レビュー

マダムのおかしな晩餐会(Madame)

投稿日:

おすすめ度

Madame

キット ♤ 2.0 ★★
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

パリに暮らす裕福なアメリカ人夫婦アンとボブ。上流階級の友人たちを自宅での晩餐会に招待するが、手違いで出席者が13人となり、スペイン人メイドのマリアを14人目の出席者に仕立てあげる。「ミステリアスなレディ」として振る舞うはずが、緊張のあまりワインを飲みすぎて下品なジョークを連発するマリア。場違いなジョークが逆にウケてしまい、マリアはイギリス人紳士から求愛されるはめに。アメリカ人夫婦に、オスカー女優のトニ・コレット、『レザボア・ドッグス』などのハーベイ・カイテル、メイドのマリアにはアルモドバル監督作でおなじみのロッシ・デ・パルマと、個性的なキャストが揃う。監督は新鋭アマンダ・ステール。

 

言いたい放題

キット♤ カテゴリー的にはコメディ。ただ、どうも素直には笑えなかった。パリの上流家庭での晩餐会の参加者が13名になり、縁起が悪いと考えた女主人のアン(トニ・コレット)が嫌がるメイドのマリアを無理やり14人目の客に仕立て上げたのが事の発端なんやが・・・。

アイラ♡ スペイン人移民のマリア(ロッシ・デ・パルマ)は、ベテランで頼りになるけど、どうやらお酒を飲むと陽気になりすぎるらしく、酒は控える、なるべくしゃべらないなど釘を差されて宴席に臨まされる。

♤ ところが一家の息子スティーブンが、ゲストのひとりで絵画のバイヤーをしているデビッドに、彼女は高貴な血筋の末裔と嘘を吹き込んだから、デビッドがしつこくマリアに迫りだす。マリアも上等なワインで抑制が効かなくなり、場違いな下ネタジョークを連発・・・と、そのままドタバタ喜劇で終わってくれればよかったんやけど、マリアがその後もしつこく迫るデビッドに本気を出してしまったあたりから嫌な予感がしてくる。

♡ スティーブンの悪い冗談が裏目に出る結果となり、マリアの恋はエスカレートしてしまうのやけど、彼女とて悪い気持ちはしなかったんでしょう。アンのドレスをこっそり着てはいそいそとデートにでかけてしまう。映画を観たりドライブしたり、青春ドラマのような熟年2人のデートシーンは悪くなかったな。マリアも、いかにも南欧の女性らしいどっしり体型で古いイタリア映画のような雰囲気を漂わせてるし。

♤ ストーリーの組み立てはよく出来ていて、誤解が新たな誤解を生んだりする典型的なコメディの手順を踏んでいるのやけど、話が進むほどに「ハッピーエンドは難しいな」という感覚が高まるばかり。アメリカ映画なら、どんでん返しを組み込むとかして力ずくでハッピーエンドにしてしまいそうやけど、そこはフランス映画。別にハッピーエンドでなくてもええんやけど、観客を放り出すようなエンディングはフランス映画の得意とするところ。やっぱりコメディはコメディらしく素直に笑えるのが僕は好き。

♡ それにしても、これも邦題が最悪やね。屋敷のマダムであるトニ・コレットが主人公かと思ってしまうけど、真の主人公はメイドのロッシ・デ・パルマ。アンはというと、フィリピン人メイドではマリアの代わりに宴席には座らせられないと言ってみたり、上っ面で差別主義的な深みのない人間として描かれている。本作でも、とうてい主人公にはなり得ないキャラ。

♤ だとしても、それがヨーロッパ独特の階級社会の現実。結局最後はそこに支配されてしまうというのが悲しいところ。マリアが単なるメイドと知った途端、屋敷に来ていたデビッドはマリアにそっけない一瞥をくれただけ。体面ばかり気にして取り繕ってはいるが、実態は薄っぺらなものでしかないことの風刺としては悪くない。でも映画の主題がスッと入ってきにくかった。

♡ 実は私の見方はまったく逆。ラストシーンには一瞬突き放されたけど、私はこれはハッピーエンドやったと思うのよ。ネタバレになってしまうけど、荷物をまとめ、履き慣れた地味な黒い靴を履いて、顔を上げて颯爽と歩き去っていくマリア。アップになったその表情、というか目の輝きが途中で大きく変わったのに気がついた? あれは視線の先に何かを発見したからに違いない。口元にはうっすらとした笑みが浮かんで、心なしか涙もにじんでた。あの表情の変化は何ゆえだったのか・・・。あの視線の先にデビッドがいたんじゃないかと思うのよ。そこは一切明示されないので、あるいは取り澄ました上流階級にかしずく日々から解放された喜びだったのかもしれないけど、それではあの瞳の輝きと潤んだ目元の説明はつかないわ。マリアをモデルに“Madam”という小説を書きあげたスティーブンが「人はハッピーエンディングが好き」と言っていることから考えて、あれは間違いなく前者。そしてマダムとはマリアそのものなんやと思う。

 

予告編

スタッフ

監督 アマンダ・ステール
脚本 アマンダ・ステール
マシュー・ロビンス

 

キャスト

トニ・コレット アン
ハーベイ・カイテル ボブ
ロッシ・デ・パルマ マリア
マイケル・スマイリー デビッド
トム・ヒューズ スティーヴン

 

レクタングル336

レクタングル336

-レビュー

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

関連記事

A Star Is Born

アリー スター誕生(A Star Is Born)

おすすめ度 キット ♤ 4.5 ★★★★☆ アイラ ♡ 4.0 ★★★★  才能を見いだされた主人公がスターダムを駆け上がっていく物語。1937年の「スタア誕生」から何度も映画化されてきたストーリーが …

キングスマン

キングスマン ゴールデン・サークル(Kingsman: The Golden Circle)

おすすめ度 キット ♤ 3.5 ★★★☆ アイラ ♡ 3.5 ★★★☆ 大ヒットしたイギリスのスパイアクション映画『キングスマン』の続編。ロンドンはサヴィルロー・ストリートにあるスパイ組織キングスマン …

ビニー、信じる男のポスター

ビニー 信じる男(Bleed for This)

おすすめ度 キット ♤ 3.0 ★★★ アイラ ♡ 3.0 ★★★ 交通事故で将来を絶望視されながら奇跡のカムバックを果たす実在のプロボクサー ビニー・パジェンサと、彼を支える人々の物語。世界タイトル …

The Sisters Brothers

ゴールデン・リバー(The Sisters Brothers)

おすすめ度 キット ♤ 4.5 ★★★★☆ アイラ ♡ 4.0 ★★★★ 『君と歩く世界』『真夜中のピアニスト』などのフランス人監督ジャック・オーディアールが初めて手がけた英語劇。ジョン・C・ライリー …

Ready Player One

レディ・プレイヤー1(Ready Player One)

おすすめ度 キット ♤ 4.0 ★★★★ アイラ ♡ 4.5 ★★★★☆ スティーブン・スピルバーグ監督が、アーネスト・クラインの小説『ゲームウォーズ』を映画化。失政のため貧富差が拡大し、トレーラーを …