レビュー

ジョーカー(Joker)

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おすすめ度

Jokerキット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.5 ★★★★☆

「バットマン」のヴィラン。道化師のメイクを施した狂気のキャラクター“ジョーカー”誕生の物語を、DCコミックスにはないオリジナルストーリーによって描く。緊張すると笑いが抑えられなくなる障害をもつアーサーは、大道芸人として生計を立てながらコメディアンとして夜に出る日を夢見てもいたが、あることを境に狂気に満ちた悪の体現者へと変貌していく。ジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレット・レトなどが演じてきたジョーカー役にはホアキン・フェニックス。監督は『ハングオーバー!』シリーズなどコメディ作品で知られるトッド・フィリップス。第79回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、DCコミックスの映画化作品としては史上初めて、最高賞の金獅子賞を受賞した。

 

言いたい放題

キット♤ ジョーカーはDCコミックの『バットマン』に登場するヴィラン(悪役)。過去にはジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレッド・レトが演じてきたが、いずれもバットマンの敵役としての登場であったのに対して、本作はジョーカーを主人公に据え、バットマンは登場しない。バットマン以前の時代が舞台で、やがてバットマンとなるブルース・ウェイン少年が数シーン登場するのみ。

アイラ♡ バットマンの世界観につながっていくとはいえ、本作はDCコミック原作ではなくまったくのオリジナルストーリー。後にバットマンの物語の重要なモチーフとなるブルース・ウェインの両親殺害事件さえ、そのディテールまできちんと描いておきながら、基本的には“ジョーカー誕生”に絞った物語であるという点で、DCからのスピンオフというよりひとつの独立した作品よね。そして色々な意味でなかなかヤバい作品。

キット♤ まず主演のホアキン・フェニックスやな。過去のジョーカー役では『ダークナイト』でのヒース・レジャーの渾身の演技が群を抜いていて、これを超えるのは難しいのではないかと思っていた。が、アーサー・フレックという男が“ジョーカー”になるに至るまでを描く本作で、ホアキン・フェニックスは強烈な個性を発揮して新しいジョーカーを見せてくれた。アーサーが映らないシーンはほとんどなく、ホアキン・フェニックスを観る映画といっても過言じゃない。この俳優が好きか嫌いかで評価が分かれるかもしれない。

アイラ♡ 舞台はバットマンシリーズと同じく、ニューヨークのパラレル世界と思われるゴッサムシティ。老母を抱え、大道芸人として生きる彼に良いことはひとつも起きず、常に耐え難い悲しみと絶望のなかにいる。冷淡な社会とそこで苦悩する主人公・・・という図式はある意味とてもわかりやすいわけやけど。

キット♤ たしかに上流階級と下層階級との分断、家庭内暴力、子供の虐待なども描かれていて、現代社会への警鐘などという解釈も成り立たないわけじゃない。でもそんなことよりも、この作品の本質は何といってもホアキン・フェニックスが演じるジョーカー自身。

アイラ♡ 障害を嘲笑され、尊厳がずたずたになり、精神が参っていくにつれて妄想が出現し、行動が暴走しはじめ、ついに新しい人格としてのジョーカーが誕生していくまでの流れに、共演のロバート・デ・ニーロの『タクシードライバー』を連想するという声も多いね。実際、喜劇畑出身のトッド・フィリップス監督やけど、同作から影響を受けていると語っているらしい。

キット♤ 地下鉄で最初の殺人を犯し、アパートへ戻った後にバスルームで踊る。太極拳を思わせる足の運びとゆったりとした動きで、アーサーが何か違うものへ変貌しつつあるのを見せるところがなかなか良い。ラスト近くの階段でのダンスシーンは過去の作品で見知ったジョーカーの服装とステップで、ここも見どころ。

アイラ♡ 服を脱いだときの歪んだ裸体とか、心身ともに醜悪になっていくアーサーを執拗に見せつけていくんよねぇ。お馴染みのジョーカーの出で立ちに身を包み、最後の仕上げとばかり人の血を指に塗って裂けた口の形を描いた瞬間は、なんともいえぬ胸の震えを覚えてしまったわ。少なくとも、ホアキン・フェニックスは確実にひとつのジョーカー像を確立したといっていいと思う。

キット♤ 監督のトッド・フィリップスは脚本も書いていて、ジョーカーには最初からホアキン・フェニックスを想定してして書き込んだというから、監督のイメージ通りの映像になっているんやろな。ストーリーは一見シンプルやけど脚本自体はけっこう複雑で、どの部分が真実で、どの部分が想像なのか視聴者に考えさせるというか惑わせるようなところがある。

アイラ♡ そうやね。妄想と現実の境目をあえてぼやかしてる。だからジョーカー誕生物語とはいえ、依然として彼がそうなった理由はクリアに示されているわけではないというのも本作の面白いところ。

キット♤ デ・ニーロ演じるマレー・フランクリンのテレビ番組の公開録画を観に行ったアーサーが、フランクリンに呼ばれてステージへ上がるシーンは明らかに現実ではなくアーサーの想像というか妄想。アパートの同じ階に住む子連れの女性ソフィーの部屋に侵入した後に、彼女を殺したかどうかは明示されないが、彼女と恋人関係になっていたその前のシーンがアーサーの妄想だとすれば彼女は殺されていたと考える方が筋が通る。

アイラ♡ 精神性の崩壊を描いていく部分なので、そこでは何でも起こり得る。我々はときに客観的に、ときにはアーサーの視線からスクリーンを観ることになって、あれっ?という思いとともにラストを迎えていくので、後半は終始翻弄されていく作り。そこはかなり凝ってるよね。

キット♤ あと、ゴッサムシティの風景、地下鉄の落書きなどの映像がなかなかええよな。ホアキン・フェニックスがピエロの衣装でクラッシックなバスの窓ガラスにもたれているのを外から撮った映像とか、後半で同じバスの最後列の真ん中に座って背景が流れていく映像とか工夫を凝らしていると思った。

アイラ♡ 注目したいのが、フランク・シナトラなどの古いヒットチューンが多用されているところ。ところがジョーカーがパトカーで連行されていくシーンにクリームの“White Room”がが使われ、ここだけ異様さを放つ。「黒いカーテンの白い部屋。黒い屋根の国。二度と太陽の輝かない場所・・・」という絶望的な歌詞が並ぶ曲が流れ、なんとジョーカーは病院の白い部屋の中にいる。そして明示はされないけれど、カウンセラーを手にかけたのかもしれないという微妙な終わり方をするラスト。なかなか人を喰った作品かも・・・という気がしてます。

 

予告編

スタッフ

監督 トッド・フィリップス
製作 トッド・フィリップス
ブラッドリー・クーパー
エマ・ティリンガー・コスコフ
製作総指揮 マイケル・E・ウスラン
ウォルター・ハマダ 他
脚本 トッド・フィリップス
スコット・シルバー
撮影 ローレンス・シャー

キャスト

アーサー・フレック/ジョーカー ホアキン・フェニックス
マレー・フランクリン ロバート・デ・ニーロ
ソフィー・デュモンド ザジー・ビーツ
ペニー・フレック フランセス・コンロイ
ギャリティ刑事 ビル・キャンプ
バーク刑事 シェー・ウィガム
トーマス・ウェイン ブレット・カレン
ランダル グレン・フレシュラー
ゲイリー リー・ギル
アルフレッド・ペニーワース ダグラス・ホッジ
ブルース・ウェイン ダンテ・ペレイラ=オルソン

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