レビュー

人生タクシー(Taxi)

投稿日:2017年4月29日 更新日:

おすすめ度

「人生タクシー」のポスターキット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

キアロスタミ監督の愛弟子にして、カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界3大映画祭での受賞歴を誇るイランの名匠・ジャファル・パナヒ監督。映画製作を禁じられながら、自らタクシー運転手となって厳しい情報統制下のテヘランに暮らす人々の様子をドキュメンタリー風に描く本作で、2015年・第65回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した。反体制的活動を理由に逮捕され、映画監督としての活動を禁止されながら、自宅で撮影した映像をもとに『これは映画ではない』を発表。本作では自ら運転するタクシーに車載カメラを置き、色々な乗客の言動を通じて抑圧されたイラン社会を浮き彫りにしていく。

 

 

言いたい放題

アイラ♡ パナヒ監督は、反体制活動を理由に2010年から20年間の“映画監督禁止令”を受けていて、本来なら映画製作はできない身。2011年の『これは映画ではない』は自宅で撮った映像を収めたUSBメモリを菓子箱に隠して持ち出し、カンヌで黄金の馬車賞を受賞したというのだけれど、その意味では今回もまた体制側の裏をかくような作り方。撮影空間を車という移動型の密室にすれば、演者をとっかえひっかえするのも容易で、いくらでも撮れてしまうもんね!

キット♤ イランではタクシーは相乗りが普通のようで、途中で追加の客を乗せたりするので乗客同士の会話や議論がカメラに収められる。死刑について議論を戦わせる学校の先生と職業不明の怪しい男、交通事故で怪我をして車内で遺言を録画する男とその妻、海賊版DVDのセールスマン、金魚鉢を抱えた2人の不思議な老女、映画監督志望の青年、同じく政府の弾圧を受けているらしい女性弁護士、そして運転手自身の姪っこなどなど・・・。車内空間という限られたスペースを舞台に、乗客が入れ替わり立ち替わり話を紡いでいくというのは斬新やな。

♡ 最初は純粋にドキュメンタリーなのかと思って観ていくんやけど、どうやらシナリオはありそうなのよね。この「実は撮ってま~す、知らんけど・・・」という開き直りぶりには、やるな~と思わざるを得ないわ。

♤ カメラのアングルの切り替わりをみると複数のカメラを使っているのがわかるけど、カットに無駄がなく、次々と話がつながっていくもんな。ドキュメンタリーを装ってはいるけど、実は綿密なシナリオにしたがって撮影した映画とみた。交通事故の夫婦の出現場面や、知り合いの弁護士を偶然見つけたりするとことか、ドキュメンタリーにしては都合よくいきすぎるし。

♡ とはいえ、常にうっすら笑みを浮かべてタクシーを運転する監督の腹をくくった態度は見上げたもんやわぁ。車内の会話は、最初は死刑制度の是非から入って、相続をめぐる女性差別の問題に触れ、やがて国民は観たい映画もろくに観られないこと、表現の自由に相当の制約があること、体制に批判的な者には弾圧があることなど、だんだんシリアスになっていく。

♤ エンドロールみたいなもんはないかわり、映画の最後に、イラン国内での上映許可を申請したが認められなかったというキャプションが入る。おそらく上映不許可は織り込み済みやったんやろな。で、動画データは国外へ持ち出されて2015年のベルリン国際映画祭で「金熊賞」と「国際映画批評家連盟賞」を受賞。こうして日本でも劇場公開されて観ることができる。

♡ 車載カメラは2台ほどかしらね。途中から乗ってくる姪っこのキャノンのデジカメ映像を加えたりして、限られた舞台装置の中で見せ方に変化を出そうとしてる感じやった。それでもほとんどシチュエーションが変わらないので、ちょくちょく睡魔に襲われてしまったけど、ここにはいま見るべきイランの現状がたくさん描かれてる。なのに「身を賭して撮ってます!」という感じには一切せず淡々と作ってはるねん。

♤ 辛辣な体制批判の映画なのかといえば、表現じたいはむしろマイルドやもんな。姪っこが学校の課題で映画を作ってるようなんやけど、イスラムの戒律による面倒くさい制約があると愚痴るところとか、死刑談義の中でイランが中国に次いで死刑執行の多い国であるとか、チクリチクリと批判が織り込まれてはいるけど。

♡ 最後にやはり活動を制約されているらしい女性弁護士を乗せるに至って、かなり具体的でシリアスな政権批判になってはいくのやけどね・・・。

♤ でも主演俳優であり運転手でもある監督がいつもニコニコ、のほほんとしている雰囲気にあらゆるシリアスさがまぎれてしまっている。彼の表情を見てると、イランという国独特の制約を苦にするのではなく楽しんでいるかのように見えてくる。

♡ 例のこまっしゃくれた姪っこが、またぺらぺらよぉ~喋る子で、この可愛らしい子の口から“俗悪なリアリズム”なんて言葉が出て来るの。子役に辛辣な長台詞を与えるという非現実的な演出で、あえて“リアリズム”なるものを逆手にとってるのか、こういうとこうまいよね。彼女が愛用してるノートの表紙がアングリーバードやったの気づいた? 

♤ 海賊DVD屋の品揃えも、ウディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ』やったり、スマホの着メロが『パピヨン』やったり、小ネタを検証してみると面白いかも。

♡ 最初に乗せた客が、降りぎわに自分が車上荒らしだと言って去っていくんやけど、これがラストシーンに帰結するという仕掛けもおもしろかった。あと、金魚鉢抱えて迷信くさいことばっかり言うてたおばあちゃんたち、あれは何やったんやろ・・・。女性弁護士の抱えていた赤いバラの花束にも、監督のいろんな思いがこもっていたんやろなぁ。

♤ テヘランってどんな街かと思ってたけど、意外と活気があったな。簡単には旅行に行けそうにない街の光景を見られたというおまけ付き。ついでなら、観光名所を回ってくれたらもっとよかったのに・・・。

 

 

予告編

スタッフ

監督 ジャファル・パナヒ
脚本 ジャファル・パナヒ

 

キャスト

ジャファル・パナヒ 本人

レクタングル336

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