レビュー

オクジャ(Okja/옥자)

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おすすめ度

キット ♤ 3.5 ★★★☆
オクジャのポスターアイラ ♡ 3.0 ★★★

『グエムル 漢江の怪物』で成功を収めた韓国のポン・ジュノ監督監督作品(米韓合作)。製作にはブラッド・ピットの映画製作会社プランBも参加。2017年カンヌ国際映画祭メインコンペティション部門で上映されパルム・ドールを争ったが、劇場公開せずNetflixで放映する方針となったことで映画祭関係者間の論争を呼んだ。韓国の山奥で巨大な豚オクジャと共に育ち、祖父と平和に暮らす少女ミジャ。だがオクジャとミジャののどかな日々は、エコロジーをうたう多国籍企業ミランド社によって終焉を迎えようとしていた・・・。

 

言いたい放題

キット♤ 今年のオスカー候補となった『最後の追跡』と同じく、Netflix製作でストリーミング配信された作品。つまり劇場公開はされてない。Netflixは資金力に物を言わせた独自ドラマ製作で競合他社との差別化を図ってきたけど、最近は劇場映画として通用するレベルの作品を次々制作している。本作もそのひとつで、2017年のカンヌ映画祭はこうした作品にも門戸を開いていたのでコンペ部門に参加。それが来年かららはフランス国内での劇場公開がコンペ参加の必須条件になるとの話で論議を呼んだ。

アイラ♡ そんな騒動もあって注目していた作品。それほどの秀作とは思えなかったけれど、前半のテイストはわりと好き。象ほどもある巨大生物オクジャは優しく賢くて、韓国の山奥での飼い主たちとの日々をほのぼのと描いてる。宮﨑駿ものの実写版という感じで、それなりに魅力的な世界観を作ってるわよね。

♤ 監督は韓国のポン・ジュノ。製作は米韓合作で、出演俳優にも名のあるところをそろえて、CG/VFX使いまくりで相当金をかけた映画やな。

♡ オクジャたちののどかな日々の対極に、ミランド社というエコを売り物にする巨大企業の存在が示される。経営者にティルダ・スウィントン(2役)、ミランド社に絡む科学者にジェイク・ギレンホール。この2人の演技はかなりハイテンションで嘘くささ満点なのだけど、おとぎ話の典型的な悪役と思うことで違和感が消えたかな。

♤ レビューのためには全部ネタばれせざるを得ないのやけど、まぁバラしてしまうと、オクジャはミランド社が食糧難時代を救うという名目で秘密裏に生み出した遺伝子組み換え豚。世界数カ所の農家に飼育させ成長後にコンテストを企画するのやけど、オクジャは韓国の山中深くにある飼育農家で、主人公の少女ミジャ(アン・ソヒョン)とその祖父に飼われている。

♡ 世界各国の農家に飼育を委ね、育ったら回収して食肉にするという仕組みが極秘裏にできていて、ついにオクジャにもその日がやってくる。オクジャを連れて行かせるまいと、ソウルの街まで追いかけ暴れるミジャ。そこに絡んでくるシーシェパードみたいなエコ・テロリストたちの暗躍・・・と、スピーディーな画面展開もあってなかなか見せてはくれる。

♤ CGで造られたオクジャと実写との合成には結構驚くな。かなり動きのあるアクションシーンもあるし、オクジャの上にミジャが重なって寝るような撮影が難しそうな合成シーンもふんだんに使われている。なのにストーリーの組み立てが荒っぽい。オクジャを救出しようとする動物愛護団体を「善」、ミランドを「悪」という対立関係においてそれぞれを現実離れしたコミカルな集団として描くのは良しとして、大もとのテーマが何なのかがはっきりしない。

♡ 全体には ”ブラックなおとぎ話” という体裁で、少女とモンスターの心温まる物語ともいえるけど、遺伝子組み換え食品の問題に警鐘を鳴らすことに目的があるのかとも思う。カンヌでの高評価もそこが受けたのかもしれないし。ただ私は、環境保護などをテーマにすれば外で好感されると気づいたらしいあたりから、ジブリの作風があざとくなって大嫌いになったのやけど、本作にも共通のにおいを感じてしまってちょっと辟易・・・。

♤ 家畜の食肉化を否定するわけではなく、家畜飼育での虐待に反対しているかにみえてそうでもなさそう。秘密に遺伝子操作する大企業への批判かと思うと、どこか首尾一貫しないものがある。利益第一主義の企業が作った優秀品種であるオクジャを、繁殖用として使わずに屠殺しようとする矛盾。ミジャの祖父からのオクジャ買い取りの申し出を断りながら、最後に同じ金額で手放す不自然さ等々。

♡ 『いのちの食べ方』という食肉加工工場の様子を追ったドキュメンタリー映画があったけど、本作の後半にはこれに近いショッキング映像もある。ところがそのわりにはあまり明確な問題提起はなくて、それどころかオクジャは結局お金で買い戻すことができて、他の豚はそのまま食肉となる。ミランド社は存続し、エコ・テロリストたちもまた活動を続けていく。前半のファンタジックな作りがなかなかよかっただけに、何をどうしたい作品なのかが伝わってこないのは残念。とはいえ、こういうどこか実験的な作品が作られるのはええことやし、Netflixがその点で面白い役割を果たしているのは興味深い。カンヌのスタンスについても見守っていきたいところです。

 

予告編

スタッフ

監督 ポン・ジュノ
脚本 ポン・ジュノ
ジョン・ロンソン

キャスト

アン・ソヒョン ミジャ
ティルダ・スウィントン ルーシー・ミランド
ナンシー・ミランド
ポール・ダノ ジェイ
ジェイク・ジレンホール ジョニー・ウィルコックス博士

レクタングル336

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