レビュー

ザ・スクエア 思いやりの聖域(The Square)

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おすすめ度

The Square

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

2017年カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞。監督は『フレンチアルプスで起きたこと』のリューベン・オストルンド。現代アート美術館のキュレーターとして世界的に注目を集めるクリスティアンは、自らも生活態度に気を配る良き父親で、慈善活動にも熱心な尊敬される男。人々を利他主義へと導くアートとして“スクエア”という作品を手がけている。ある日、暴漢に襲われかけた女性を救ったところ逆に財布とスマホを摺られ、取り返すため犯人に対して起こした行動が発端となって次々と予想せぬ出来事に見舞われていく・・・。

 

言いたい放題

アイラ♡ 不条理劇ということではあるけれど、こういう作品はほんとにコメントしにくいよね~。

キット♤ 『フレンチアルプスで起きたこと』で注目されたスゥエーデンのリューベン・オストルンド監督作。『フレンチ~』では、良い夫だったはずの男が雪崩の際に自分だけが逃げたことで本性を露呈してしまうという話だったが、この映画では成功した現代美術のキュレーターが思わぬことから転落し始める。

♡ 離婚歴こそあれ、リッチで男前で相応の社会的評価も受けている理想的な立場にある男が、盗まれた財布とスマホを取り返すべくちょっと愚かな行動をとったことで不条理な事態に次々と直面していく・・・。

♤ 観終わって振り返ってみると、本作のポイントは「社会的成功者の傲慢」と「一般人の他人への無関心」ではないかということに気づいた。映画の中でこの2つは繰り返して見せられる。成功者の傲慢という点では、主人公クリスティアンの行動そのものがまさにそれ。たとえば、スリが住んでいると突き止めたアパートの住人全員に脅迫状を送りつけること。それに対して文句を言ってきた少年への態度、その少年への謝罪の録画をしながらすぐに問題をすり替えてしまうことなど。

♡ しかもそれで平然としていられるところで、クリスティアンという人間がだんだん鼻についてきたわ。

♤ インタビュアーの女性と寝ることによる征服感、破損してしまった展示品をこっそり修復させることもそうやな。彼の部下や広告代理店の人間もクリスティアンの相似形で、自分たちが世間の常識と乖離していることに気づきもせず、自分達の理屈でしか考えられない。

♡ しかしカッコだけはつけようとする。考えてみれば、世の中はこんな人だらけという気もするし、自分たちの中にあるイヤな部分をクリスティアンの中にみるものだから、少年の怒りにすごく同調してしまったりする。ねちこくつきまとってくる女性インタビュアーも、気持ち悪いけど「もっと言うたれ!」って気にさせられるし。ちなみに彼女はTVドラマ『マッドメン』で密かに出産してしまう秘書ペギーを演じていたエリザベス・モス。したたかで、どこか壊れた感じのするアメリカ女性の役はぴったりやったね。

♤ もうひとつの一般人の他人への無関心は、街なかを叫びながら逃げる女性を助けようとする人がほとんどいないこと、パーティでのアトラクションの猿男が暴走して女性に絡んでも誰も助けようとしないことなどに象徴されてる。クリスティアンが荷物を抱えて娘たちを探してるのに誰も助けてくれないところも同様。ところが暴走する猿男が捕らえられそうになった瞬間、それまで見てみぬふりをしていた人々が一斉に暴力的に参加してくる。

♡ 自分たちはインテリジェントで、高邁に利他について考えていると思っている人々が、助けを求める人々にはまったく無関心、もしくは傲慢な態度をとっているけれど、いざ風向きが有利に変われば一斉に正義を振りかざす。ここに監督一流の皮肉があるのやろね。

♤ 観る側からすれば、普通はこの2つは別物と考えるよな。自分が他人に無関心である事実は認めざるを得ないけど、自分は傲慢な人間ではないと思いたい。けど、いずれの被害者となるのも女性や子供、物乞いなどの社会的弱者であることに気づくとなんとなく落ち着かない気持ちにさせられてしまう。それがオストルンド監督の狙ったところかもしれないな。

♡ 紛争地域の人々や難民などにまで広げて解釈することもできそうやね。私があれ~?って思ったのは、「スクエア」という作品をめぐるあれやこれやという話になるのかと思いきや、そこにはたいした意味はなかったようで、意外な肩透かしが待ってたこと。それどころか、砂利を積み上げたような作品を掃除用の小型車両が崩してもあまり気にしてないくらいで、現代アートなんて何でもええんやなと・・・(笑)

♤ 僕は、シーンの背景に何か余分なものが入っていたり、建物を揺るがすような突然のノイズや振動といった、不安を増長するような小技が埋め込まれているように感じたんやけどな。こういうところは面白いけど、151分という長尺は正直疲れた。観る人との相性もあると思うが、広告代理店の連中が延々と話すところや微妙な沈黙が続くところは、個人的にはちょっと辛かった。あと、猿男が暴れるのはええけど長すぎる。

♡ 現代アート論みたいなのが続くとしんどいかも・・・という姿勢で観はじめたのが間違いやったのか、意味のわからない空疎なせりふが続く冒頭で早くも睡魔が来てしまったのは事実(汗)。恐らくこれは大傑作なのだろうし、でも超のつく駄作って気もする。カンヌでは受けても、アメリカ人は絶対観ない作品。ただ映像はクールで美しいし、全体のトーンは決して嫌いではないので、体調のいいときにもう一回観てもいいかなという気はしてます。

 

予告編

スタッフ

監督 リューベン・オストルンド
脚本 リューベン・オストルンド

 

キャスト

クレス・バング クリスティアン
エリザベス・モス アン
ドミニク・ウェスト ジュリアン
テリー・ノタリー オレグ

 

レクタングル336

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