レビュー

否定と肯定(Denial)

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おすすめ度

Denialキット ♤ 3.0 ★★★
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

ホロコーストは存在しなかったと主張するイギリスの歴史家と、これを見過しにはできないユダヤ系アメリカ人歴史学者が争った「アーヴィング対ペンギンブックス・リップシュタット事件」を描いた法廷劇。1994年、イギリスの歴史家デビッド・アービングが展開する「ホロコースト否定論」に対し、これを看過できないユダヤ系アメリカ人の歴史学者デボラ・E・リップシュタット。自著でアービングの説を真っ向から否定したデボラを、アービングは名誉毀損で訴えた。それも、訴えられた側に立証責任があるというイギリスの司法制度を利用して。デボラ側についた腕利きのイギリス人大弁護団は、アウシュビッツの現地調査をはじめ緻密な歴史の再検証とともに裁判に臨んでいく。主演は2006年『ナイロビの蜂』でアカデミー助演女優賞を受賞したレイチェル・ワイズ。

 

言いたい放題

キット♤ ナチスもの、ホロコーストものは映画の題材として繰り返し取り上げられてきたもので、まったく新しいテーマではない。

アイラ♡ 最近ではヒトラーをタイトルにもってくる作品が続いていて、ブームというのとは違うかもしれないけど、ちょっとなぁという思いがあったのやけど、それらとは一線を画する作品やった。

♤ 舞台は現代。ホロコーストは史実ではないという否定論者と、正しい歴史認識を守ろうとする主人公の対決であるところがいままでにない切り口。ただ劇場に行くまでは少々気が重かった。というのも、予告編をみてティモシー・スポール演じるホロコースト否定論者が、事実を捻じ曲げて白を黒と言いくるめようとしてくるのが分かっていたから。この種の議論は水掛け論に終わりがちやし、後味の悪い作品になるんやろなと思ってた。

♡ でも始まってみると、史実としてのホロコーストの実在をめぐる裁判という面もさることながら、スリリングな法廷ものとしての性格が強いことがわかる。

♤ 法廷対決は、件の否定論者デビッド・アービングが原告で、被告がレイチェル・ワイズ演じるユダヤ系アメリカ人の学者デボラ・リップシュタット。面白いのは、自らのホロコースト不存在論を真っ向から否定するデボラを、アービングがイギリスで訴えたこと。なぜならイギリスでは、立証責任が原告ではなく被告側にあるから。ほかにも、イギリスであれば裁判方式を陪審員か判事によるかが選べるなど、いろんな司法制度上のルールを理解しながら観なくちゃならないけど、そうした情報を自然に織り込んであるのはうまい。特に弁護団が、原告が裁判で勝てなくても、ホロコーストの有無が両論併記となるだけで目的を達成できるともくろんでいることを見抜いていて、その罠に陥らないように裁判を進めるロジックも分かりやすく描かれている。

♡ 被告側にはイギリス王室の離婚裁判も手掛けたという強力な弁護団が付くのやけど、そのリーダー格を演じるのが大ベテランのトム・ウィルキンソンと、進境著しいアンドリュー・スコット。アンドリュー・スコットはTVドラマシリーズの『シャーロック』のモリアーティ役でもおなじみやけど、冷静で知的な役が実にはまってたね。

♤ この被告側弁護士たちの冷静な戦略、周到な準備が功を奏するところはなかなか気味がええよな。

♡ アービング役のティモシー・スポールは『ターナー、光に愛を求めて』の傲岸な画家役でカンヌ映画祭の男優賞を取っている実力派やけど、裁判を争う根拠はほとんど思い込みのような主観だけというこの学者を実によく演じてたね。

♤ レイチェル・ワイズ演じるデボラについては、本来なら冷静な歴史学者のはずなのに、弁護士が立てた法廷戦略をちゃんと理解せずに感情的な行動に走りそうでひやひやさせられる。開廷時にお辞儀をするしきたりを否定したり、傲慢で感情的な女性のように描かれるし。でも結審のときはお辞儀するようになっているので、裁判を通じて人間的に変わったことを見せようとしたのかもしれないけど、いかにもアメリカ人という役に作りすぎているようにも感じたな。

♡ アウシュビッツ経験者を証人に立てかけたり、戦略がわからず弁護団にたしなめられっぱなしやったよね。イギリスの法廷ものってあまり観たことがなかったので、法廷でのしきたりや法廷戦術など、いろいろ面白かったわ。

♤ ホロコーストに関しては、映画やドキュメンタリー番組などで知っているような気になってたけど、ガス室の建物がナチスの証拠隠滅によって終戦までに破壊されていたとはこの映画を見るまで知らなかった。調査や証言による再現映像を見て実物がそのまま残っているように思い込んでいただけで、自分の認識のええかげんさを思い知った。

♡ これは、緻密かつ膨大調査の積み重ねと、それを支える莫大な資金があってこそ得られた勝利でしょう。結審まで相当な時間もかかってるのと違うかな。調査の結果わかった事実など、もうちょっと描き込まれていたらさらに楽しめたのにとは思う。資金についてはさらりとにおわす程度ではあったけど、スピルバーグの協力について触れられてたように、恐らくはユダヤ人社会からのバックアップがかなり大きかったと想像できる。その意味では、多くのホロコースト映画と同じバックグラウンドで作られたものとは思うけど、新たに知ることも多くて興味深い作品やったわね。

♤ 2016年の作品で、1年以上経過してからの日本公開。慰安婦問題、フェイクニュース、イスラエルの首都問題などを思うと公開時期はタイムリーといえるけど、事実を簡単に捻じ曲げることができて、それが今でも横行しているという現実にはちょっと気が重くなる。

 

予告編

スタッフ

監督 ミック・ジャクソン
原作 デボラ・E・リップシュタット
脚本 デビッド・ヘア

 

キャスト

レイチェル・ワイズ デボラ・E・リップシュタット
トム・ウィルキンソン リチャード・ランプトン
ティモシー・スポール デイヴィッド・アーヴィング
アンドリュー・スコット アンソニー・ジュリアス
ジャック・ロウデン ジェームズ・リプソン
カレン・ピストリアス ローラ・タイラー
アレックス・ジェニングス サー・チャールズ・グレイ

 

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