おすすめ度
キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.0 ★★★
アメリカ人女性として初めてトリプルアクセルに成功し、冬季五輪に2度の出場を果たしたフィギュアスケート選手のトーニャ・ハーディング。元夫がライバル選手を負傷させたとされる“ナンシー・ケリガン襲撃事件”のスキャンダルから25年。事件によりスケート界を追われたトーニャの半生を、本人はじめ関係者の証言を交えるスタイルで構成した実話もの。主演のマーゴット・ロビーは自らプロデューサーも兼ね、スケートのシーンにも挑戦した。母親役のアリソン・ジャネイは2018年アカデミー賞助演女優賞を受賞。元夫のジェフ・ギルーリー役に『キャプテン・アメリカ』シリーズのセバスチャン・スタン。クレイグ・ギレスピー監督。
言いたい放題
キット♤ ライバルのナンシー・ケリガンの襲撃事件に関与していたというスキャンダルでフィギュアスケートから追放されたトーニャ・ハーディングの半生を描いた作品。本人、母親、元夫、元ボディーガード、レポータの証言のシーンを織り込んでドキュメンタリー風に仕立ててある。
アイラ♡ しかしまぁ、出てくる人間が揃いも揃って●●ばかり・・・(汗)。関係者の証言を混ぜて客観的な作りにする手法とはいえ、ゴシップ番組愛好者の水準に合わせたような、良くも悪くも実に俗っぽいテイストを出してるのがなかなかええのよね。
♤ 観る側は、25年後のいま明かされるかもしれない襲撃事件の真相に興味があるわけやけど、証言者の言い分はそれぞれ微妙に違う。で、実際に映像として再現される内容はその食い違いの振れ幅を逆に利用して、真実は藪の中であることをコミカルに表現している。元夫は「暴力は振るっていない」と言いはるけど、映像では妻をどつきまくっているし、「自分はやっていない」と言いながらトーニャは平気でショットガンをぶっ放す。こういう場面のセリフ回しで出演者が観客に向かってしゃべる、いわゆる「第四の壁破り」を効果的に使っている。
♡ 通俗的な味付けながら、うまく構成されてるなと思ったよね。真相は明示されないけど、トーニャには同情されるべき気の毒な境遇があったことは強調されてる。個人競技でオリンピック級の選手になるには金銭的に十分な支えが必要だと思ってたけど、彼女は決してそうではない。彼女がインタビューにこたえる際も、自分の属する層を“red neck”だの”white trash”だのと表現する。家はぼろぼろやし、礼儀や食事のしつけもろくにできてない。もっと違う環境で育っていたら・・・と観る者に思わせてしまう場面がたっぷり。
♤ 母親も夫もその取り巻き連中もひどいもんなぁ~。まあ、元ボディーガードがいちばん悪いねんけど、たぶん。家庭の貧困と暴力を取り上げた作品は数多いけど、本作でもトーニャは母親に殴られ、夫に殴られ、また殴り返しもする。思わず感心してしまったのが、母親にしても夫にしても、“そろそろこのタイミングで殴るんやろな・・・あっ殴った”っていうんじゃなくて、こっちが予知する前にサクッと殴ってること。暴力が日常である家庭では、きっと殴り方もこうなんだろうと思わせる妙な説得感があった。母親は気がついた時にはナイフ投げてたし。
♡ 文字通り、口より手が先に出る人らやわ~。くだんの元ボディガードはすでに亡くなっているそうやけど、本作中に使われるインタビューの場面は、彼が生前に受けていたテレビインタビューのシーンをそっくり再現したものとのこと。制作にあたってはトーニャと元夫のギルーリーからも実際に話を聞いていて、双方の言うことがかなり矛盾している点を映画化に際して活かしたそうよ。ところが2人の話で唯一矛盾がなかったのが母親のラヴォナの人となり。たしかに、アカデミー助演女優賞を取ったアリソン・ジャネイの怪演はちょっとやそっとじゃ忘れられないものがあるわけで・・・。
♤ 裕福で上品な子どもたちに混じって、貧困母子家庭育ちのトーニャは当然場違いで、出る杭は打たれる苦労をしながらオリンピック選手になったという成功譚、そしてスキャンダルによる挫折という、いずれも大衆受けする物語を20年以上経ってから掘り起こして映画化するという着目点はよいと思ったな。
♡ 努力が報われる成功譚とは正反対に、アメリカスポーツ史に残る悪役を主役にしてるんやものね。トーニャ役のマーゴット・ロビーは、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でデカプリオの妻役で注目されて、『スーサイド・スクワッド』のハーレイ・クイン役のぶっ飛んだ演技で一気に人気女優に。最初はただの美人女優だと思ってたけど、着実に存在感を放つようになってきた感じやね。本作では、どこまで合成したのかはわからないけどスケートにも自ら取り組んでいるとのことで、スケーティングのシーンはなかなか見ごたえのあるものになってる。
♤ 『スーサイド・・・』までは演技力について評価が分かれたかもしれないけど、本作のトーニャ役はその疑問に対する答えを用意しましたと言わんばかり。受賞は逃したけど、アカデミー主演女優賞にノミーネートされたことで実力を証明したといえるのとちがうかな。とはいえ、彼女は本作では制作にも加わっている。調べてみると、俳優業の傍ら早くに映画制作会社も立ち上げているというから若いのにやり手みたいやな。
予告編
スタッフ
監督 | クレイグ・ギレスピー |
脚本 | スティーブン・ロジャース |
キャスト
マーゴット・ロビー | トーニャ・ハーディング |
セバスチャン・スタン | ジェフ・ギルーリー |
アリソン・ジャネイ | ラヴォナ・ハーディング |
ジュリアンヌ・ニコルソン | ダイアン・ローリンソン |
ポール・ウォルター・ハウザー | ショーン |
マッケンナ・グレイス | トーニャ・ハーディング(8~12歳) |
ボビー・カナベイル | マーティン・マドックス |
ケイトリン・カーバー | ナンシー・ケリガン |
ボヤナ・ノバコビッチ | ドディ・ティーチマン |
アンソニー・レイノルズ | デリック・スミス |