レビュー

メアリーの総て(Mary Shelley)

投稿日:2019年1月4日 更新日:

おすすめ度

Mary Shelley

キット ♤ 3.0 ★★★
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

ゴシックロマンスの古典的名作『フランケンシュタイン』の作者であり、ロマン派の天才詩人パーシー・シェリーの妻であるメアリー・シェリー。この怪奇小説を書き始めたとき、彼女はまだ18歳だった。書店主でアナキストの父、女性解放論者の母を持つメアリーは、両親の情熱的で反逆的な血を受け継いでいた。数々の悲劇に見舞われ、失意の中にあったメアリーは夫らと滞在した詩人バイロンの別荘で、1人1つずつ怪奇談を書いて披露しあうという提案を受け、『フランケンシュタイン』を書き上げていく。監督は、サウジアラビア初の女性監督で、長編デビュー作『少女は自転車にのって』で第86回アカデミー外国語映画賞にノミネートされたハイファ・アル=マンスール。

 

言いたい放題

アイラ♡ ひとえにエル・ファニングの存在感が光る作品やね。うんと小さいころから観ているのでもう20歳かという思いもあるけど、まだ20歳。遠くをぼんやりと観るような独特の眼差しやバラ色の肌は、年齢と不釣り合いなほど官能的で、大人びた少女を演じられるいまや数少ない女優。彼女あってこそ成功した作品という気がする。

キット♤ 主な登場人物は、ゴシック・ロマンス(英国怪奇小説)の代表作『フランケンシュタイン、或いは現代のプロメテウス』の作者メアリー・シェリー、その夫で詩人のパーシー・シェリー、そして大詩人のバイロン卿。当時の知名度はバイロン卿がダントツで、パーシーも異端ながら知られた天才。メアリーは小説家を志望してはいたけど、実績ゼロでまだ無名。それが少なくとも現代日本では、ロマン派の詩人たちの名前は聞いたことはあっても、作品を読む人はそうはおらんやろ。でも“フランケンシュタイン”の名は一般名詞並みに認知されているのやから面白い。もっとも、それが若い女性によって書かれたものとはぜんぜん知らなかったけど・・・。

♡ 父親は書店主でアナキスト、亡母は女性解放論者というメアリーは、19世紀初頭のイギリスではかなり特異な家庭環境に育ってると思う。15歳でシェリーと出会って出奔。シェリーはええとこのぼんぼんやけどすでに妻子がいて、日々の生活は不安定。借金取りから逃げる際に生まれたばかりの子どもを亡くすなど、若くして不幸に翻弄されるメアリーやけど、バイロンとの出会いで運命が動き出す。

♤ 駆け落ちまではええとして、親の金で放蕩して、妻子持ちなのを隠してメアリーと一緒になって、借金で夜逃げして・・・みたいな苦難が続くのをみると、メアリーがなんでとっととダメ旦那を見限って実家に戻らんのかと思ってしまうな。バイロンの別荘かてスイスにあるんやで。一般庶民からみたら十分お金はあるんやなぁ。それでも彼らにとっては苦労の多い生活で、その間の悲しみや絶望が『フランケンシュタイン』完成への原動力になるという筋書きなのはわかるけど。ただ、物語は淡々と進んで盛り上がりに欠ける感じ。

♡ たしかにストーリーはドラマチックなのに描写は抑え気味で、メアリーの創作への情熱をもう少し掘り下げほしかったなとは思う。にもかかわらず、若い感性や才気の突出を受け入れる社会だったことは伝わってきたし、ある意味、当時の芸術家はいまよりずっと情熱的でかつ老成していたのやろね。バイロンの別荘に若者が集まり、怠惰に過ごしながら創作に向かうあたり、60~70年代のロックやポップカルチャーなんかのアーティストが、酒やドラッグにまみれながら自己表現と戦っていたのと重なったわ。あと、父親の経営する書店の雰囲気が細部までこだわっている感じがして非常によかった。

♤ 街の様子や服装など、19世紀初頭のイギリスの感じがよく出ているのはよかったな。

♡ 映像はほぼ一貫して鈍い色に満たされて、舞台設定としてイギリス独特の陰鬱な天候が大きな効果をあげてたよね。特筆すべきは、監督がサウジアラビア初の女性監督であるということ。女性の権利がようやく少しずつ拡張しはじめた国から、女性の解放というテーマを持つ作品を撮る女性が出てきたことはとても感慨深い。

 

予告編

スタッフ

監督 ハイファ・アル=マンスール
脚本 エマ・ジェンセン
ハイファ・アル=マンスール

 

キャスト

エル・ファニング メアリー・シェリー
ダグラス・ブース パーシー・シェリー
スティーブン・ディレイン ウィリアム・ゴドウィン
ベル・パウリー クレア・クレアモント
トム・スターリッジ バイロン卿

 

レクタングル336

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