レビュー

きっと、いい日が待っている(Der kommer en dag/The Day Will Come)

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おすすめ度

きっと良い日がやってくるのポスターキット♤ 3.5 ★★★☆
アイラ♡ 4.0 ★★★★

1960年代、コペンハーゲンの養護施設で起きた実話をもとに、過酷な環境を生き抜いた兄弟を描く。デンマーク・アカデミー賞で作品賞をはじめ6部門を受賞。貧しい家庭に育った兄エリックと弟エルマー。母親が病気になり預けられた養護施設では、躾の名のもとに厳しい体罰が日常的に行われ、子どもたちには何ひとつ自由はなかった。上級生たちのいじめや教師による暴行が続く毎日からの逃亡を図る2人だったが・・・。監督は、ラース・フォン・トリアー率いる製作会社ツェントローパの俊英イェスパ・W・ネルスン。デンマークで史上最高視聴率を記録したTVドラマ『THE KILLING キリング』のスタッフやキャストが集結した。

言いたい放題

キット♤ 実話に基づいた作品。舞台は1967年のコペンハーゲンの養護施設。主人公は、母親の病気で養護施設に預けられることになった13歳のエリックと10歳のエルマーの兄弟。

アイラ♡ 弟のエルマーには宇宙飛行士になるという夢があって、兄弟で天体望遠鏡を盗むようなちょっと悪いとこもあるけど、ありあわせで作った宇宙服を母親に披露したりする可愛い面も。やがてわかるけど、感性豊かな頭の良い子たちでもある。

♤ 兄弟が養護施設に連れてこられてすぐの食事の場面。食器に入っているのがなにか白いドロっとした不気味なもので、このワンカットで収容者はろくな待遇を受けていないことが分かってしまう。

♡ オートミールちゃうの? ほんとにいかにも不味そうやったけど・・・。

♤ 作品のかなりの時間は、躾を名目に行われる意味のない体罰や虐待に割かれている。歯向かえばろくなことがないと知ってる子どもたちは一切抵抗しない。その状況を変えるかと思わせるハマーショイ先生という女性教師の登場で、好転へのかすかな期待が生まれるのやけど、彼女もちょっとした行き違いがもとで現状を変える力にはなり得ず、失意のうちに現場を去る。

♡ まだ若い叔父の手を借りて施設を出る寸前までいきながら、ハマーショイ先生の判断ミスで失敗してしまう。兄弟が置かれる環境はさらに悪化し、叙勲だかが目当ての校長は傲慢で高圧的。性的虐待を日常とする教師もいる。やがて子どもたちの間に淡い信頼が育ち、虐待教師への仕返しが成功したりすることで観る側の溜飲も少しは下がるのやけど・・・。シンプルな場面設定なのに、結局ほとんど最後まで先の展開が読めない、すごくうまい作りになってたわ。

♤ 最後には兄貴のエリックがついにブチ切れて校長に歯向かうんやけど、逆にひどい暴行を受けて意識不明に。そこからはエルマーの頑張りが見どころになる。意外な展開を経て、まぁハッピーエンドにはなるのやけど、2人が校長や施設を告発しないのが気になった。映画では残った子たちが告発に協力し、現実にもごく最近、当時収容されていた人たちが暴力や薬物投与に対する告発を始めたということではあるのやけど。

♡ 作品の目的はこうした事実の存在を知らせることにあったのかもしれないけど、施設での虐待と脱出への流れだけで描いてしまうと、いかに悲惨な実話だろうと、映画としてはありきたりなもので終わってたでしょうね。ところが、宇宙飛行士になるというエルマーの夢を絡めたことで、作品にぐんと奥行きが出た。激怒した校長がエリックに死ぬほどの暴行を加える場面は描かれず、代わりに同じ時間帯に施設の子どもたちが人類初の月面着陸のTV中継に見入る場面が入る。この対比はうまかった。意識不明となった兄のために、エルマーは命をかけて訴えようとするけど、そこにも宇宙飛行士になりたい彼の思いが重なる。夢を糧として、弱いものが強く大きな者に勝っていく、おかしみと悲しみの紙一重の表現が作品を盛り上げたなぁと感じたわ。

♤ 兄弟を演じた2人は映画初出演というけど実にうまい。施設に収容されている子どもたち全員の熱演が光る。校長役のラース・ミケルセンは、容貌がなんとなくロシアのプーチンに似ていると思ったら、TVドラマの『ハウス・オブ・カード』でロシアの大統領を演っていたあの俳優やった。

♡ 冷淡な校長役はすごみがあったね~。ちなみに彼の弟はデンマークの名優マッツ・ミケルセン。“北欧の至宝”なんて呼ばれていて、最近では『ローグワン』でレイの父親、『ドクター・ストレンジ』では敵となるカエシリウスを演じてる。

♤ 第2次世界大戦でひどい目にあったにせよ、デンマークは福祉の行き届いた国だと思っていたので、こういう事実があったのはイメージと相当なギャップを感じてしまったな。

♡ 今回知ったけど、60年代後半のデンマークでは、より平等な社会の実現に向けて民主主義的な理想がどんどん追求されていたのやて。彼らの母親も男女の給与格差を嘆いてたし、ダメダメ叔父も学生運動に身を投じててお金がないみたいに描かれてたけど、本作にもたびたび挿入されていた都市部の若者たちの風体からも、そんな時代背景が感じ取れたわね。

キット♤ 日本でデンマーク映画の公開は珍しいかなと思うけど。

アイラ♡ そうでもない。観てるところでは惑星が地球に衝突する『メランコリア』があるし、日本ではそれほどヒットはしなかったけど、いわゆる北欧ミステリーが原作の『特捜部Q』シリーズとか。『特捜部Q』は本作と同様、トリアー監督が設立した制作会社ツェントローパの製作。ツェントローパ社は低予算・高品質の作品でデンマーク映画の世界的ステイタス向上に貢献しているとのことなので、機会があったらもっと観てみたいわね。

 

予告編

 

スタッフ

監督 イェスパ・W・ネルスン
製作 シセ・グラム・ヨールゲセン
ペーター・オールベック・イェンセン
ルイーセ・ベスト
原案 ソーレン・スバイストゥルップ
脚本 ソーレン・スバイストゥルップ
音楽 スーン・マルティン

 

キャスト

ヘック校長 ラース・ミケルセン
ハマーショイ先生 ソフィー・グロベル
エリック アルバト・ルズベク・リンハート
エルマー ハーラル・カイサー・ヘアマン

レクタングル336

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