レビュー

女と男の観覧車(Wonder Wheel)

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おすすめ度

Wonder Wheel

キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

80歳を越えてなおコンスタントに作品を発表するウッディ・アレン監督の新作。ケイト・ウィンスレットを主役に迎え、1950年代のコニーアイランドを舞台に、閉塞した生活の中で若い男との恋に溺れていく女性を描く。ニューヨークの遊園地コニーアイランドのレストランで働くジニーは元女優。再婚同士の夫ハンプティとジニーの連れ子リッチーと3人、遊園地の中の安い部屋に暮らしている。ハンプティとの毎日に飽きているジニーは、海岸で出会った監視員のアルバイト学生で、劇作家をめざすミッキーと不倫関係にあった。そこへギャングと駆け落ちしてハンプティと疎遠になっていた娘キャロライナが出現。ミッキーの心は若い彼女に移り、ジニーを焦らせていく。ジニー役にケイト・ウィンスレット、ミッキー役に歌手でもあるジャスティン・ティンバーレイク。ハンプティ役をジム・ベルーシ、キャロライナ役をジュノー・テンプルが演じている。

 

言いたい放題

キット♤ 毎年1本ずつコンスタントにマイペースで映画を撮り続けているウッディ・アレンの今年の新作。その彼も今年82歳。若いころは才能にまかせて監督から主演まで張り切ってやっていたけど、1999年の『ギター弾きの恋』あたりから、気に入った俳優を招いて自分の脚本で好きなように撮るというスタイルを続けている。私生活ではいろいろ問題の多い人やけど、映画監督としては独自の境地にあるといってよいし、彼からの出演オファーを断る俳優はそういないやろから、俳優は選び放題なのと違うかな。というわけで、今回選んだのがケイト・ウィンスレットとジャスティン・ティンバーレイク。

アイラ♡ 今回は俳優総入れ替えで、新しい顔ぶればかり。アレン監督は旬の女優の使い方がうまくて、最近だとスカーレット・ヨハンソンやペネロペ・クルス、マリオン・コティヤール、エマ・ストーンなどがそうやね。大物ケイト・ブランシェットの『ブルー・ジャスミン』への起用も見事で、彼女の女優としての値打ちを上げたと思う。そして今回のケイト・ウィンスレット。『タイタニック』が枕詞になってしまった気の毒な女優・・・ではなく、ほんとは強烈な野心を感じさせる実力派。『エターナル・サンシャイン』や『愛を読む人』もよかったけど、個人的にはポランスキー監督の密室セリフ劇『おとなのけんか』で演技のうまさに唸った。本作もまるで彼女に当て書きされたのではと思うほど、彼女の力を引き出しきってるし、こんな役をオファーされたら女優冥利に尽きるやろなと思ったわぁ。

♤ ケイト・ウィンスレット演じる主人公のジニーは、前夫に自殺されて子連れで再婚したものの、かつて目指した女優の道に未練があってウエイトレスの現状を受け入れられずにいる。再婚相手のハンプティ(ジム・ベルーシ)は、コニーアイランドのメリーゴーランドの仕事をしている気のいい親父だが、酒で失敗したことがあり、ギャングと駆け落ちした娘キャロライナ(ジュノー・テンプル)とは縁を切っている。そのキャロライナが、ギャングの稼業をFBIにチクったために夫に命を狙われ父のもとへ逃げてくる。さらに絡んでくるのが、ビーチの監視員をしながら脚本家を目指す学生ミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)で、ジニーはこいつと浮気しているという関係。

♡ 実際にはもう40歳近いジャスティンやけど、詩人気取りの学生をうまく演じてたね。ミュージシャンながら映画出演は結構多くて、『ソーシャル・ネットワーク』や『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』などでは重要な役をこなしてた。今回は主役の恋人役と物語の狂言回し役を兼ねてるので出番も多く、2人の女性を相手にするゲスなんだかピュアなんだかわからん男を好演。狂言回しといっても、彼目線の自己弁護的な話しかしないんやからめちゃくちゃ面白い。

♤ 脚本もアレンが描き下ろしているので、ご多分にもれずセリフが多い。ジニーとハンプティの夫婦喧嘩など辛辣な言葉がポンポン飛び出してアレン調全開。ただ、ハンプティがキャロライナに文句のような恨み節のようなことを延々と話すところや、ジニーが息子に父親や自分の過去についてくどくど話すところなど、観客向けの説明なのが見え見えで、もうすこしなんとかならんかと思ったけど。

♡ そう? 登場人物がとにかくよく喋るのがウディ・アレン作品なので、私はあまり気にならなかったけど、それよりケイト・ウィンスレットのセリフの多さがほんとに際立ってたよね。ジニーは自分を不幸と決めつけていて、そのくせ身勝手でわがままで、観客として感情移入できないタイプの女。『ブルー・ジャスミン』にも通じるキャラやわ。それがべらべらと身の上話や人を批判する強烈な言葉を吐き続けるものだから、そこだけで辟易する人も少なくないやろなと思う。でもそれこそが本作の味わいで、自己憐憫が強すぎて破滅していく中年女をケイト・ウィンスレットが膨大なセリフとともに体現してる

♤ 彼女は今年42歳ということなのでほぼ年齢相応の役。太めのウエストとか額や目尻の小じわに生活感がにじんでるけど、俳優時代のことが忘れられず、昔の衣装やアクセサリーを身に着けて現実逃避しているところは『欲望という名の電車』でヴィヴィアン・リーが演じたブランチと重なった。

♡ ジニーが古い舞台衣装を身に着けて、意味の定まらないことを喋り続ける狂気じみた場面やね。そこ、私はビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』を思い出した。落ちぶれた女優と若い脚本家との関係というのも共通するし、ウディ・アレン自身、古き名作へのオマージュをあちこちに込めてるのかもと思った。

♤ 特筆すべきは、映画の舞台が1950年代のコニーアイランドであること。原題にもなっている観覧車Wonder Wheelや、ジェットコースターなどの遊園地施設はセットで組むには大掛かりすぎるのでCGで作ってるみたいやな。ウディ・アレンもCGを使うようになったのかと思うとちょっと複雑やけど・・・。

♡ でも、あえて陰影を濃く出した色彩豊かな画面づくりは絵本のようで、軽快な音楽とともに非現実感を醸し出してたよね。コニーアイランドといえば、『アニー・ホール』でもウディ・アレン演じる主人公の家があった場所やし、とても彼らしい場面設定。ブルックリン育ちの彼には、50年代ごろの遊園地の賑わいはノスタルジックなものだろうし、セルフオマージュともいえるのかも。

♤ ウディ・アレンは、オープニングからメインキャストとスタッフのクレジットを出していくクラシカルなスタイルをずっと貫いていて、これが彼独自の作品世界への入り口になってる。ウディ・アレン好きはオープニングからその世界に入り、それをまるごと受け入れていく。老練な監督が誰に指図されることなく、ほとんど趣味のように映画を撮って、しかも俳優たちがみな達者となればもう大きく外しようがないわけで、これもひとつの安定ではあるな。

♡ それはそうと、あのジニーの連れ子の悪ガキはどうなるんやろ・・・。この子はジニーの心のダークサイドそのもので、すっきり終わらないエンディングなのがちょっと気になってます。

 

予告編

スタッフ

監督 ウッディ・アレン
脚本 ウッディ・アレン

 

キャスト

ケイト・ウィンスレット ジニー
ジャスティン・ティンバーレイク ミッキー
ジム・ベルーシ ハンプティ
ジュノー・テンプル キャロライナ
ジャック・ゴア リッチー
デビッド・クラムホルツ ジェイク
マックス・カセラ ライアン

 

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