レビュー

蜘蛛の巣を払う女(The Girl in the Spider’s Web)

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おすすめ度

The Girl in the Spider's Web

キット ♤ 3.0 ★★★
アイラ ♡ 3.0 ★★★

原作は、世界的ベストセラーである北欧ミステリー『ミレニアム』シリーズの第4作。主人公のリスベット役にテレビドラマ『ザ・クラウン』や近作『ファースト・マン』などで今後の活躍が期待されるクレア・フォイ。監督は『ドント・ブリーズ』で注目されたフェデ・アルバレス。同シリーズの前作『ドラゴン・タトゥーの女』を手がけたフィンチャーは製作総指揮に名を連ねた。特殊な映像記憶能力を持つ天才ハッカーであるリスベット・サランデルは、AIの世界的権威であるバルデル教授から、図らずも開発してしまった核攻撃プログラムをアメリカ国家安全保障局(NAS)から取り戻してほしいとの依頼を受ける。陰謀の裏を探っていたリスベットは、16年前に別れた双子の姉妹カミラの存在にたどり着き、カミラが仕かけた罠にはまってしまう。

 

言いたい放題

キット♤ 小説を読んで映画化を期待していただけに、観てみてがっかりというのが本音やな。

アイラ♡ 原作を知らなければこれはこれで楽しめる完成度にはあるとは思う。でも、すでに本国のスゥエーデンとハリウッドにおいて同シリーズから4話が映画化され、いずれも原作の雰囲気を壊さぬ出来だったことを思うと、アクション路線にシフトした今作には不満が残るわね。

♤ 原作のパーツを使ってはいるけど、もはや別ものといっていいほどストーリーが改変されている。原作小説では、殺される博士が発明したのは人工知能のアルゴリズムだったが、映画では核兵器の発射システムになっている。博士のサヴァン症候群の息子は、小説ではリスベットがハッキングするためのキーとなる楕円方程式を解けずにいるのを見て、間違いを修正する数学の天才少年やけど、映画では自閉症でちょっと覚えにくいパスワードを覚えている子という程度の描かれ方。

♡ 割愛せざるを得なかったにせよ、ヴァン症候群の少年の使い方はもったいなかったわね。ジャーナリストのミカエルの存在感も薄いなあ。原作ではリスベットを見守り続け、ときに一緒に闘おうとするミカエルと、それに対するリスベットの感情の交錯が物語を豊かにしていて、スゥエーデンで作られた3作と、デビッド・フィンチャー監督のハリウッド版は、そこを上手に活かしてた。今作ではミカエルはほとんど添え物扱いで、彼が事件をテーマに大作記事を執筆する動機も、書き上げることの意義も伝わってこない。いなくてもよかったくらい・・・。

♤ あと、原作小説では名前が出るだけで姿を見せなかったリスベットの双子の妹カミラがここで姿を現すだけでなく、ラストでは死なせてしまってる。原作では次作のミレニアム5でもカミラは登場せず、ミレニアム6での姉妹対決へ期待をつなぐのに、ここで殺してどないすんねん。

♡ 続編がどうなろうと知ったこっちゃないのやろね。細かいことやけど、リスベットたちの両親をはじめ、彼女の生い立ちに深く影響してきた人々との関わりについての説明があらっぽすぎて、原作を知らないと理解が追いつかない。

♤ けど一番の問題はやっぱりリスベットのキャラクターやな。小説でも、話が進むにつれて格闘技を身につけたり、多少はファイトできるようになってはいくけど、小柄で華奢でジャンクフードしか食べないようなハッカーがリスベットの本来の姿。それを、無理やりファイターにしてしまっているところに大きな違和感を感じる。

♡ リスベットが特異なヒーローであり続けているのは、肉体的に強靭な戦闘型ヒーローではないからよね。全身のタトゥーやピアスが象徴するようにどこか病的なものを抱え、実社会との接触も苦手で、しかもバイセクシュアルという弱者的イメージのなかに、驚くほどの強靭な精神を持っているのがリスベット。しかもたいへんな頭脳派で、こうと決めればどんなことでもやってのける意思の力もある。本作ではそうしたリスベットの内面的な強さがあまり描かれてないのよね。

♤ 小説版のリスベットは常に慎重で、相手の裏をかくのが常道。映画のように敵に捕らえられてしまうというのはあり得ない。リスベット役のクレア・フォイはTVドラマ『ザ・クラウン』のエリザベス女王や『ファースト・マン』の家庭の主婦役で今後が注目されてるけど、やっぱりイメージと違う。良いときも悪いときも感情を表に出さず、常に不機嫌な顔をしているのがリスベットのキャラなので、妹との対峙場面でみせる不安そうな表情はありえない。クレア・フォイには悪いけど、ハリウッド版のルーニー・マーラの方が良かったし、スゥエーデン版のノオミ・ラパスはもっと良かった。

♡ とはいえ、ストックホルムのしんと冷え込んだ街の光景はじめ、全体に色のないノワールな演出はよかった。唯一、妹のカミラが真っ赤を着ているという対比もわかりやすいけど、すぐ死なすのに、あのキャラづくりは必要やったのかなぁ。雪山を真っ赤なハイヒールで登っていくのも不自然で・・・。

♤ 映画の方がよくできていたのは、ラストで単身で敵地に潜入するリスベットを、おたくハッカーが建物の3Dのモデリングを作成し、それを使ってアメリカから来たCIAだかのおっさんが強力な火器で狙撃して支援するところ。この部分は小説にはないが、3人で大勢の敵に対する方法としての意外性、そして映画ならではの視覚に訴えるところが秀逸やったと思う。

♡ そうやね、あの場面だけはかなり入り込んで楽しめた。あのおたくハッカーも本来はもっと重要な役回りを担ってるのやけど、文句ばっかりになるからもうやめとこ。

♤ この小説は、やっぱりハリウッドではなくスウェーデンで映画化して欲しかったな。

 

予告編

スタッフ

監督 フェデ・アルバレス
製作 スコット・ルーディン
イーライ・ブッシュ
オーレ・ソンドベルイ
ソーレン・スタルモス
ベルナ・レビン
エイミー・パスカル
エリザベス・カンティロン
原作 ダビド・ラーゲルクランツ
脚本 ジェイ・バス
フェデ・アルバレス
スティーブン・ナイト
撮影 ペドロ・ルケ
音楽 ロケ・バニョス

 

キャスト

クレア・フォイ リスベット
スベリル・グドナソン ミカエル
ラキース・スタンフィールド
シルビア・フークス カミラ

レクタングル336

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