レビュー

サイドマン スターを輝かせた男たち(Sidemen: Long Road to Glory)

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おすすめ度

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

Sidemen Long Road to Glory

シカゴブルースの大御所、マディ・ウォーターズとハウリン・ウルフの音楽を支えた3人のサポートミュージシャン(サイドマン)を描くドキュメンタリー。いまなお世界中にファンをもち、多くのミュージシャンたちから敬愛されるマディ・ウォーターズとハウリン・ウルフ。長年にわたってレコーディングやライブでマディをサポートしたピアニストのパイントップトップ・パーキースとドラマーのウィリー・“ビッグ・アイズ” ・スミス。そしてウルフのギタリストを務めたヒューバート・サムリン。彼ら3人の業績をたたえ魅力について語るのは、キース・リチャーズやエリック・クラプトン、ジョニー・ウィンターら、彼らに続くベテランミュージシャンたちだ。2011年、ともにこの世を去った3人へのラストインタビューから彼らの足跡を振り返り、サイドマンとしての人生にせまる。

 

言いたい放題

キット♤ 辞書によれば、“sideman”とは「伴奏楽器演奏者」。『バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち』『レッキング・クルー~伝説のミュージシャンたち~』『黄金のメロディ マッスル・ショールズ(Muscle Shoals)』など、実力がありながら脚光を浴びることなく、スターたちを裏方として支えてきた人々を題材にした作品の流れにあるといえる。本作は、パイントップ・パーキース(ピアノ)、ウィリー“ビック・アイズ”スミス(ドラムス)、ヒューバート・サムリン(ギター)の3人のドキュメンタリー。まったく知らなかったけど、シカゴ・ブルースのビッグスターであるマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフのバンドのメンバーだったり、ツアーに同行して演奏していた面々。

アイラ♡ パイントップ・パーキンスとウィリー・スミスは70年代のマディ・ウォーターズを、 ヒューバート・サムリンは20年にわたってハウリン・ウルフをサポート。ビッグスターたちのステージを彩り、支えてきた人々ながら、表に出ることはなく、高額のギャラとも無縁。それでも生まれ落ちたときから音楽が大好きで、これ以外の仕事は考えられなかっただろうと思わせる人たちばかり。よくぞ彼らにスポットをあてた映画を作ってくれた。

♤ 面白いことに、ブルースが商業的に成功したのは60年代のイギリス。この当時のイギリスのロックバンドは、ブルースをカバーするところから始まったものが少なくない。ローリング・ストーンズしかり。彼らの曲がアメリカに逆輸入され、その後の多くのミュージシャンたちがブルースへ傾倒していくという流れがある。その中で、いわば発見されたのがパイントップたちサイドマン。彼らについてインタビューで熱く語るのは、エリック・クラプトン、キース・リチャーズ、スーザン・テデスキ、デレク・トラックス等々の豪華メンバー。

♡ 最近亡くなったグレッグ・オールマンやジョニー・ウィンターらの顔も見られて嬉しい。インタビューに応じる誰もがヒューバート・サムリンのギターから大いに影響を受けたというようなことを異口同音に語ってたわね。ボニー・レイットは「音楽はメンバーによる共同作業」だといって、相互に作用しながらひとつのものを作っていくうえで、彼らの存在がどれほど大きかったかと話してる。いまなお多大なリスペクトを集める存在であるということに胸が熱くなったわ。

♤ けど、映画の中に「バンドはリーダーがいて、あとはみんな裏方だ」というセリフがあったように、60~70年代のバンドではマディやウルフのようなリーダーが富と名声を独り占めしてサイドマンにはあまり恩恵がなかったみたいやな。だから大御所たちの死後、残されたメンバーは路頭に迷うことになる。特に90年代はブルースの人気が落ちて3人共生活が苦しかったようだ。

♡ チャンスがあれば、彼らも大スタートなり得ただけの才能はあったはずやのに、ショービズ界というものには常にそうした部分があるわね。ジョン・ベルーシの『ブルース・ブラザーズ』(1980)は、往年のブルースミュージシャンたちへのオマージュ作品でもあるけど、ストリートミュージシャンとして登場するジョン・リー・フッカーのバックにパイントップとウィリー・スミスの姿が見られるのね。残念ながら、わかる人にだけわかるというお話。

♤ その後、ブルースの人気が回復してパイントップは75歳を超えて最初の自分のアルバムを出すなど演奏を続けて晩成している。パイントップの晩年の映像ではきちんとした身なりをした可愛らしいおじいちゃんという感じ。好きな食べものはマクドナルドのハンバーガーだと語っていた。十分長生きしているけど、健康のために食べ物を選ぶという生活とは無縁だったんだろう。一番気の毒だったのはヒューバート・サムリンで、精神的にも父親のようだったウルフが死んだ後は貧困に苦しみ、酒やドラッグに走ったという。でも最終的には立ち直っていたのが救い。

♡ 映画の最後に、パイントップとウイリーの共同アルバム「Joined at the Hip」が2011年のグラミー賞で「Best Traditional Blues Album」を受賞するシーンがあって嬉しくなる。

♤ 奇しくもこの年に3人が続いて亡くなっているので、ぎりぎり間に合ったというところやな。本作は2016年製作ということやから、演奏やインタビューの映像が散逸するまえに映画化されて良かった。

♡ いうなれば、彼らは初期のデルタ/シカゴブルースマンの最後の3人というべき存在で、ベタな言い方をすればひとつの時代の終焉がある。でも彼らの精神は受け継がれていくということやね。

♤ 「Joined at the Hip」を聞いてみたら、派手さはないけど収録曲はいずれもええ感じ。特にスローテンポな曲がヴィンテージっぽくて良い。このアルバムでは、ウイリーはドラムスを息子に譲り、歌とハーモニカを担当しているらしいが、これも良い。

 

予告編

スタッフ

監督 スコット・ローゼンバウム
製作 スコット・ローゼンバウム
エメット・ジョーンズ
ジョセフ・ホワイト
トニー・グラジア
製作総指揮 アラン・ルドルフ
ファブリツィオ・グロッシ
脚本 ジャシーン・キャディック
スコット・ローゼンバウム
編集 ボー・メラド
音楽 ファブリツィオ・グロッシ
ランス・ロペス
ナレーション マーク・マロン

 

キャスト

パイントップトップ・パーキンス
ウィリー・“ビック・アイズ”・スミス
ヒューバート・サムリン
グレッグ・オールマン
ジョー・ボナマッサ
シェメキア・コープランド
ウォーレン・ヘインズ
ロビー・クリーガー
ジョー・ペリー
ケニー・ウェイン・シェファード
デレク・トラックス
ジョニー・ウィンター
ティム・レイノルズ
ボニー・レイット
スーザン・テデスキ
ポール・ネルソン
ボビー・ラッシュ
スコット・シャラード
エリック・クラプトン
キース・リチャーズ

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