レビュー

ハッピーエンド(Happy End)

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おすすめ度

Happy Endキット ♤ 3.0 ★★★
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

『白いリボン』『愛、アムール』で2作続けてカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した名匠ミヒャエル・ハネケ監督が、各人が誰にも言えぬ秘密を抱えた3世代家族の崩壊を淡々とした描写で綴る。建設業を営み、フランス北部の街カレーの邸宅に住むロラン一家。それぞれが重大な秘密を抱え、誰もが互いに無関心な奇妙な家族は、エヴの同居をきっかけにほころびはじめていく。『少女ファニーと運命の旅』で脚光を浴びたファンティーヌ・アルドゥアンが、死のイメージにとらわれたミステリアスな少女を演じる。

 

言いたい放題

アイラ♡ クラシカルな邸宅に住む3世代家族。高齢で引退した父ジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)は、家業を娘のアンヌ(イザベル・ユペール)に譲っていて、アンヌとその息子ピエール、そしてアンヌの弟トマとその妻子という家族構成。あることをきっかけにピエールの前妻との娘エヴが一緒に暮らすことになり、そこから一家の歯車が狂っていく・・・という感じのお話かな。

キット♤ ジャン=ルイ・トランティニャン演ずる一家の当主である老人は半分呆けかかってる。アンヌの息子ピエールは、次期社長なんやろけど精神的には異様に不安定。医者のトマは一見まともそうやけど、これまたエキセントリックな音楽家の女と不倫中・・・と、普通に見えてるけど実はちょっとずつ変な人であることが分かってくる。

♡ それぞれに変やし、それぞれに自己中で、互いに家族のことなどまるで気にかけていない。でも白々しいほどのバランスでなんとか家族の体は保たれている。ところが、わずか13歳のエヴがそこへ加わったことで均衡が狂いだす。彼女が父の家に移ってくる理由は途中で分かるのやけど、一見素直で可愛らしいエヴには実は恐ろしい秘密がある。いまどきの子らしくSNSを使いこなすばかりか、驚愕するような映像を淡々と撮影しては投稿する様子に、観るほうも「ええっ・・・?」という感覚に徐々に落とし込まれていく感じやね。

♤ エヴだけじゃなく、登場人物が一人ひとりが奇矯なことをしているのに、この流れを淡々と見せるところがいかにもヨーロッパ映画。アメリカ人が撮ると客受けするポイントを作りたくなるようなところも、ちょっと引いた視点で敢えて盛り上げないのがシニカルで、逆に笑いを誘われてしまうようなところもある。

♡ そう。意図的とはいえ、あまりに引きすぎてかえっておかしみが生まれるんよね。一家の家業は建設業やけど、現場で大きな崩落事故が起きてしまう。この事故の場面も、巨大な建設現場を俯瞰するガラス窓か何かを隔てたところから撮っていて、音も聞こえなければ、目の前で起きている事故なのにリアル感がまったく伝わらない。すごく面白い撮り方よね。

♤ それは冒頭で、エヴの見ているものをスマホで撮った動画として観客に見せているところにも通じる。映画のポスターもスマホの画面の体裁にしてあるけど、人と人との気持ちの交流が希薄になり、あたかもカメラのファインダーを通したような視点になってしまっている世相を皮肉っているように思えたな。そもそも、傍目にハッピーとは見えないこの映画のタイトルが「ハッピーエンド」となっているところに監督の遊び心があるのかも。

♡ エヴの秘密を見破るのは祖父のジョルジュ。呆けてるんだかしっかりしてるんだかわからないけど、とっとと死にたいという願望は自覚してて、これがまた一種異様なラストシーンへとつながっていく。この乾いた場面設定ってどうよ! 振り向きざまに、「あんた何してんのよ!」と言わんばかりの表情をエヴに向けるアンヌが最高やった。思えば、『エル ELLE』で強くて恐い女を演じたイザベル・ユペールが、本作では一番まともな人物やったね。

♤ 本作を観たいと思ったのは、ジャン=ルイ・トランティニャンがキャスティングされてたから。すっかり歳をとったけど、トランティニャンといえば1960~70年代にはフランスの名だたる監督たちの間で引っ張りだこやった。『男と女』が有名やけど、中年にさしかかったころの『Z』とか、ロミー・シュナイダーと共演した『離愁』なんかも良かった。ちなみにトランティニャンと娘役のイザベル・ユペールは、同じミヒャエル・ハネケ監督の前作『愛、アムール』でも親子役で共演している。

♡ ジョルジュが自分の過去をエヴに明かすとき、本作がその『愛、アムール』と対の関係になっているのかもしれないと気づく。変な人間揃いの一家やけど、映画のなかでは誰ひとり救われてないし、まだまだ語られない余白がいっぱい残される。タイトルが示すハッピーエンドなんて、いったいどこにあるんやと思わせて終わる秀作やね。

 

予告編

スタッフ

監督 ミヒャエル・ハネケ
製作 マルガレート・メネゴス
シュテファン・アルント
ファイト・ハイドゥシュカ
ミヒャエル・カッツ
脚本 ミヒャエル・ハネケ
撮影 クリスティアン・ベルガー

キャスト

イザベル・ユペール アンヌ
ジャン=ルイ・トランティニャン ジョルジュ
マチュー・カソビッツ トマ
ファンティーヌ・アルドゥアン エヴ
フランツ・ロゴフスキ ピエール
ローラ・ファーリンデン アナイス
トビー・ジョーンズ ローレンス
ハッサム・ガンシー ラシッド
ナビア・アッカリジャ ミラ

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