おすすめ度
キット ♤ 3.0 ★★★
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆
『ハート・ロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティ』のキャスリン・ビグロー監督が、1967年のデトロイト暴動と、その中で起きた白人警官による黒人たちへの不当な尋問の顛末をリアルに描く。67年夏、ミシガン州デトロイトで黒人たちによる暴動が起き、軍や警察がその鎮圧に向かうなか、黒人客たちでにぎわうアルジェ・モーテルの一室から銃声が響いた。捜査に出向いた地元の白人警官は、違法な手段で宿泊客たちの尋問を開始する。主演は『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』のジョン・ボヤーガ、『レヴェナント 蘇えりし者』のウィル・ポールターなど。『ハート・ロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティ』を手がけたマーク・ボールの脚本。
言いたい放題
キット♤ 1967年にデトロイトで起こった暴動と、その中で現実に起きた事件を克明に描いた作品。冒頭で当時の時代背景が簡潔に語られ、暴動の発端となった黒人の違法酒場の摘発シーンから始まるが、いつ何が起こるかわからない緊張を最後まで強いられる。
アイラ♡ ほとんど予備知識を入れずに観たので、特定の主人公を置かずにドキュメンタリー的な手法で通していくのかと思うと、中盤から作品の核をなすアルジェ・モーテル事件に展開が集約されていく。ただそこに至るまでに観客はすでにアドレナリンを使い果たしてしまうんじゃない? 私なんかモーテル事件のころには脳がほとんど活動を停止してた(笑)
♤ 監督が、『ハート・ロッカー』や『ゼロ・ダーク・サーティ』のキャスリン・ビグローなので観客を長時間の緊張感の中に置くのはお手の物。ただこれら2作が戦争や特殊部隊の人々を描いていたのに対して、本作の舞台はアメリカの大都市。暴動とはいえ、戦場ほどの危険はないはずと観客に思わせておいて、その流れのなかで起こるアルジェ・モーテル事件のぴりぴりした場面へフォーカスを絞り込んでいくことで、観る者にぎりぎりとプレッシャーをかけ続ける。
♡ 明確な主役を立てていないのも面白いところで、いちおう主演は『スター・ウォーズ』新シリーズのフィン役で売り出したジョン・ボイエガと、ほとんど無名と言ってよいウィル・ポールター。それと、暴動のせいでメジャーデビューを棒に振ることになる歌手ラリーを演じるアルジー・スミスも主演格といえるかな。
♤ 面白いことに、先の2人はイギリス人の俳優。ボイエガは冷静で状況判断のできる黒人の警備員役を好演。ただ、こちらはあまり面白みがないというか地味な役なのに対し、違法捜査や人種差別はあたりまえで殺人も厭わない悪徳警官役のポールターにおいしいところを持っていかれた感じ。このポールター、眉が吊り上がっていて、メイクなしでバルカン星人やエルフの役ができそうな特異な顔をしていて憎々しいところがなかなか良い。
♡ 『レヴェナント』でも、あの顔で何とも異様な存在感を放っていたことばかり覚えてるけど、横暴なくせに小心者という警官クラウス役はオスカーの助演男優賞候補になってもいいほど。ジョン・ボイエガについては、若いころのデンゼル・ワシントンやモハメド・アリを彷彿とさせる面構えで、どっしりした存在感。中途半端なSFよりもっとシリアスものに出ればうんと伸びると思うわ。
♤ 本作の中核となるモーテル事件の真相は現在まで解明されておらず、製作にあたっては事件を知る関係者への取材をずいぶん行ったらしいな。
♡ けど、裁判を経てもなお、白人こそが正義を実行する側という刷り込みは覆せなかった。クラウスたちの違法尋問も、人種差別の何が悪い?という意識が普通だった時代だからこそ通ったもの。いま、ああした大統領をいただく国であることへの皮肉を込めているのかとも思ったり。
♤ 日本公開の直前まで、配給会社は「アカデミー賞最有力候補」と宣伝してたんやけど、各賞候補作が発表されてみると、本作はいずれにもノミネートされず空振りに終わった。イントロのアニメから暴動の部分、「ザ・ドラマティックス」などのショービジネスの部分、「アルジェ・モーテル事件」の部分、その後の捜査や法廷の部分などが漫然とつながっていて焦点がぼけてしまった感じはある。
♡ せやね。暴動で緊張するデトロイトの街を俯瞰しつつ、合間にノリのいいモータウンサウンドを挟んでくる、このバランス感覚はちょっと面白いと思ったのやけど、いろんな要素を入れすぎた結果、全体としてはまとまりに欠けてたかな。
♤ ドキュメンタリー調にこだわったのかもしれないけど、例えばウィル・ポールター演じる警官を中心に、モーテル事件に絞り込んだ話にしても面白かったんとちゃうかな。
予告編
スタッフ
監督 | キャスリン・ビグロー |
脚本 | マーク・ボール |
キャスト
ジョン・ボイエガ | ディスミュークス |
ウィル・ポールター | クラウス |
アルジー・スミス | ラリー |
ジェイコブ・ラティモア | フレッド |
ジェイソン・ミッチェル | カール |
ハンナ・マリー | ジュリー |
ケイトリン・デバー | カレン |
ジャック・レイナー | デメンズ |
ベン・オトゥール | フリン |
ネイサン・デイビス・Jr. | オーブリー |
ペイトン・アレックス・スミス | リー |