レビュー

ナチス第三の男(The Man with the Iron Heart)

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キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

The Man with the Iron Heart

第2次大戦下のナチス・ドイツにおいて、ユダヤ人虐殺の首謀者として絶大な権力を手にしていったラインハルト・ハイドリヒ。その冷徹非道さゆえに“金髪の野獣”と恐れられた男の暴走をとめるべく、チェコ亡命政府は2人の若い兵士を暗殺隊としてプラハへ潜入させた。周到に準備し、慎重にその日を待ち続けた末、ついにハイドリヒ暗殺決行の朝を迎えるのだが・・・。ハイドリヒには『ゼロ・ダーク・サーティ』などのジェイソン・クラーク。ロザムンド・パイク、ジャック・オコンネル、ジャック・レイナー、ミア・ワシコウスカらが脇を固める。監督は『フレンチ・コネクション 史上最強の麻薬戦争』のセドリック・ヒメネス。

 

言いたい放題

アイラ♡ 原作は、その力量において多くの作家を驚嘆させ、2010年ゴンクール賞最優秀新人賞を受賞。日本でも2014年の本屋大賞翻訳小説部門第1位に輝いたローラン・ビネの小説『HHhH プラハ、1942年』。ノンフィクションのようでいて、実はナチス高官ハイドリッヒの暗殺をめぐる史実を描くという設定の特異な小説で、歴史小説の書き方について神経質なこだわりを持つ自分自身と対峙しつつ、歴史の細部へ入り込んでいく非凡な作品。既読の人にとっては、どんなふうに映画化されるかが興味の的だったみたいね。

キット♤ 映画の前半は、ハイドリヒ(ジェイソン・クラーク)が女性関係の問題でドイツの正規軍を不名誉除隊になり、情報将校を探していたヒムラーにリクルートされてナチスに入党、そこから幹部へと駆け上がるまでが描かれる。後半は、チェコの副総督となったハイドリヒをを狙う暗殺隊の動静を細かく追っていく。

♡ 相対する当事者を前後に分けて描く構成は原作とほぼ同じ。それを知らないとハイドリヒ側と暗殺部隊側の話を切り離す理由が飲み込みにくいけど、原作の意図への配慮なのでしょう。映画化にあたっては細部を端折らざるを得ないので、膨大な資料に基づいて緻密に構成された原作の味わいは損なわれるけど、後半、レジスタンスへの共感や彼らの勇気を称える作者の思いはしっかり伝わってると感じた。

♤ 前半については、ハイドリヒは最初のうちは優柔不断というか、いまいちシャキッとしていなくて、ナチスへの入党も先に党員になっていた婚約者リナ(ロザムンド・パイク)に背中を押されてのこと。でもその後はヒムラーに気に入られ、持ち前の冷徹さを発揮してキャリアアップしていく。この過程での性格の変化をジェイソン・クラークが好演。最初は毒々しくて強かったリナのほうが、最後には相対的に弱くなってしまったのはなんとなく残念。

♡ 女性関係のだらしなさで出世の道が絶たれるというダメ男やもんね。それが自分の野心を向ける先を見出してから、行き過ぎといっていいほど変わっていく。反対に、妻となるリナの強さは後になるほど影を潜めてしまう。ロザムンド・パイクが『ゴーン・ガール』で見せた、あの不気味な怖さを期待してしまったのかもしれないけど・・・。

 

♤ 違和感を持ったのは日本語のタイトル。なぜハイドリヒが「ナチス第三の男」なのかな。キャッチは「ヒトラーでもヒムラーでもなく・・・」となってるけど、ナチス幹部の序列では、ゲッペルス、ボルマン、ヒムラー、時期によってはヘスの方がどうみても格上で、ハイドリッヒはせいぜい5番目か6番目とちがうかな。原題の「鋼鉄の心を持つ男」はハイドリッヒの葬式でヒトラーが故人をたたえて使った言葉で、3番目という意味はない。日本の配給会社が勝手に付けたようでどうもしっくりこない。

♡ 推測やけど、小説のタイトル『HHhH』は「Himmlers Hirn hei’t Heydrich(ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる)」というドイツ語の単語の頭文字を並べたものなのやそうで、ナチス全体におけるナンバー3という意味ではなく、ヒムラーの直下でその地位を支えた存在として、ヒトラーから数えて第3番目と呼んだのではないかなと思う。知らんけどね(笑)

♤ 後半からはがらりと雰囲気が変わって、ハイドリヒを狙うチェコの暗殺隊をめぐる話になる。イギリスにあるチェコスロバキア亡命政府が送り込んだ亡命チェコ人と、プラハの地下組織が暗殺計画を立てて準備、実行するところは見ていて手に汗を握る。結局暗殺はからくも成功はするんやけど、話はそれだけでは終わらず、ナチスによる執拗な実行犯の捜索が行われ、隠れ家での銃撃戦や女性や子どもまでを巻き込む陰惨な拷問を経て、悲劇的な結末へと続いていく。

♡ 原作でも、後段はレジスタンスへの共感なしに読めないところで、作者がどんどん暗殺者やその協力者たちへの思い入れを強めていく様子がよくわかる。映画化にあたってもそこはずいぶん作用したようで、前半の突き放したように淡々としたハイドリヒの描き方とは一変して、一人ひとりの関係者への敬意が伝わってくる。後半だけを膨らませて映画化する方法もあった気はするけど、ターゲットとなったハイドリヒの人となりあっての話でもあるので、結果として新しい手法でナチスを描いた作品になったと思う。

♤ 教会での激しい銃撃戦を経て、最後に地下に追い詰められた2人が水責めにあって、壁を破って下水道への脱出を試みるところでは、もしかしたら助かるのかもという期待をもたせるんやけど、やっぱり残念でした・・・というのはどうかなと思ったけど。

♡ 史実やから仕方ないやんね。あの教会はいまも銃弾の跡を残したまま保存されているそうなので、機会があったら訪ねてみたいわね。

 

予告編

スタッフ

監督 セドリック・ヒメネス
製作 ダニエル・クラウン
イーラン・ゴールドマン
原作 ローラン・ビネ
脚本 オドレイ・ディワン
デビッド・ファー
セドリック・ヒメネス
撮影 ロラン・タニー
衣装 オリビエ・ベリオ

キャスト

ジェイソン・クラーク ラインハルト・ハイドリヒ
ロザムンド・パイク リナ・ハイドリヒ
ジャック・オコンネル ヤン・クビシュ
ジャック・レイナー ヨゼフ・ガブチーク
ミア・ワシコウスカ アンナ・ノヴァーク
スティーブン・グレアム ハインリヒ・ヒムラー

 

レクタングル336

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