レビュー

オン・ザ・ミルキー・ロード(On the Milky Road/На млечном путу)

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おすすめ度

On the Milky Roadのポスターキット♤ 4.0 ★★★★
アイラ♡ 4.0 ★★★★

ジム・ジャームッシュやジョニー・デップも敬愛するボスニア・ヘルツェゴヴィナの名匠エミール・クストリッツアが9年ぶりに撮った長編映画。クストリッツァ自身が監督と脚本、主演を務め、『007 スペクター』『マトリックス』シリーズのモニカ・ベルッチを迎えて摩訶不思議な寓話のような物語を作り上げた。内戦中のとある村で、ロバに乗って銃弾をかいくぐりながら兵士たちにミルクを届ける牛乳配達人の男。村一番の美女に想いを寄せられていたが、過去を持つイタリア人の女と運命的な恋に落ち、2人は危険な逃避行へと身を投じていく・・・。

 

言いたい放題

キット♤ ボスニア・ヘルツェゴビナ出身のエミール・クストリッツァの監督・主演作品。作品の冒頭で「3つの実話と多くの寓話からなる物語」と示されるのやけど、正直いままで観たことのない不思議な映画やった。

アイラ♡ ひとつページをめくるごとに、色彩に満ちたファンタジックでグロテスクな、でも夢のようなお話が次々と飛び出してくる、大人のための不気味な寓話絵本みたいな感じやったね。どれが実話でどれが寓話なのかはわからないけど、ロシアや東欧あたりの民話や昔話に出てきそうな不思議な人々や動物が次から次から登場して、奇想天外な世界へと観る人を導いていく。

♤ どことは示されないけど、のどかな田舎の村で塹壕を掘っていて、その村が戦争状態にあることが示される冒頭。セルビア語を話せるというセリフがあるし、監督もサラエボ出身なので、旧ユーゴスラビア内戦を自動的に連想する。

♡ かくして前半は、戦時なのにどこか牧歌的で童話的な村の様子が語られていく。主人公のコスタは、日傘をさしてロバに乗って兵士たちのところへ毎日牛乳を届ける配達人。もとは民族楽器の音楽家らしく、村一番の美人の娘に思われているんだけど、戦争で父親を惨殺されたことで精神的に少しおかしくなっているようであることがわかってくる。

♤ この村の様子がとにかく不思議。やたら動物が多くてアニマルムービーかと思うほどやけど、それぞれどこか奇妙で、屠殺された豚の血を溜めた中へ次々と飛び込むガチョウの群れ、音楽に合わせて肩を振るハヤブサ、鏡に写る自分の姿に体当たりを繰り返すニワトリ、ミルクを飲む蛇などの挙動が、観ている者になんとも不安な気持ちを抱かせる。壊れてしまって歯車に人間を巻き込む大時計といい、観る者を落ち着かない気持ちになったところでエミール・クストリッツァ監督の術中に落ちてしまっていたような気がする。

♡ せやね。あくまでも想像やけど、挙動のおかしい動物たちや変な大時計は、長引く内戦で精神的に疲弊した人々の代替なんじゃないかと思えるのよね。心を病んだ人々をそのまま描くのではなく、血溜まりに次々飛び込んでハエを集めるガチョウとか、鏡の中の自分を攻撃し続けるニワトリとかに、軍や民衆の狂気を象徴させてるような気がした。

♤ そんな村でも戦闘は行われていて、ときに弾が飛び交い砲弾が炸裂する。でもそのわりに戦時の緊張感がないのは、主人公コスタが危険な場所を平然とロバに乗って動き回るコミカルな描き方に安心を覚えるからやと思う。やがて戦争は終結し、コスタを思うミレナは戦場から戻ってくる兄のために花嫁(モニカ・ベルッチ)を調達し、自分はコスタとのダブル結婚式をもくろみ上機嫌。終戦祝いの宴会でミレナが調子づき、景気付けに拳銃をぶっ放すところとかやたらノリが良い。ところどころでスパイ風の男が写真を撮ってるけど、それとて見え見えの演出で深刻な感じなし。

♡ ・・・とコメディ風に進むのはそこまで。この花嫁というのがいわくつきの過去を持つ女だったことから状況は一変。彼女を奪還すべく特殊部隊が降下して村を急襲するところから雰囲気が変わる。

♤ 戦争場面でさえ絵本のように牧歌的で誰も死なずにきたのに、いきなり殺戮が始まり村は火の海に。人も動物たちもすべてやられてしまう。後半はこの凄惨さのギャップで見せるのかと思ったら、またも予想は裏切られる。きれいな大自然をバックにコスタと花嫁の逃避行が始まり、3人の特殊部隊員がしつこく追跡する。これが川での潜水、滝壺ジャンプ、崖からの落下、草原の羊の群れに紛れるなど、延々と続く。最後は地雷原へ足を踏み入れて羊の大虐殺となるが、爆発する度に羊がポンポンと跳ね上がる様は、劇画的ですらある。

♡ その間にも、ヤギと頭突き競争をする村の人々など、不思議なものが挿入されるのやけど、それぞれに寓意があるようなないような・・・とにかく面白い。あくまで美しい大自然の光景といい、動物たちの熱演といい、全編にものすごいエネルギーが注がれているのがよくわかる。

♤ 結局はナンセンスコメディ、動物もの、ラブストーリー、戦争物をミックスして、音楽と踊りのフレーバーを付けたような映画。それらが分離せずに、混ざって独特の雰囲気を作っている変な映画、でも悪くない。

♡ クストリッツア監督自身、カンヌでパルム・ドールを2度受賞しているほか世界三大映画祭すべてで受賞している実力者。ユーゴ内戦をテーマにする作品も多いので、本作もコメディのようなシリアス作品という監督らしい持ち味が存分に発揮されているとみていいんじゃないかしらね。コスタが聖職者となって行うラストの行動も、内戦で犠牲になったすべての人々の墓石のように見えてしかたなかった。それにしても、村ひとつを焼き尽くすほどの深い“業”を担った絶世の南欧美女という設定に、モニカ・ベルッチはもう絶妙の起用よねぇ。

 

 

予告編

 

スタッフ

監督 エミール・クストリッツァ
製作 パウラ・バッカーロ
エミール・クストリッツァ
ルーカス・アコスキン
アレックス・ガルシア
脚本 エミール・クストリッツァ
撮影 ゴラン・ボラレビッチ

 

キャスト

エミール・クストリッツァ コスタ
モニカ・ベルッチ 花嫁
プレグラグ・ミキ・マノジョロビッチ ザガ
スロボダ・ミチャロビッチ ミレナ

 

レクタングル336

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