おすすめ度
キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆
『愛より強く』『そして、私たちは愛に帰る』『ソウル・キッチン』の3作で、カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界3大映画祭を制覇したドイツの俊英ファティ・アキン監督作品。ハリウッドで活躍するダイアン・クルーガーを主演に、テロで家族を奪われた女性が下す壮絶な決断を描く。クルーガーは本作で第70回カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞した。
言いたい放題
キット♤ テロ、ネオナチ、移民といった時事ネタ盛り沢山なドイツ映画。
アイラ♡ ファティ・アキン監督自身がトルコ系ドイツ人。コメディ作品の『ソウル・キッチン』(09)では大衆食堂を営むギリシャ系ドイツ人、前作『消えた声が、その名を呼ぶ』(14)はアルメニア人虐殺を生き延びた父親が主人公だったように、民族対立をめぐるさまざまな問題に視線を送り続ける監督でもある。本作もドイツにおける移民の立場に視点を置いているしね。
♤ 主人公はトルコ移民の夫と息子をテロで失ったカティヤ(ダイアン・クルーガー)。カメラが終始カティヤについて回るような撮り方なので、ダイアン・クルーガーは全シーンに出ずっぱり。ドイツ人なのにドイツ語のドイツ映画には初出演ということもあってか大熱演で、カンヌ映画際の女優賞を獲得した。プロモーション用のインタビューでは美人女優然としてるけど、作品中の彼女は顔つきも鋭く髪の毛はバサバサ。かなり役作りしていた風。映画の出来栄えの8割くらいはクルーガーに依存していて、彼女の頑張りでヒット作になったのではと思う。
♡ 顔も名前も知っているのに、あまり代表作が思い浮かばないのやけど、『トロイ』や『ナショナル・トレジャー』あと『イングロリアス・バスターズ』などに出てるんやね。ハリウッド女優という立ち位置から転じ、初めてのドイツ語映画主演となった本作では、ちょっとパンクで鉄火肌やけど、家族を愛する妻であり母を演じきってる。
♤ 主演の熱演以外では、卑劣なテロに対して正義が行われないもどかしさが見どころ。法廷シーンはなかなか面白く、観る側にいらいらを募らせるような被告側弁護人の法廷戦術と、それが功を奏してしまう裁判制度の限界を見せつける。
♡ カティヤの夫には麻薬売買で服役した過去があり、警察はトルコ人の間の争いという線を譲らない。ネオナチの仕業だと主張するカティヤの証言も、彼女自身の麻薬使用歴を理由に相手にされない。2000年代は実際、ドイツ国内でもネオナチによる外国人襲撃事件が相次いで、いまもネオナチと聞くだけでも忌避したがる人が多いそうで、監督の視点もその部分にあるのやろね。
♤ ただ本題から外れるけど、被告2人が事件発生日にギリシャにいたというニセアリバイを検察が崩せないのってどうなんやろ。シェンゲン協定でEU域内では国境検査なしで移動できるから、パスポートに記録は残らないとはいえ、移動手段を調べたら嘘はすぐバレると思うんやけどな・・・。
♡ うん、逮捕までは早かったのに、推定無罪の考え方で被告は自由の身になってしまう。犯人に罪を償わせたかったカティヤのやり場のない無念さが、やがて大胆な決断へとつながるわけやけど。
♤ カティヤが浴槽で手首を切るシーンや、家族で遊びに行った時のビデオで海に父親と入っている息子がカティヤを呼ぶシーンが結末を連想させる。息子のおもちゃのラジコンを容易に修理するメカに強いお母さんぶりを印象づけるのも、後々への伏線になっている。ただ、邦題の『女は二度決断する』ってどうなんや? 2度目の決断はあれやろなと思うけど、1度目の決断が何なのかよくわからない。ちなみに原題の『Aus dem Nichts』は英語で“from nothing”。アメリカ公開時の英題は『In the Fade』。
♡ 邦題はたいがいいまいちのことが多いから、気にしてもしゃーないな。それより私にはすごく気に入ってる場面があって、法廷では「ヒトラー崇拝者の息子が模倣犯になってはいけないと思い通報した」と証言した容疑者の父親に、カティヤが法廷の外で「もし息子の犯行と知っていても通報したか?」と尋ねるところ。父親の目には「やっぱりそこを聞くか・・・」という苦しげな色がよぎるけど、おだやかな表情で「知っていたんだ」と答える。それに対してカティヤの目に、一瞬やけど彼への敬意のような光が射すねん。こうした人々の存在が彼女の救いであり、援護者であるということだけでなく、ドイツ社会の直面する複雑な苦悩が凝縮された印象的な場面でもありました。
予告編
スタッフ
監督 | ファティ・アキン |
脚本 | ファティ・アキン |
ハーク・ボーム |
キャスト
ダイアン・クルーガー | カティヤ・シェケルジ |
デニス・モシット | ダニーロ |
ヨハネス・クリシュ | ハーバーベック |
サミア・シャンクラン | ビルギット |
ヌーマン・アチャル | ヌーリ・シェケルジ |
ヘニング・ペカー | レーツ警部 |
ウルリッヒ・トゥクール | ユルゲン・メラー |
ラファエル・サンタナ | ロッコ・シェケルジ |
ハンナ・ヒルスドル | フエダ・メラー |
ウルリッヒ・ブラントホフ | アンドレ・メラー |