レビュー

タクシー運転手 約束は海を越えて(A Taxi Driver)

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おすすめ度

A Taxi Driver

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

1980年5月に韓国・光州市で起きた学生・市民による大規模な民主化要求暴動を軍が鎮圧した「光州事件」。その状況を世界に伝えたドイツ人記者と、彼をソウルから光州まで乗せたタクシー運転手の実話を原案とするフィクション。韓国では1200万人を動員するヒット作品となった。監督は『義兄弟』『高地戦』のチャン・フン。主人公のタクシー運転手マンソプを名優ソン・ガンホ、ドイツ人記者ピーターを『戦場のピアニスト』のトーマス・クレッチマンが演じる。一人娘を抱え、暮らしに窮していた個人タクシー運転手のマンソプ。金欲しさから、多額の運賃を払うというドイツ人記者ピーターを乗せ光州をめざす。早くソウルに帰りたいマンソプだったが、デモに参加する現地学生やタクシー運転手たちとの出会いがその思いを変えていく・・・。

 

言いたい放題

キット♤ 久しぶりの韓国映画は1980年に起こった光州事件を題材にしたもの。ドキュメンタリー仕立てではなく、実在したタクシーの運転手の視点からフィクション化してあるので、内戦で多くの死者が出た光州事件の「重さ」を残しつつ、ドラマとして観やすい映画にしたことが本国でのヒットにつながったと思う。

アイラ♡ 全斗煥大統領の時代。朴正煕政権時代に起きた金大中拉致事件は日本人にも知られてるけど、金大中は光州のある全羅道出身の人気政治家。軍事クーデターで政権を得た全斗煥への反発や、彼が民主化の象徴である政敵・金大中を逮捕したことが光州での民主化デモを拡大させていく・・・という時代背景を事前に知っておくと映画をよく理解できる。

♤ 光州事件。隣国の事件としてリアルタイムで知ってはいたけど、所詮よそのの国の話という程度の関心しかなかったので、本作を観てさらに参考資料にも目を通してみて、実に悲惨な事件だったことを改めて理解した。日韓関係はいまあまり良い関係とはいえないけど、わすか40年前の韓国にはクーデターで実権を握った軍事政権があり、言論の自由も制限されていて、光州事件のような内戦ともいえる事件があったのは気の毒な歴史と言わざるを得ない。まあ、日本の歴史が素晴らしいかというとそれはまた別の話やけど、韓国にとっては振り返りたくないだろう過去を映画化して、それがヒットするということは良いことではないだろうか?

♡ 韓国映画にはわりと政治批判的な作品は多いよね。日本より明らかに多いし、娯楽性の高いヒット作も少なくない。本作では、丸腰の市民や学生が警棒で容赦なく殴られ、次々と射殺されていく様子は実写ドキュメンタリーを観るような迫力。事件を知る人も「事実を描いている」と言っているほどだそうで、この後半部は、普通のおっさんであるキム・マンソプ(ソン・ガンホ)の調子の良さに焦点をあてた前半と好対照の作りになってる。検閲のためメディアも事件を報道できず、ソウルに暮らすマンソプも光州で何が起きているかを全然知らない。どうせ甘やかされた学生のデモだろうくらいに思っていたら、ゴーストタウンと化した光州市に足を踏み入れ、野戦病院のような病院の状況や、平気で市民に銃を向ける軍隊を目の当たりにして初めて事実を知る・・・。

♤ 主演のソン・ガンホの好演が光るな。タクシー運転手仲間の連帯感とか、お金に執着はあるものの、筋を通したり意地を張ることを優先するようなところも微笑ましい。

♡ ソン・ガンホは『シュリ』や『JSA』などでのシリアスな役からコミカルな役まで幅広くこなす名優。私は『大統領の理髪師』での彼が好きやけど、市井で暮らす普通の男が政治の動乱に巻き込まれていくという設定は本作とも共通するわね。小市民の胸に去来する葛藤とか人としての優しさなど、いろんな感情を体現する役柄なので、日本なら渥美清やフランキー堺みたいな人に演じてほしい感じ。人間味という点では、光州で知り合う学生やタクシー運転手たちとの交流も屈託がなくて、心あたたまる演出。それが後の悲劇への伏線になるとはいえ、こうした悲喜こもごものごちゃまぜ感は韓国映画の特徴ではあるわね。嫌いじゃない。

♤ ただ、ラスト近くのタクシー仲間が応援に来てカーチェイスになるところは余計だったような・・・。検問の軍人がマンソプとピーターが手配中と知りながら逃がすところだけで十分に映画の意図は伝わったやろうに。

♡ そこは同感。最後まで描かれないけど、運転手仲間のその後も気になってしゃーない。一市民として役に立とうという覚悟の行動だとはいえ、あれで犬死してたら元も子もないやんねぇ。ただ調べてみたら、空挺部隊の残虐行為に対して約200台のタクシーがクラクションを鳴らして走り、市民側を鼓舞したというタクシーデモもあったそうなので、ここはエンタメ性アップのためというより、そうした事実に触れておきたかったのかなと納得。

 

予告編

スタッフ

監督 チャン・フン
脚本 オム・ユナ

キャスト

ソン・ガンホ キム・マンソプ
トーマス・クレッチマン ユルゲン・ヒンツペーター(ピーター)
ユ・ヘジン ファン・テスル
リュ・ジュンヨル ク・ジェシク

レクタングル336

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