レビュー

ブラック・クランズマン(BlacKkKlansman)

投稿日:2019年3月25日 更新日:

おすすめ度

BlacKkKlansman

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

黒人刑事が白人至上主義団体「KKK(クー・クラックス・クラン)」に潜入捜査をしたノンフィクション小説を『マルコムX』のスパイク・リー監督が映画化。2019年アカデミー賞で作品、監督など6部門にノミネートされ脚色賞を受賞した。カンヌ国際映画祭でもグランプリを受賞。1979年、コロラドスプリングスの警察署に初の黒人刑事として採用されたロン・ストールワース。白人刑事たちから冷遇されるロンは、新聞でみたKKKのメンバー募集に勢いで電話をかけ、なんと入団面接に臨むことに。さすがにロンが行くわけにはいかず、電話応対はロン、直接対面は白人刑事のフリップが受け持つ2人1役で過激活動に対する潜入捜査を開始する。ロンをデンゼル・ワシントンの息子ジョン・デビッド・ワシントン、相棒フリップを『スター・ウォーズ』シリーズなどのアダム・ドライバーが演じる。

 

言いたい放題

アイラ♡ 笑える場面ばかりをつないだ劇場予告をみて、コメディだと思って観ると方向を間違ってしまう。笑いの要素はたっぷり入ってるけど、これは怒れるスパイク・リー監督のダイレクトな政治メッセージ作品。作品賞を取りそこねてご機嫌が悪いもと聞くけど、トランプ大統領への怒りぶりは相当なもの。

キット♤ 物語はKKKの過激活動を捜査すべく潜入を試みるという刑事もの。ただし捜査担当がよりによって黒人のロン(ジョン・デビッド・ワシントン)という意外性が注目点。実際に潜入するのは白人のフリップ(アダム・ドライバー)で、ロンは相手との電話応対を受け持つ。監督がスパイク・リーなので、KKKとブラックパンサー党を対比的に並べたり、さらに映画冒頭に『風と共に去りぬ』の1シーンとポーリガード博士とかいう人の人種差別満載の演説、最後にドキュメンタリー映像を配置することで強い政治的メッセージを込めている。でも本体部分は娯楽映画として楽しめる。

♡ 舞台は70年代後半のコロラド州コロラドスプリングス。この“colorado”という綴りが、ぱっとみて”colored”と読めてしまわなくもないところに何となく監督のいたずら心を感じたのやけど、実際にKKKに会員として潜入した黒人警察官の手記が実話ということなので考えすぎ・・・?。決してコメディではないけど、黒人がKKKの一員となって捜査にあたるという設定がやはり奇想天外で面白い。

♤ 本作はアカデミー賞の脚色賞を獲得。聞くところでは、フリップがユダヤ人という設定は原作にはなく、映画化の際に加えられたらしい。潜入捜査の電話担当と実際に潜入するのとでは、どう考えても後者の分が悪い。それでもフリップが捜査を続ける理由は、KKKが白人至上主義だけでなく反ユダヤ主義を掲げているからということで整合を取っているんだろう。フリップのKKK潜入と並行して、ロンもブラックパンサー党へ潜入するのは2人のバランスを考えたものだろうか?

♡ ロンはほとんど勢いでKKKにコンタクトして、うっかり本名を名乗ったうえ思いがけず入会にまで至ってしまったので、実際の潜入はフリップに頼まざるを得ないのは仕方ないものね。ただ、あれっ?と思ったのは、フリップが黒人アクセントを練習する必要ってあったのかしらね。

♤ せやろ。もっといえば2人で潜入と電話の担当を分ける必要もなく、ぜんぶフリップがやるほうが現実的。潜入捜査ものって、いつ潜入がバレてしまうかというスリルが持ち味やのに、本作では何度か危機はあるもののあんまり緊張感はない。KKK内の過激グループが爆弾を仕掛けようとして失敗するところなんか、コメディ調が強すぎて少し違和感があった。

♡ たしかに肝心のドラマはそれほどスリリングやなかったね。フリップを捜査にかませたのは、あくまでロン自身のヤマとして捜査を続けんがための苦肉の策。爆破計画の顛末も、KKKもっといえば白人たちを貶め気味に描くのが監督の目的でもあるのでしょう。実際、フリップをユダヤ系だと疑い続けている男と、そいつの狂信的で不気味な妻、いつも変な呼吸をしているでぶっちょ男など、過激派メンバーには異常なメンツが揃いすぎ。それに対して最高幹部のデビッドはごく普通のビジネスマンのような外観。KKKの実態ってほとんど知らないけど、実はいろんなタイプの人間が結集してるのを感じさせた。

♤ 彼らは「アメリカ・ファースト」と最近も聞いたようなスローガンを叫び、黒人活動家たちは「ブラックパワー」を叫ぶ。そういえば、若い黒人活動家たちに白人の非道ぶりを語り継ぐ古老の役として大物歌手が出演してたな。

♡ ここの対比は明快やったね。『マルコムX』の監督だけに、当時の黒人パワーのエネルギーはクワメ・トゥーレという指導者のスピーチの場面などによく再現されてたし。あと、黒人活動家たちが開くパーティーが当時流行っていた“Soul Train”のスタイルで、みんなで”Too Late to Turn Back Now”を踊るシーンは楽しくて、思わず一緒に歌ってしまったわ。

♤ 主演のジョン・デビッド・ワシントンはデンゼル・ワシントンの長男。NFLのラムズの選手として活躍した後に俳優に転身。パートナーの刑事フィリップを演じるアダム・ドライバーは、『スター・ウォーズ フォースの覚醒』の印象が悪すぎたけど、その後は『パターソン』はじめ堅実な演技を見せて評価上昇中。本作ではアカデミー助演男優賞にノミネートされた。

♡ アダム・ドライバーはよかったね。図らずもユダヤ系としてのアイデンティティに悩むこととなり、しかしそれを表に出さないという役柄で、彼の演技は他を圧倒してたと思うし、脚本的にもこの部分が実にいい。ただドラマ部分だけで終えることもできたのに、リー監督は最後に衝撃的なニュース映像を入れてメッセージのダメ押しをした。まるでマイケル・ムーア作品さながらで、政治的主張が強すぎという見方もあるやろけど、「黒人の俺が作った映画や!」という姿勢は受け止めるしかない。それほど監督の怒りが伝わる作品ではありました。

 

予告編

スタッフ

監督 スパイク・リー
製作 ジョーダン・ピール
脚本 チャーリー・ワクテル
デビッド・ラビノウィッツ
ケビン・ウィルモット
スパイク・リー

キャスト

ジョン・デビッド・ワシントン ロン・ストールワース
アダム・ドライバー フリップ・ジマーマン
ローラ・ハリアー パトリス・デュマス
トファー・グレイス デビッド・デューク
ヤスペル・ペーコネン フェリックス
コーリー・ホーキンズ クワメ・トゥーレ
ライアン・エッゴールド ウォルター・ブリーチウェイ
ポール・ウォルター・ハウザー アイヴァンホー
アシュリー・アトキンソン コニー

 

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