レビュー

女王陛下のお気に入り(The Favourite)

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The Favourite

キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

「ロブスター」「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」で注目されたギリシャ人監督ヨルゴス・ランティモス作品。イングランド王室を舞台に、女王と彼女に仕える2人の女性の入り乱れる愛憎を描く。18世紀初頭、フランスとの戦争下にあるイングランド。女王アンの幼なじみレディ・サラは、病身で気まぐれな女王を操り権勢を誇っていた。没落貴族の娘でサラの従妹のアビゲイルが、サラの働きかけでアン女王の侍女として仕えることになるが、貴族に返り咲きたい一心のアビゲイルは女王に取り入り、レディ・サラの追い落としにかかる。『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーン、『ナイロビの蜂』のレイチェル・ワイズ、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のニコラス・ホルトなどが共演。2018年ベネチア国際映画祭コンペティション部門で審査員グランプリを受賞し、女王アンを演じたオリビア・コールマンも女優賞を受賞した

言いたい放題

アイラ♡ 公開直後から批評家筋の評価はかなり高い一方で、映画好きのレビューは両極端に分かれている印象。人間の汚い部分をえぐり出して、これでもかと見せつける脚本や演出に嫌悪する人もいれば、そういう作品こそが好きという人もいるわけで。こと映画や小説に関しては私は後者なので、ブラックコメディとしてこのうえなく面白く観賞。このポスターからして、すでに笑劇であることを示唆してるし。

キット♤ 今年のアカデミー賞作品賞の有力候補のひとつ。18世紀初頭、フランスとの戦時下にあるイギリス王室が舞台。イングランドの議会風景などいくつかの短いシーンを除けば、カメラはほとんど王宮内に留まる。そしてその大半はアン女王(オリヴィア・コールマン)、そのそばに仕えるレディ・サラ(レイチェル・ワイズ)、女官から成り上がるアビゲイル(エマ・ストーン)の3人の女性のドロドロとした人間模様に費やされる。

♡ アン女王はでっぷり太った痛風もち。愚鈍で情緒不安定。無能な女王を陰で支えながら、実は女王を好きに操り権勢をふるうレディ・サラ。サラの親族で、没落貴族のアビゲイル。このアビゲイルが強烈な上昇志向の持ち主で、貴族に戻るためなら女王に気に入られるための手段は選ばないという性悪ぶり。それぞれに個性の強い役を3人の女優がなんともエネルギッシュに演じている。

♤ アン女王は、レディ・サラとアビゲイルを側近兼愛人として従える形やけど、いずれからも尊敬されているとはいえず、亡くした子供の数だけうさぎを飼っている孤独な女王の役。病気がちで我儘で、従僕にすぐ怒りをぶつけるし、めんどうな執務はレディ・サラに任せっぱなし。どこを取っても好感を持たれそうにない人物をオリヴィア・コールマンが好演している。

♡ 高慢なくせに幼女のように駄々をこね、すぐ癇癪を起こす女王の様子には見る側も辟易してくるのやけど、17人もの子どもを流産や死産で亡くしていることがやがてわかる。その代わりに飼っているという十数羽のウサギ。なるほど、精神のバランスも崩れようというもの。サラには全幅の信頼を置いてるけれど、新人のアビゲイルは初々しく、やがて彼女をそばに置くように。サラの嫉妬は高まり、アビゲイルをいじめだす。すると今度はアビゲイルがサラを蹴落としにかかる。もう大変!

♤ 何が何でものし上がりたいアビゲイルに対して、レディ・サラは女王を繰ることによって権力を手に入れはしたけど、幼なじみのアン女王と二人っきりのときにはタメ口で会話する。女王に対する緩急の使い分けが巧み。利己的な人間には違いないけど、女王に多少なりとも愛情を持っているのがアビゲイルとは違うところやとは思った。

♡ えげつない物語はさておき、豪華なセット、細かいところにまで配慮された小道具、衣装などはどれも素晴らしい。顔に負った傷をレースで隠すレディ・サラのなんと凛々しく美しかったこと。そのなかでどろどろのバトルが繰り広げられるのだからたまりません。本作を観るまでは、もっと格調高い何かを期待していたのだけど、アビゲイルが馬車に乗り合わせた男の自慰を見せられた挙げ句、糞尿まじりの泥の中に突き落とされた瞬間から、この物語をコメディとして観ることにしたら、それが大正解やったみたい。

♤ それにしても、3人の達者ぶりに比べて男どもの陰が薄かったな。唯一『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』に主演したニコラス・ホルトがトーリー党の貴族役で存在感を示していたけど・・・。物語の相当な部分はフィクションだと思ってみていたが、レディ・サラもアビゲイルも実在の人物で、アビゲイルがレディ・サラに代わってアン女王の寵愛を受け、レディ・サラが去っていったというのも事実らしい。いやいや、大変ですわ。

♡ 不安や不快が募ると鳴り出す一本調子のBGMは、監督の前作の『聖なる鹿殺し』にも通じるものがあるように感じた。少しわかりにくいのがラストシーン。無表情に抱き合うアン女王とアビゲイルの顔を、不自然な下からの角度でかなりのアップで見せる。これはウサギの目線なのかな。ということは、アビゲイルもウサギみたいなものなのか。レディ・サラに勝ったつもりやったけど、ここへ来てアビゲイルの思いはいかばかりか・・・。なかなかシュールな終わり方でした。

♤ 近々発表される2019年のアカデミー賞では10部門にノミネートされているそうやけど、いくつかは獲得するんやないかな。

♡ エンドロールに流れるキャストやスタッフの名前も、タイポグラフィが効きすぎてもう読めない(笑) そこへ流れるエルトン・ジョンの60年代の古い曲。何から何まで不思議な調子で非常に面白かったです。

 

予告編

スタッフ

監督 ヨルゴス・ランティモス
脚本 デボラ・デイビス
トニー・マクナマラ

キャスト

オリビア・コールマン アン女王
エマ・ストーン アビゲイル・ヒル
レイチェル・ワイズ レディ・サラ(サラ・チャーチル)
ニコラス・ホルト ロバート・ハーリー
ジョー・アルウィン サミュエル・マシャム
ジェームズ・スミス ゴドルフィン
マーク・ゲイティス モールバラ卿(ジョン・チャーチル)
ジェニー・レインスフォード メイ

レクタングル336

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