レビュー

アメリカン・アニマルズ(American Animals)

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American Animals

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

2004年に起きた、4人の大学生が時価1200万ドル(約12億円相当)の稀覯本強奪を図った窃盗事件を映画化。ケンタッキー州で退屈な大学生活を送るウォーレンとスペンサーは、大学の図書館に保管されている貴重な画集を盗み出す計画を思いつく。2人の友人で、秀才のエリックと実業家として成功していたチャズに声をかけ、4人は作戦を練る。決行当日、特殊メイクで老人に変装し図書館へと足を踏み入れるが…。監督は、ドキュメンタリー映画「The Imposter」で英国アカデミー賞最優秀デビュー賞を受賞したバート・レイトン。

 

言いたい放題

キット♤ 4人の大学生が、オーデュボンという人が描いた「アメリカの鳥類」という高価な画集を盗み出そうとする犯罪映画。計画は失敗に終わり、4人は有罪となって7年間服役することになる。

アイラ♡ 時価1200万ドルの価値がある稀覯本を盗もうと思いつくのはスペンサー(バリー・コーガン)。アイデアを聞いて実行までの推進役になるのがウォーレン(エバン・ピーターズ)。2人とも日常に退屈していて、世間が驚くようなことをしてみたいというのか、若者らしいといえばそれまでやけど、かなり稚拙な理由で計画に臨む。頭はよさそうなのに、終始彼らのアホさとダメダメぶりで話をひっぱっていく。

♤ 後にチャールズとエリックが実行用に誘われて参加。主犯とは言い難いが、こいつらも賢いとはいえない。主に計画を立てたウォーレンは家庭に問題もあり一番犯罪に走りそうなタイプ。緻密に計画を作るタイプでもなさそうで、案の定、実行すると予想外のことが次々と起こる穴だらけのプラン。観ていて不思議に思ったのは、ウォーレンよりも知恵が回りそうで、失敗したときにウォーレンよりも失うものが多そうな他の3人が、計画をしっかりと吟味していないところ。

♡ そうそう。エリックはFBIを目指す秀才やし、チャ―ルズはすでにビジネスマンとしてうまく行ってる。なのに彼らが参考にするのは『レザボア・ドッグズ』なんかの犯罪映画。頭の中ではご立派でカッコいい立ち回りまでついたプランを作り上げてるのやけど、やればやるほど裏目に出て、結局は全部投げ出してしまうような場当たり的犯行なのがとにかくおかしい。

♤ 変装を直前になってやめたり、逃走経路の確認が不十分だったり、本の重さを考えていなかったりとプランはボロボロ。しかも盗んだ本を換金する手段をウォーレンに任せっぱなしで、最後にスペンサーが示唆したように、ウォーレンは換金の目処がないのにあるフリをして他の3人を引き込んだようにも見える。

♡ そこは謎のまま終わるのやけど、ウォーレンがほんとうにオランダにまで飛んで交渉相手と会っていたかどうか、誰も確認もしてないのやから、ほんまに穴だらけのダメダメ学生たち。どこを取ってもぐだぐだで、はぁ~~~?みたいな場面が続くのやけど・・・。

♤ 結局これは、素人犯罪者の計画の優劣を語りたい話なのではなくて、なぜ4人の大学生が犯罪に走ってしまったのかというところがポイントなんやろな。実行直前になって抜けようとするスペンサーをウォーレンが説得するシーンがある。退屈な大学生活を送って平凡な人間になってしまうのではなく、自分が「特別な」人間であることを証明するために「何か」をしなければならないと考えるのは、この年頃の世代には共感しないまでも理解できるのではないだろうか?

♡ ほんの一瞬でも有名になることは誰もできる。犯罪だとも思わず、Youtubeに稚拙ないたずら動画を流す連中と彼らの間には、それほどの違いはないのかも。

♤ その「何か」によってはアメリカン・グラフィティになっていたかもしれないのに、「犯罪」を選んだがためにアメリカン・アニマルズになってしまったという映画かなと思う。

♡ 俳優たちの演技による部分と、実際の本人たちへのインタビュー部分を混ぜた作り方が非常に斬新。ノンフィクション映画でもないドキュメンタリー映画でもない独特の作り。カメラワークもなかなかおもしろくて、たとえば犯行に出かける4人が乗った車が、実際のスペンサーの家のガレージの前を通り、リアルのスペンサーがそれを目で見送る・・・といった不思議な場面づくりがなされていたり。あちこちにそんな仕掛けがあるかもしれないので、機会があったら再見してみたいかも。

♤ 俳優については、スペンサー以外の3人は本人と似たタイプの役者なのに、スペンサー役のバリー・コーガンは本人と全く似ていない。微妙な違和感があったのは、コーガンには『聖なる鹿殺し』の不気味なイメージが強すぎたからかも。悪くはないんやけど・・・。

♡ バリー・コーガンには、彼でなくては!という役のオファーがどんどん来てるのと違うかな。かなり独特の風貌の持ち主やけど、これからが楽しみな俳優やね。

 

予告編

スタッフ

監督 バート・レイトン
脚本 バート・レイトン

キャスト

エバン・ピーターズ ウォーレン・リプカ
バリー・コーガン スペンサー・ラインハード
ブレイク・ジェナー チャールズ・T・アレン2世
ジャレッド・アブラハムソン エリック・ボーサク

レクタングル336

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