと再会してからの行動はストーカー親父さながらで嫌悪感が上回るほど。ジム・ブロードベントの演技を褒めるべきやけど、観ていて楽しい人物ではない。
♡ 人の思いを察することのできない人物やから、妻との関係も、出産間近の娘スージー(『ダウントン・アビー』で長女メアリーを演じたミシェル・ドッカリー)を介することでかろうじてつながってる。決して好人物ではないのよね。なのに『パディントン』にでも出てきそうな好々爺然とした風貌ゆえか、なぜかラストまで彼を憎むことはできなかった。
♤ 話は過去と現在を行き来しつつ、やがてエイドリアンの自殺の理由が明らかになっていく。
♡ 自殺した友人の日記をなぜベロニカの母親が持っていて、それを自分に遺したのだろうというミステリアスな疑問と興味が彼を掻きたて、同時に若いころの美しい思い出に浸りまくるトニーやねんけど、若さゆえの一瞬の激情が、実に残酷な結末を連鎖的に招いていたということが次第にわかっていく。記憶とはなんと身勝手で、都合よく塗り替えられているものなのかということをまざまざと見せてくれるわね。
♤ 結局は当時のトニーの行動に問題があったということではあるけれど、すべてのいきさつがわかれば、ベロニカの母娘もかなり変な存在。エイドリアンの日記を遺品としてトニーに託す母親も変やし、エイドリアンの死後に生まれたであろう子供に同じエイドリアンという名前を付ける感覚もよう分からん。エイドリアンが気の毒に思えてくる。
♡ でもその日記はベロニカによって廃棄され、トニーは別の形で真実を知るのやから、ベロニカには事実を知らせるつもりはなかったのよ。トニーと再開したベロニカが「やっぱりあなたはわかってない」「いつもそうだった」と告げる場面は圧巻。シャーロット・ランプリングならではの奥深く謎めいた瞳が、このシーンで恐ろしいほどの力を発揮する。ベロニカは、最初からトニーという男に何も期待してないわけよ。でも自分が取り返しのつかないことをしたかを知り、かつベロニカの赦しを得たことでトニーも変わっていく。自分を見つめ直し、郵便配達員への態度さえ変化する。ここが救いなのでしょうね。
♤ 監督は、インド出身で『めぐり逢わせのお弁当』を撮ったリテーシュ・バトラ。前作はインドが舞台のとてもよい作品だったけど、本作は舞台も出演俳優もイギリス。トニーたちの学生時代の場面は、イギリスの教室の感じが良く出ていて完全にイギリス映画になっているのが面白かった。
予告編
スタッフ
監督 | リテーシュ・バトラ |
原作 | ジュリアン・バーンズ |
脚本 | ニック・ペイン |
キャスト
ジム・ブロードベント | トニー・ウェブスター |
シャーロット・ランプリング | ベロニカ・フォード |
ミシェル・ドッカリー | スージー・ウェブスター |
ハリエット・ウォルター | マーガレット・ウェブスター |
エミリー・モーティマー | セーラ・フォード |
ビリー・ハウル | 若き日のトニー |
ジョー・アルウィン | エイドリアン・フィン |
フレイア・メイバー | 若き日のベロニカ |