レビュー

フェンス(Fences)

投稿日:2017年10月22日 更新日:

おすすめ度

Fences

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

デンゼル・ワシントンの3作目となる長編映画監督作品。原作はアメリカの劇作家オーガスト・ウィルソンの戯曲『フェンス』。ピューリッツァー賞などを受賞した名作で、デンゼルは2010年にリバイバル上演された舞台版で主演。トニー賞主演男優賞の受賞を機に自ら本作を映画化するとともに製作、主演も兼ねる。妻のローズ役には、ブロードウェイの舞台でも共演したビオラ・デイビス。舞台は1950年代の米ピッツバーグ。元プロ野球選手でいまはゴミ収集員として働くトロイと妻、息子たちと周囲の人々を描く。第89回アカデミー賞では作品賞など4部門でノミネートされ、ビオラ・デイビスが助演女優賞を受賞した。

 

言いたい放題

キット♤ デンゼル・ワシントンが珍しく悪い人の役やな。

アイラ♡ 悪役ってわけではないけど、家族のなかではあまりに独りよがりで厳格、というかすべてに高圧的すぎて家族の崩壊を招いてしまう偏った人格。原作は戯曲ということなので、大仰な長セリフの多さ、登場人物や場面転換の少なさなどに舞台劇っぽさを感じたわね。

♤ 主演はデンゼル・ワシントンと本作でオスカー(助演女優賞)を獲得したビオラ・デイビス。舞台でも共演しているので、勝手知ったる余裕の演技というところか。原作と舞台に忠実に映画化したとのことで、たとえば冒頭のトロイ(デンゼル)、ローズ(ビオラ)、長年の友人ボノ(スティーヴン・ヘンダーソン)の3人の会話シーンは台詞の連続でほとんど途切れない。その8割はデンゼルが喋り続けている感じ。トロイが自分の過去を息子たちに語るシーンも多分に説明的で、ちょっと違和感を抱くところもあったけど、それも含めて原作と舞台を尊重しているのだろうと思う。

♡ 主役のトロイは、少年期に悪辣な父親から逃れるように都会に出てきて、苦労しつつも一度はメジャーリーガーへの道も開けかけたほどの経歴の持ち主。字も読めず運転免許もないけど、いまは街の清掃局で真面目に働き、週給の出る金曜日に家で酒を飲むのだけが楽しみという実直な男。妻に頼まれて、家の周囲に木造のフェンスを作っている。

♤ ところが話が進むにつれ、このトロイという父親がかなり屈折した人物であることがわかってくる。決して家族に暴力をふるったり金にだらしないわけではないが、息子たちにはきつい言葉で恐怖を与え、精神的に痛めつけて彼らを押さえ込んでいる様子。そんなトロイに手を焼きながらも、妻のローズは彼の性格を受け止めて、給料だけはまるごと取り上げきっちり尻に敷いているところが面白い。

♡ トロイは、音楽に才能のある前妻との息子と、高校のフットボールで活躍するローズとの子に対し、とにかく高圧的で否定的な態度を取り続ける。黒人であるために道を閉ざされ続けてきた自分と同じ経験をさせたくないといいつつ、そこにはチャンスをつかみかけている息子への嫉妬も垣間見える。「子を養うのは好きだからではなく、父親の責任を果たしているだけ」とまで言い放つトロイに、次男は憎悪さえ抱くように・・・。そんななかで息子たちを支えるローズの精神的な存在感がたくましい。

♤ 妻のおかげで微妙なバランスで成り立っていた家庭やけど、トロイの浮気事件でおかしくなってしまう。それでもトロイの高圧的態度は変わらないのは見上げた悪おやじ。

♡ デンゼル・ワシントンの熱演はすごいね。彼は“死神との戦い”というものに取り憑かれていて、それがトロイのエキセントリックさの背景にあるんやけど、精神を病みそうなぎりぎりの心理表現は舞台劇由来の醍醐味やなぁと思ったわ。それ以上に、夫から浮気の告白を受けたヴィオラ・デイヴィスの演技が圧巻。耐えに耐えてきたものを一気に爆発させたい思いと理性で抑制したいせめぎ合い。あの場面はオスカーに値する。

♤ タイトルにもなる『フェンス』は、トロイが死神から家族を守るために作るものとして象徴的に使われるけど、嫉妬のため息子たちの成功を邪魔する父の行動は息子たちにとって「フェンス」であり、トロイが自身の嫉妬心に目を向けず心を閉ざしてしまっているのも「フェンス」であるかもしれないな。

♡ 大きな嵐が去ったあとの静けさを描いて終わるラスト。無垢さの象徴であり、戦傷による障害を持つトロイの弟は、鳴らないトランペットで聖ペテロが番をする天国への門を開く。新味はないけど、すがすがしいエンディングやった。個人的には『ムーンライト』も叙情的な文芸作品として高く評価してるけど、作品賞は『フェンス』でもよかったのでは?と思うほど。

♤ にもかかわらず、本作は日本では劇場公開されず、DVDのみでの発売。amazonなどのストリーミングでも観ることができるが、こうした作品が日本の興行システムにマッチしないのは残念やな。

♡ それほど洋画は興行的に苦労しているということのようやね。文芸系のミニシアターなら必ず満員できるほど力のある作品やけど、上映館数は限られてる。オスカー受賞作となると買い付けにもお金がかかり、それだけでは回収できそうにないという打算が働いたものと思われ・・・。なんとも残念やね。

 

 

予告編

スタッフ

監督 デンゼル・ワシントン
脚本 オーガスト・ウィルソン

キャスト

デンゼル・ワシントン ローズ・リー・マクソン
ビオラ・デイビス トロイ・マクソン
スティーブン・ヘンダーソン ジム・ボノ
ジョバン・アデポ コーリー・マクソン
ラッセル・ホーンズビー ライオンズ・マクソン
ミケルティ・ウィリアムソン ガブリエル・マクソン
サナイヤ・シドニー レイネル・マクソン

レクタングル336

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